フェアトレード実現に向けた最新テクノロジーの活用:ブロックチェーンによるサプライチェーン管理の有効性


IoTやマシンラーニング、ビッグデータといった先端技術を基幹システムのデータと組み合わせてイノベーションを推進するSAP Leonardoソリューション。今回は、ブロックチェーンを活用して、サプライチェーン全体のヒト・モノ・カネの動きを管理する取り組みについてご紹介します。

サプライチェーンの可視化に最新テクノロジーを活用するという取り組みの背景の1つに、グローバルでのフェアトレードへの関心の高まりがあります。2015年に国連でSDGs(Sustainable Development Goals)が採択されたこともあり、この動きはさらに加速。フェアトレードの実現には不公正な商取引の排除に向けたサプライチェーンの可視化が欠かせません。SAP ERPをはじめとする基幹システムは、さまざまなトランザクションの可視化で大きな成果を上げてきました。しかし、可視化の範囲は自社が関係するサプライチェーンの一部に留まり、生産工程を原材料まで遡ったり、労働環境や流通過程を詳細に把握することまでは困難でした。

そこでSAPは、取引の全データを分散型台帳で一元管理し、過去に遡って詳細に把握できる手段として、ブロックチェーンに着目。SAP Leonardoソリューションの1つとしてブロックチェーンサービスを提供し、台帳データを取引メンバーのみで共有してセキュリティを担保するプライベートな「コンソーシアム型」ブロックチェーンにより、サプライチェーン全体の可視化を推進しています。

柱となる活動は、①ブロックチェーン領域の専門家とステークホルダーの総勢5,500名のメンバーによるオンラインでの「エンタープライズブロックチェーンコミュニティ」、②SAPが進行役となり、各業界45社のお客様とワークショップ形式でユースケースについて議論し、知的財産などの成果物を共有する「ブロックチェーンコンソーシアム」、③知的財産権はSAPが保有し、95社のお客様と共同での検証作業を進める「共同イノベーションプログラム」、④既存SAPソリューションへのブロックチェーン拡張機能の先行提供の4つです。すでに大量のデータ処理に長けた「マルチチェーン」によるサプライチェーン管理や、分散台帳である「HyperLedger」による国際貿易管理、処理の整合性確保のための「Quorum」による取引監査など、いくつも成果を上げています。

ハイテク業界:輸出入書類データを一元化し配送状況も共有

SAP Leonardoにおける最新の取り組みとして、共同イノベーションプログラムでの3つのユースケースを紹介します。1つ目はハイテク分野のコンソーシアム。PCメーカーのHPE、メキシコやシンガポールでPCを受託生産するFLEX、受託先にチップを納入するインテル、PCを販売するコストコ、PCやチップの輸送を担当するUPSが参加したPoCです。

これらの企業が参加するサプライチェーンは極めて入り組んでいます。コストコの発注を基にHPEがチップを発注し、UPSがインテルからメキシコや中国のFLEXの工場に配送します。FLEXの工場でPCを組み立てた後は、再度、UPSがコストコの店舗まで配送し、プロセス完了までには輸出入手続きが幾度も介在します。そこで課題となっていたのが、通関手続きに膨大な書類が必要となること、関係各社での管理徹底の不備により納品に遅れが生じてしまうことです。

PoCではPCの組み立てから配送完了までの各プロセスで、事前出荷情報や船荷証券など、通関用の書類を電子化してブロックチェーンに記録し、専用アプリで関係者が確認できる環境を整えました。既存のEDIやデータベースではデータの規格などの違いから、その実現は極めて困難だったそうです。結果、書類に起因する納期の遅れが一掃されるとともに、配送状況のリアルタイムでの可視化も実現しました。加えて、膨大な書類の管理とやりとりの手間も削減されたことで、事務コストも大幅に削減されています。

現在もサプライチェーンのさらなる可視化に向け、UPSやインテルなどと共同で、関係プロセスの見極め作業が続けられています。また、米国やシンガポールなどの税関当局と、ブロックチェーンによる通関手続きのペーパーレス化の協議も開始。承認後には通関日数は約15日から5日まで短縮される見込みです。

図版掲載案:キム氏発表資料スライド15

図版掲載案:キム氏発表資料スライド15

製薬業界:共有データの適切な見極めが取り組みを加速

2つ目は、2017年9月から大手製薬メーカーのメルクなどが中心になって開始、今では武田薬品工業など15社が参画している製薬業界での返品対応のPoCです。

米国では、医薬品卸会社が流通する薬の97%の配送と、医療機関からの返品対応を行っています。返品された薬の扱いは「廃棄」「返品」「再販」の3つですが、振り分けの判断には薬の有効期限や出荷日、返却日などの情報が必要になるため、卸会社側でデータ入力のほか、薬の安全性を担保するための関係書類の作成、収集、管理など多くの事務作業が生じていました。

この点を踏まえ、PoCでは製薬会社がブロックチェーンに薬のIDや有効期限を登録し、出荷後は薬の移動ごとに卸会社がタイムスタンプを追加する仕組みを新たに整備。併せて、バーコードをスキャンすることで薬の過去の履歴を遡って確認できるアプリを開発することで事務作業を一掃しました。全米最大の調剤薬局チェーンのマッカーソンでは、これをさらに推し進め、薬と履歴データとの突き合わせによる返品対応の自動化も実現しています。

サプライチェーン全体で生まれる情報の中には、個人情報や競合他社に知られたくない機密情報も数多く含まれます。そのうち、どれを共有するかの関係者間での適切な合意が、より多くの企業の参加を促すうえで鍵を握ります。今後は消費者向けアプリケーションを公開し、偽薬や不正な流通を防止する活動も計画されています。

食品トレーサビリティ:適正調達を証明するタグでフェアトレードを推進

3つ目が、ケロッグやキャンベルなどの食品メーカーや物流会社などが参加する、原材料の生産者から小売店頭までの食品トレーサビリティのPoCです。取り組んだ課題は、商品を低温に保ったまま配送するコールドチェーンやリコール対応での廃棄ロスの削減です。

コールドチェーンでは温度管理など配送過程のミスに起因する商品の品質低下によって、またリコール対応では鳥インフルエンザなどの事件によって廃棄ロスが発生します。ただし、従来は客観的な証拠が示せないために、品質に問題ないと思われる商品も少なからず廃棄されていました。ブロックチェーンで個々の商品の配送過程をより詳細に可視化することで、配送ミスや事故の発生時においても、影響範囲をより厳密に特定できることで廃棄ロスの削減につながります。

その一環として2018年末まで実施予定のマグロを対象としたPoCでは、フェアトレードの実現に向けた新たな施策も盛り込まれました。具体的には、適正な価格で買い取ったことを証明するタグをマグロに括り付け、各タグに割り振られたIDを基に配送情報をブロックチェーンで管理し、調達の妥当性と流通過程を証明します。スターバックスも同様の手法でフェアトレードの実現に取り組んでいます。

食品トレーサビリティでは“個体”の識別が欠かせず、その手法としてタグ以外にも、DNA情報や位置情報、タイムスタンプなどの検討がPoCで進められています。食品の価格帯を踏まえたそれらの使い分けや、サプライチェーン全体でのコスト負担の最適化などを通じ、フェアトレードへの生産者の参加意欲をどこまで引き出せるかが、今後の実用化に向けた鍵となります。

図版掲載案:キム氏発表資料スライド26(部分)

図版掲載案:キム氏発表資料スライド26(部分)

ブロックチェーンは業界の内外を問わず、企業間での密な情報連携で力を発揮する技術といえます。さらなるイノベーション創出に向け、多様な議論で生み出されるアイデアには無限の可能性があります。SAP Leonardoソリューションを通じてSAPはこれからも多くの業界でのイノベーションに取り組んでいきます。