デジタルファースト―「利用者中心の行政サービス」に向けたブロックチェーン技術によるデータの真正性確保


日常生活で我々が行政と接するのは「窓口サービス」の場合が多いかと思います。これは典型的な分散処理であり、また官民双方にとって煩雑業務であり、ややもすると「お役所仕事」と揶揄されがちなものです。

我が国においては、日本では2001年の「e-Japan戦略」で「2003年までに、国が提供する実質的にすべての行政手続をインターネット経由で可能とする。」と定めたところを端緒として行政手続きのオンライン化、効率化に向けた取り組みは進められており、現在は、国においては入札・契約、登記、輸出入・港湾、国税、社会保険・労働保険、自動車登録、無線局免許、統計調査などが、自治体では情報公開、育児支援サービス申込、検診サービス申込、畜犬管理、住民票交付等などでオンライン申請ができるようになってきています。

しかしながら、まだまだ行政手続きの煩雑さ、特に添付書類に代表される紙を基本とした処理による非効率さは住民にとって大きな負担となっているのではないでしょうか?

このような課題に対応するために、政府ではデジタルガバメント実行計画(2018/1/16)を立案し、行政サービスの100%デジタル化にむけた次に示す3原則に沿って、一括整備法案の策定を含め政府一体となった取り組みを推進することで、「利用者中心の行政サービス」の実現を進めています。

①     デジタルファースト 原則として、個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する。
②     ワンスオンリー 一度提出した情報は、二度提出することを不要とする。
③     コネクテッド・ワンストップ 民間サービスを含め、複数の手続・サービスがどこからでも/一か所で実現する。

本ブログでは、「利用者中心の行政サービス」の実現に向け、ブロックチェーン技術を利用し「デジタルファースト」、「ワンスオンリー」、「コネクテッド・ワンストップ」を一気に実現した南チロル自治州の事例をご紹介します。

背景・課題

南チロル自治州は北イタリアのユネスコの世界遺産に登録されているドローミーティに位置する人口50万人超の地域です。イタリアの116の自治体中で最も高い1人当たりGDPであり、ヨーロッパの中で最も暮らしやすい地域と言われています。

イタリアでは、Agenzia per l’Italia Digitaleイニシアチブにより、データの利用促進がすすめられています。この方針に従って、南チロル自治州でも、自治体における公共サービス等に用いているIT環境を単純化・最適化すること、そしてセキュリティの強化・住民情報の暗号化による新しい行政サービスを実現することを決定し、その手段としてブロックチェーン技術を使った実証実験を行いました。

住民情報関連のアプリケーションは1,000を超え、レガシーシステムの運用に予算の70%を使っており、それぞれの部署はそれぞれ独立して他の部署と情報共有をしていませんでした。そのため、プロセスの単純化と透明性の向上を大きな目標としたのです。

Stefan Gasslitter, CIO of South Tyrol

 ブロックチェーン技術の利用の価値

何らかの手続きをする際には、住民はまず書類に必要事項を記入し、窓口に持参して提出します。過去の同様の書類や、役所内で管理しているはずの情報も、都度記入することが求められます。職員は収受した書類をコピーし、スキャンして電子化した上で、各種処理を行うのが一般的です。このプロセスは、非常に手間がかかるものであり、そして、紛失や誤びゅうも多く、また、偽造のリスクもあります。

ブロックチェーン技術は仮想通貨の基幹技術として広く認知されていますが、基本概念としては「分散台帳を実現する技術」であるといえます。ブロックチェーン技術はデータベースの一部(台帳情報)を共通化して、PtoPネットワークを使って個々のシステム内に同一の台帳情報を保有するものであり、データ連携の容易性、トレーサビリティー環境による内容の正当性と一貫性の担保が可能という特長を有します。南チロル自治州では、ブロックチェーン技術のこの特長に着目し、分断されている多数のシステムを連携させ、同時にGDPRをはじめとする厳密に定義された情報共有ルール下でもリアルタイムデータを流通させる実証実験を行いました。実証実験では、データの真正性について認証のチェーンを作成しており、これにより、行政手続きの都度、住民が入力する個人情報等の真正性を確認する必要がなくなっています。

ブロックチェーンを使った行政改革

(クリックすると動画に飛びます)

実証実験では、通常4ステップで実施していた手続きが1ステップで完結することが確認できています。南チロル自治州の狙いは透明性の向上、官民双方の処理工数削減、正確性向上です。ブロックチェーン技術という、いわば「破壊的イノベーション」を適用することで、単なる手続きの電子化にとどめず、真のワンストップの実現による住民との連携の強化を狙っているのです。

実証実験の成果
  • 住民は1度だけ情報を入力するだけで、認証された情報として登録され、職員は一元的に利用可能となるため、一連のサービスを連続的に提供することが可能となる。
  • 多段階の処理及び非効率なレガシーシステムでの重複管理を最小化することによる運用費の削減
  • 南チロル自治州で実証された情報共有モデルのイタリア全土への展開の可能性
  • 政府のビジョン達成に資する先進技術を用いた実証実験を通じた技術基盤の第一歩

 

ブロックチェーン技術は、複数の行政手続きを行う住民からの情報収集を一回に集約できるという意味で住民サービスの向上に大きく寄与します。職員はアプリケーションに散在するデータをコンプライアンス及び法令を遵守する形で統合して取り扱え、そして、そのデータのリアルタイム性・最新性が担保されるため、作業効率向上及びデータ品質向上が期待できるのです。

Stefan Gasslitter, CIO of South Tyrol

ブロックチェーン技術の公共領域での活用

SAPは、ブロックチェーン技術を、組織の壁を越え、ビジネスプロセスを合理化しながら信頼と透明性を確立する、データ管理・流通のための基盤を構築するための技術と捉えています。

プレゼンテーション2

公共機関の特徴として、法制度への遵守などの規制が厳密であること、真正性や正確性への担保が強く求められることなどがあげれます。ブロックチェーン技術の「データに対する非反論性及び非破壊性の保証」という特長はこれらの要求を高度に対応できるものです。

単なる紙の置き換え及び電子化ではなく、デジタルの特性を有効活用できる業務に改革し、利用者中心のサービスを実現すること、それが「デジタルファースト」、「ワンスオンリー」、「コネクテッド・ワンストップ」を全て実現するためには不可欠であると考えており、その観点から、弊社は我が国におけるデジタルガバメントに対して引き続き貢献したいと考えております。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、南チロル自治州のレビューを受けたものではありません。

 

参考資料

https://news.sap.com/2018/03/who-knew-blockchain-could-make-government-this-easy-this-italian-cio/

https://www.sap.com/documents/2018/05/04213d91-027d-0010-87a3-c30de2ffd8ff.html

https://news.sap.com/2017/03/blockchain-could-be-a-game-changer-but-not-because-its-cool-technology/