経営層から現場まで誰もが必要なデータにアクセスできる情報基盤により意思決定を支援


2018年12月、SAPのイノベーション戦略の全貌を紹介する「SAP Leonardo NOW Tokyo」が開催されました。今回は「データを民主化する ~インテリジェントエンタープライズに向けて、いま、DX基盤を見直す~」と題したセッションから、SAPの考えるDX(デジタルトランスフォーメーション)のありかた、そしてインテリジェントエンタープライズの先行例ともいうべき、大和ハウス工業株式会社の事例発表を紹介します。

講演するSAP椛田

SAPの考えるDXと「インテリジェントエンタープライズ」

セッション冒頭に登壇したSAPジャパンのプラットフォーム事業本部 SAP HANA CoE シニアディレクター 椛田后一(写真)は、DXを「今の時代に合った仕事のしかたを、デジタルの力で変革していくこと」と定義します。

具体的には、企業のあらゆる活動を可能な限りデジタル化し、AIやマシンラーニングなどの最新技術を駆使してさまざまなタスクの自動化を図り、その結果、真の価値を生む創造的な仕事に人が注力できる仕組みを実現すること。これをSAPでは「インテリジェントエンタープライズ」として提唱しています。

インテリジェントエンタープライズは、大きく以下の3つの要素で構成されます。

  1. インテリジェントスイート:ベストプラクティスをパッケージ化して、サービスやプロダクトとして提供されるもの
  2. インテリジェントテクノロジー:DXを推進するのに有効なAIやマシンラーニング、IoT、アナリティクス最新の技術群
  3. デジタルプラットフォーム:大量のデータを管理し、活用するための基盤

さらに、新しく発表されたデジタルプラットフォームであるSAP HANA Data Management Suiteについても紹介しました。さまざまな場所から生成され、膨大な量に達している多種多様なデータを確実にハンドリングするには、高いデータ処理能力と活用機能が不可欠です。SAP HANA Data Management Suiteは、ビッグデータをビジネスの成長資産として活用するための基盤を提供し、企業のインテリジェント化を強力に支援するソリューションです。

講演後質問に答えるダイワハウス加藤氏とSAP椛田

この中でも、いわば「ビッグデータのオーケストレーションツール」ともいうべき存在がSAP Data Hubです。クラウド上のビッグデータやストレージなどから収集した膨大なデータをSAP HANA上に集約して一元管理。リレーショナルデータから非構造化データまでのあらゆるデータ処理やオーケストレーション、計算処理を可能にし、DXプラットフォームと外部データソースの連携を支えます。

「データの民主化」を阻む3つの壁

日本企業におけるDX推進で問題となるのが、経営層から現場まですべての人が、業務に必要な最新の情報にアクセスする仕組みがないことです。誰もが必要に応じて自由にデータを活用できる環境の不在=いわば「データの民主化」促進の壁が存在する原因として、下の3つの要素があると椛田は指摘します。

  1. 業務部門(LOB)側のデータを活用する意識:データを見る、活用する、判断する、他部門と共有する意識が薄い
  2. LOBと情報システム部門との壁:コミュニケーション不足などの幾つかの要因により、情報システム部門は現場のデータ活用の具体的なイメージがつかめず、新しいデータ活用のアイデアを提案しにくい
  3. バッチ処理から抜けられない:バッチ処理に慣れきって「1日前のデータで十分」と、リアルタイム処理をあきらめている

すなわち、DXの推進を妨げているのは、テクノロジーよりも人の考え方、コミュニケーショや組織づくりといった要因といえます。大和ハウス工業は、そうしたソフト面での改革を強く意識し、全社一丸で取り組むことで、大きな成果を挙げています。今回、大和ハウス工業に講演いただいた理由を、椛田は「日本企業にとってのDXの阻害要因の克服に前向きに取り組み、大きな成果を挙げている好例として皆様にぜひ着目いただきたい」と説明します。

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迅速な意思決定を支援する大和ハウス工業グループの経営基盤システム

続いて、大和ハウス工業の情報システム部 管理系基盤グループ グループ長 加藤 純氏(写真下)から、「迅速な意思決定支援、現場での働き方改革に向けて」と題して、目的実現のためのツールとしてのシステム活用とその根底にある同社の考え方と取り組みについてご講演いただきました。

ダイワハウス加藤氏

同社では2012年にSAP ERP導入し、現在では国内の大和ハウスグループの会計領域の80%以上、人事領域の70%にのぼる情報をSAP ERPで管理しており、グループの根幹を担う経営基盤システムとして稼動しています。2018年からは海外拠点にてSAP S/4HANA Cloudを導入しています。

SAP HANAについては、2013年に導入・検証を開始し、2015年より本格的に業務利用を開始しました 。現在は、SAP HANA2へのバージョンアップ計画を進めています。 同社のポリシーとして、パッケージ製品の最新機能のメリットを活かして、迅速に業務改善を実施し、短期にシステムの高度化を実現するために、SAP製品のバージョンアップに対しても積極的に取り組んでいることは、IT部門としての意識の高さと先進性を表してます。

情報基盤開発のロードマップを共有し、社内の意識統一と実践へ

大和ハウス工業では、自社のDXの未来像として、「経営環境の不確実性が高まる状況においても、さまざまな地域・部門・改装でのスピーディーかつ正しい意思決定が実現している」ことを挙げます。国内、海外で急速に事業展開を進める中で、変化のスピードに確実に対応できる情報基盤の構築が必須要件となっていました。

そのため同社では、契約や発注管理などあらゆる情報を、社内のさまざまな基幹業務システムからリアルタイムで収集/分析/可視化し、経営把握から経営判断、未来予測までを可能にする情報基盤をSAP HANAによって構築することを決意。実現までの道程として2019年から2023年までの「あるべき未来へのロードマップ」を作成しました。

「この計画の実現にはSAP HANAというツールも不可欠ですが、それにも増して重要なのは、経営・業務・情シスが全員でこのロードマップを共有し、ゴールを思い描きながら組織一丸で取り組んでいく姿勢です。この意識統一と実践のための体制づくりを何よりも重視しています」

「加えて、グローバル経営基盤としての側面も重要です。グループ内のすべてのデータを一元管理し、国内はもとより海外拠点にもクラウドによる迅速なシステム展開を可能にするとともに、世界中の経営情報をリアルタイム分析し、タイムリーな経営判断を実現できることを目指しています。 」(加藤氏)

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提案型のIT部門への変革、さらに現場ユーザーの働き方改革をリード

IT部門として、新たな取り組みを推進してきましたが、着実に成果が目に見える形で現れてきました。 社内開発体制を整えながら、ユーザー部門と一体となったアジャイル開発も試みて社内の経営報告システムを一新。ユーザーからもすぐに最新データを使えるようになった、データの入力そのものが楽になり、業務のスピードがアップしたなどの評価が寄せられ、システム改善が業務改善に寄与していること をユーザー自身が実感しています。

また、情報システム部門から中期的構想を意識した分析ツールの構築を提案し、BIツールでプロトタイプを提示していく中で、データの見せ方を工夫したレポート形態や地図情報と併せた直感的な分析画面の提案など、「提案型のIT部門」への変革を推進しました。ユーザー部門だけでは発想が難しい、IT部門ならではの最新ITを駆使したシステムの高度化を実現しています。 更には、SAP Fiori を導入して、SAP HANAに集約したデータを直感的に見せる最新技術に対応すると共に、各事業所ユーザーからのアンケートに基づいて1つ1つタイル作成していく事で、現場ユーザー主体での働き方改革に繋げていきました。

提案型、ユーザーとの一体型のシステム構築を意識した結果、ユーザー部門においても、情報を見える化し、活用していく意識が非常に高まってきました。

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加藤氏は、テクノロジーの変化に目を奪われることなく、自社のビジネスにおいて何を考え、何を実現していくかといったビジョンの大切さを強調。「一企業や個人の力は非常に小さいけれど、みんなが団結できれば非常に大きな力になります。日本企業がグローバルで存在感を発揮できるよう、皆さんと一緒に考え、歩んでいきたいと願っています」と述べ、セッションを終えました。

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講演後に質問に答える大和ハウス工業 加藤氏とSAP椛田