グローバルで新事業創造に取り組む旭化成に学ぶ、日本企業の価値創造力を高める上での勘所


2018年12月に開催された「SAP Leonardo Now Tokyo」からSAPジャパンのチーフイノベーションオフィサー 首藤聡一郎がホストしたセッション「日本企業の価値創造力を高める上での勘所」にて行われた事例講演の要旨をレポートします。

旭化成が取り組む低炭素社会の実現に向けた「グリーン水素」エコスステム

旭化成ヨーロッパ クリーンエネルギープロジェクト 欧州地域マネージャーの奈木野豪秀氏は、低炭素社会実現に向けた同社の取り組みと、それを支える技術やソリューション、さらには新しいエネルギーエコシステムを解説。まさに旭化成が掲げる「昨日まで世界になかったものを。」というグループスローガンを体現した内容でした。

Germany --- Wind Turbines and Solar Panels, Solar Energy, Wind Energy, Fuel and Power Generation, Photovoltaic Panel,  --- Image by © Ocean/Corbis

旭化成ヨーロッパはドイツのヘルテン州において、再生可能エネルギーに関する実証実験のプロジェクトを始めています。ドイツが取り組む今世紀半ばまでに電力の80%を再生可能エネルギーで賄うという目標の下、クリーンな環境エネルギー社会の実現に向けて、水電解を中心としたグリーン水素関連のビジネスの事業化を推進するという取り組みです。同社がこのプロジェクトを始めた背景には、40年以上の歴史を有する旭化成のイオン交換膜法食塩電解事業で培った技術を基に開発された、高効率/低コストで水素を製造する、且つ製造時にCO2を発生させないアルカリ水電解システムの存在があります。

水素は、化学プラントなどのインダストリー系、ヒーティングのための燃料、電気への変換、さらに交通用としても使われ、多様な用途と需要があります。しかし現状の水素製造は、その多くが天然ガス由来であり、生成時に大量のCO2が発生します。これに対して、旭化成が取り組むグリーン水素は、太陽光、風力、水力などの再生エネルギーをベースに、水電解システムで水素と酸素を製造、貯蔵して、トレーラーや既存のパイプラインを使ってアプリケーション側に運ぶといったものです。この方法であれば一切CO2が発生しない「グリーン水素」となります。

さらに余剰電力を蓄えるという観点からみると、大容量の電気を長期間蓄電することは難しいため、需要のない時間帯は風車などの発電施設を止めて生産量を調整しています。しかし、電力を水素に変換して、その水素を蓄積することで長期間の保存が可能となります。例えば余剰電力が生まれる夜間にその余剰電力で水素を生産したり、夏期に生成した大量の電力を水素として蓄積し、冬期にヒーティングとして使うこともできます。

旭化成はグループとして国内外のクリーンエネルギープロジェクトに参画しており、日本でも福島県相馬市の「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」、同県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」でのグリーン水素の生成といったプロジェクトも進んでいます。

旭化成スライド

※旭化成グループが日本とドイツで取り組むグリーン水素プロジェクト

テクノロジーの活用による運用の安全性担保とコストの最適化

アルカリ水電解システムの安全性の担保、運用コスト削減を図るため旭化成が検討を進めているソリューションには、最新のテクノロジーが活用されています。安全性の担保には、遠隔監視システムや予防保全の仕組みの導入を進めています。また、欧州の電力市場は時間によって電気代が変動することから(ドイツでは15分間隔で価格が変動)、グリッド経由で電力市場から電力を購入する場合、コスト予測を活用すると調達コストを大きく削減することが可能です。

旭化成では、水素生成コストの6~7割を占める電力調達コストを最小化するため、IoT、マシンラーニングなどを駆使して過去の電気料金、発電量などから電気料金の変動を予測し、最適な稼動計画を立案。旭化成が既に持つ技術とノウハウに加え、SAP Leonardoのマシンラーニングやクラウドテクノロジーを活用した実装を進めています。また、ユーザー視点に立った事業を実現するためにSAPのデザインシンキングメソッドも継続して取り入れていきます。さらに、事業全体を通じて最重要となるのはプラットフォームを確立することであり、そのためにはSAPのようなパートナーとの連携が、立上げも早く効果的であると奈木野氏は強調しました。

「大事なのはこの事業をサプライチェーン全体としてSustainable(継続可能)なものとすることです。そのためにはコストやベースとなるサプライチェーン全体の最適化が不可欠となりますが、これを当社だけで実現することは不可能です。SAPなどと協業しながら、エンドユーザーにとって有益な水素エネルギープロジェクトを推進していきたいと考えています」と奈木野氏は締めくくりました。

奈木野氏

※講演後にセッションホスト SAP首藤の質問に答える奈木野氏

関連リンク:これからのグローバル化の意味について雑誌WIREDの取材に答えるSAPの首藤