前向きな議論がイノベーションを生む – ライオン、パナソニックも活用するデザインシンキングの最前線


今やデザインシンキングは、新ビジネスや商品開発、町興しなど、幅広い分野の新たなアイデア獲得のための実践的手法として利用されています。BSテレビ東京で放送された「田村淳のBUSINESS BASIC」では、2019年1~2月の5週にわたってデザインシンキングを解説。身近なテーマを題材に、一般の方がデザインシンキングを体験するワークショップのレポートを交えて、楽しみながら理解を深めることができる番組となりました。同番組にはSAPジャパン 代表取締役社長の福田譲も参加し、デザインシンキングのビジネス活用について紹介しています。

BusinessBasic01


放送された動画を公開中です(以下よりご視聴いただけます。)


新たな経済活動を生む議論のフレームワーク

番組では進行の田村氏と須黒清華アナウンサー、報道局解説委員の大浜平太郎氏というレギュラー陣に、福田がいくつかの取り組みを紹介。また、ライオン株式会社 研究開発本部 イノベーションラボ 所長の宇野大介氏とパナソニック株式会社 ビジネスイノベーション本部事業開発センター スマートエイジングケアプロジェクト 総括担当の山岡勝氏は、デザインシンキングを活用した実際の商品開発について語っています。

福田はデザインシンキングを、最終目標を新たな経済活動の創出に据えた、議論を活性化・円滑化し、結論までの時間を短縮するためのフレームワークの集合体と解説。「相手の意見を肯定すること」「プロフィールを細かく設定した人物像のペルソナを用いて、顧客になりきって発言すること」「新たな“気づき”のために、多様な人材を議論に参加させること」「デザインシンキングに精通したファシリテーターが議論を適切に誘導すること」などがフレームワークの代表例です。ライオンの宇野氏は、その実践を通じて、顧客本位のしがらみのない議論が促され、会議が大きく変わったと語ります。

課題を多角的に把握することで、より大きな成果を見込めることもデザインシンキングの特長です。例えば沖縄では多くの旅行客がレンタカーを借りるため、空港で少なからぬ待ち時間が発生。通常はレンタカー会社の課題と捉えられがちですが、観光に詳しい人材が議論に加わることで、足止め時間が観光資源の活用を阻んでいるという問題も新たに認識されました。その打開策として、空港と観光拠点を結ぶバス便を新たに用意し、車中でレンタカー手続きを行えるようにすることで、地域全体の経済活性化につながっています。

顧客視点に基づき、自社の強みを新事業に変換

デザインシンキングが注目を集める背景には、技術革新の急速な進展とともに、既存ビジネスだけでは事業の存続が難しくなっているという企業の危機感があります。顧客のニーズを満たす手段が、急速に多様化しているためです。

そうした中、ライオンはデザインシンキングによる新ビジネスの創出にいち早く取り組み、スマートフォンで舌の写真を撮影することで口臭をチェックできるアプリを開発。開発のきっかけは、自分の口臭を気にする人の多くが、話し相手こそ自身の口臭に気づいてほしいという消費者調査でした。言いにくいことを伝える難しさはコミュニケーションの問題であり、その直接的な解決には、従来型の商品よりもコミュニケーションを支援するツールが必要との結論を導き出したのです。

ライオンはオーラルケアの長年の研究結果をIT企業と共有して、プロトタイプを構築。店員の口臭が原因で買い物を取りやめた顧客も多いとの調査結果を踏まえ、2019年の早期にも接客ビジネスを行う企業向けに提供を開始する計画です。オーラルケアに関する悩みはさまざまで、番組内でも新たな課題が提起されるなど、今後も大いに盛り上がりそうなトピックです。

いっぽうパナソニックは、社会問題の1つである高齢者の寝たきり状態の予防や改善に向けた運動支援サービスに着目。身近な家電製品にセンサーを埋め込み、そこで収集される多様なデータをもとに、ITのバーチャル世界とリアル世界の双方の顧客ニーズを適切にバランスさせた商品開発につなげる計画が進んでいます。

デザインシンキングの採用をきっかけに、ライオン、パナソニック両社の商品開発では顧客視点の発想の比重が高まっています。しかし顧客調査の結果と顧客の本音は、必ずしも一致しているわけではありません。そのギャップを埋めるためにライオンではペルソナを用い、顧客がいつ、何を食べたかまで検討。一方、パナソニックでは競合商品を参考にする従来のやり方を変え、ユーザーニーズをもとに仕様を企画し直す動きが生まれています。

日本人ならではの“控えめさ”を克服

顧客のニーズが多様化する中、いずれの企業も将来の事業成長に向けた道筋が描きにくくなっています。だからこそ、個々の社員がイノベーションを起こす気概を持つことが求められ、パナソニックの山岡氏は、そのマインドセットの醸成にもデザインシンキングが役立つと指摘します。

デザインシンキングが注目される理由の1つには、日本人は意見を述べることをあまり得意でないという文化的な背景もあります。発言することが恥ずかしい、ましてや内容が間違っていたら、などと発言を控えてしまいがちです。しかし、デザインシンキングで行うグループディスカッションの手法では、発言が必ず肯定され、発言内容が誤っていても別のアイデアの下地となるという方針で進められるため、発言のハードルが格段に下がります。また、自身の発言の一部が結論に盛り込まれると、達成に向けた意欲も自然と高まります。

組織の壁の打破や意思決定などへの活用も

BusinessBasic02番組内では、デザインシンキングに初めて触れる社会人、学生が参加するワークショップも実施。取り組んだテーマは、ハロウィンにまつわる渋谷駅周辺エリアの困りごとの解決です。13名の参加者は3チームに分かれ、現地で聞き取り調査を行いました。その後、ペルソナ設定やプロトタイプの作成を交えて、公園などへの誘導による混雑の解消といったアイデアを出し合っています。チームによってアプローチ手法は千差万別で、メンバーの個性を活かした多彩なアイデアが多数生まれました。

広範囲にわたる年代、立場の人々が活発に意見を交換したことで、ワークショップ参加者からは多くの気づきを得られたとの感想が挙がっています。サイオス株式会社 人材開発部の吉田夕子氏は、「AIやフィンテックなど、今後の技術動向の見極めが難しい同社の事業の意思決定のために、今回のワークショップ体験を社内にフィードバックしたい」と話します。株式会社マイナビ 運営推進統括部の三枝靖明氏は、「部署間の意見調整が必要なことに起因する会議での結論の出にくさも、デザインシンキングなら改善できる」と期待を寄せます。
BusinessBasic03Sさらに、顧客へのコンサルティング業務を手がける株式会社ヒナタデザインの大谷佳弘氏からは、「短期間に結論を出す機動力の高さを高く評価したうえで、参加者にリフレッシュを促す会議用のツールを組み合わせることで、発想の幅をさらに広げられる」との提案も寄せられました。参加された学生の方からは、「商品開発での顧客視点の大切さを大学での授業よりもはるかに深く学べたと感じ、今回の経験を就職活動にも活かしたい」と語りました。

デザインシンキングのビジネス活用について、福田が強調したのは「早く、多く失敗すること」です。議論での発言に誤りが含まれることは避けられませんが、発言しなければ新たな挑戦も生まれません。デザインシンキングでは短期間で議論を繰り返し、失敗からも学ぶことで、それだけ正解に近づけます。また、意見のぶつかり合いや融合によって、イノベーションが生まれる可能性も高まります。

チームごとに実施されたワークショップでは、ユニークなアイデアの発表も行われており、デザインシンキングの活用方法について、楽しみながら理解を深められる内容になっています。顧客視点を新たな角度から見つめ直すデザインシンキングの有効性について、ぜひ下記の動画よりお確かめください。
BusinessBasic04


放送された動画を公開中です(以下よりご視聴いただけます。)