「Segment of One ものづくり」と「製造アイランド」


「組立ライン」から「製造アイランド」への変革を目指すアウディ

まずはこのブログを通読してみてください。
ドイツ語だから読めないよ、というのは今は昔。ChromeなどのWebブラウザに搭載されている自動翻訳機能のおかげで、理解に苦しまない程度の翻訳を読むことができるでしょう。

「組立ラインのない生産は現在アウディによって実際にテストされています」

そこでは「組立ライン生産の限界」について述べられています。「購入者の個々の要求の増加により、製作内の複雑さは飛躍的に増大し」「数え切れないほどの機器のバリエーション」ができたために、もはや「(100年前にフォードで実用化された)ラインで生産する限界」にきているのだと。

これが突飛な考えに基づいた製造形態の飛躍であること、もちろん実現は非常にむずかしいこと、しかしながらアウディはそれに果敢に挑戦していること、などを読み取ることができます。

アウディのこの挑戦は、実は今に始まったものではなく、以前からフォルクスワーゲン(VW) Groupのビジネス課題・ビジネス戦略として存在しています。
ご存知の方も多いと思いますが、VW Groupは12の車両ブランドで構成されています。アウディもポルシェもランボルギーニも、VWグループ内企業なのです。

インダストリー4.0の「カスタム製造」の具体例

私がよく引用するacatech発行のインダストリー4.0の最終報告書(2013年4月発行。もう6年も前!) には面白いことが書いてあります。

VW-Porsche Today and Tomorrow

(今日のライン式生産方式では) 個々のお客様のご要望に完全に応えることは不可能だ。たとえ同じ会社で生産された部品であっても、別の製品グループ同士を組み合わせることはできない。例えば、フォルクスワーゲンの車体にポルシェの座席を組み合わせるなんて。

上図 Today 組立ラインでは、ワークステーション (WS) 1 … n が直列していて、どのWSも同じ処理時間内で(正しくは、最も作業時間が長いWSに合わせて)作業が終わるように設計されています。「クルマの仕掛品」がWS1から順序通りにWSnまで移動する間に、総計3万点の部品が取り付けられて完成に至ることになります。

その間に、発注者がディーラーの営業と相談して選定した車体の色、シートの素材、トランスミッション(AT/MTの別)などのコンフィグレーションに適応した部品が、「クルマの仕掛品」の動きと同期して、取り付け作業が行われるWSxのラインサイドに届きます。いわゆる ジャストインタイム (JIT)ジャストインシーケンス (JIS) という仕組みです。部品サプライヤ側は、事前に提示されたフォーキャストに従って部品を製造し、確定したコンフィグレーションに則った納品指示通りに、部品・中間製品を製造・組み立てし、納入します。もし部品1点でも欠品した場合には、ライン全体が停止する仕組みですが、多少のコンフィグレーションを伴った大量生産には非常に適した生産形態(CTO)です。

それに対して、下図 Tomorrow がインダストリー4.0の目指す姿、とされています。

生産初期段階からクルマはコネクテッドです。「クルマの仕掛品」が、自由に配置されたWSの間をダイナミックに移動する概念が示されています。その移動はサイバーフィジカルシステム(CPS)で制御される、とあります。この柔軟な生産形態によって、他の車種のシートを取り付けるようなこと(図では、赤色のシートで表現)も可能にしたい、というのが、この生産形態変革の動機です。

各WSの作業時間はあらかじめ定められているものではなく、作業ごとに異なることが許されます。次工程としてどのWSへ移動すべきかをCPSから指示されて、「クルマの仕掛品」は自律的に移動します。CPSでは製造実行システム(MES)が、デザイン・設計から、組立て、運航・運用まで、徹頭徹尾制御する、とあります。

この最終報告書を初めて読んだ時には、面白いことが書いてある、とは思いましたが、いくつかの大きな疑問が浮かび本気になれませんでした。曰く「VWの車体にポルシェのシートをオーダーする、なんてクレージーなことがあるのか」とか、「仮にそんな酔狂な客が増えたとして、この自由配置のWS組立システムは果たして実現可能なのか」とか。

ところが冒頭に掲げたブログによると、アウディはその実現に向けて着実に前進しているようです。「組立ライン」から脱却し、「製造アイランド」を平面に配置。その間を無人配送車(AGV)に乗せられたバラエティに富んだ「クルマの仕掛品」が自由に移動する世界。また、アイランドに供給される取引部品も、AGVやドローンで運ばれている様子が見えます。

製造アイランドで必要になる、作業指示書や部品の供給スタイル

古澤自身が、近い将来の製造アイランドの1つで働く作業者になったつもりで、日々、部品取り付け作業にいそしむ気持ちを以下に代弁してみます。少し「近未来の予言」も含めます。

私の働くアイランドでは、ステアリングホイール(ハンドル)とその周辺部品の取り付けだけでなく、ドライバーの好みが多く反映される運転席回りの小物類を組み付ける作業を行っています。
あ、他のアイランドで組付け作業がなされた「クルマの仕掛品」が、大型のAGVに乗っかって、このアイランドにやってくるのが見えますよね。どの仕掛品が、どのタイミングで、このアイランドにやってくるか、事前に予定されているわけではありません。システムが全体を俯瞰していて、動的に、AGVに次にどこのアイランドへ行け、と指令を発しているようです。なぜなら、この作業の標準時間は一応定まってはいますが、現実はその通りに行きませんからね。ただ、その時間内に終らなくても全体に支障はありません。「クルマの仕掛品」は、空いているアイランドに自由に移動していきますからね。

ほら、そろそろAGVが接岸します。それとタイミングを合わせて、組み付ける部品がアイランドに現れますよ、ほら。Picture2部品はこのフロア下に設置されている巨大自動倉庫からコンテナで運ばれてくることもあれば、小さめのAGVで届くこともあります。ステアリングホイール単品の場合、庫内ドローンが飛んでくることもあります。毎回の作業で必要な部品が過不足なく届きますよ。

ええ、今日はステアリングホイール中心ですが、昨日は別のアイランドで別の組付け作業をしていました。まごつかないか、ですか?大丈夫。作業指示書はデジタル3Dで表示され、どの部品どの順序で組み付けるか明確に理解できますから。SAP 3D Visual Enterpriseそれでもわからない場合には、VRゴーグルからエキスパートを呼び出して尋ねればいいんです。彼らも遠隔で私と同じものを見ているので、話は早いですよ。

作業者とエキスパートが遠隔で相談する

作業者とエキスパートが遠隔で相談する

以前のライン組立の場合、日がな一日、同じ部品の取り付け作業をしていたものですが、どうしても飽きが来てしまうので、集中力を保つのが大変でした。作業ごとにタクトタイムが決まっていて、それに合わせて作業をしなければいけないんですけど、こちらは人間であって機械じゃないんで、調子のいい時もあれば悪い時もある。なのに、ある日突然「今日からx秒タクトタイムを縮めろ」なんて指示が来たりしてね。閉口しました。
それに、個々の作業員にラインを止める権限はあっても、実際に止めてしまうとリカバリが大変でしたから、ストレスは多かったです。

最近の取り付け部品の特徴ですか?CASE (Connected/Autonomous/Shared/Electric) が当たり前のものになった今、実はステアリングホイールなんて重要部品ではなくなっているんです。そりゃ、「走る・止まる・曲がる」の基本機能を人間がつかさどるための基幹部品ですから、今も標準装着されています。でも、肝心の人間が操作することがほとんどなくなってしまったので、実用上はなくてもかまわないんですね。それでもハンドルがないと格好がつかないからなのか、必ず取り付けられますね。車内でたばこを吸う人がほとんどいなくなっても、灰皿とライターが消えないのと同じかもしれません。

RINSPEED 2017 OASYS

実は最近のステアリングホイールは、デザイン的にも機能的にも、以前よりも優れているんです。走りながら仕事をする人用に、車内テーブルやキーボードに変化するものもあれば、走りのシーンに合わせて径の大きさや太さが自動的に変化するものもあります。人間が操作しなくなったがための、ファッション性重視の結果だというんですが、こんなところの自動調整に組込みAIが使われるようになるとは、昔は思いもしなかったなぁ。
でも、そのおかげで、ステアリングホイールのハードウェアバリエーションは格段に減ったんですよ。ソフトウェアがモノの形状を変えてくれるようになった恩恵は、実は製造側が享受しているのかもしれません。

本稿を執筆するにあたり

本稿は、SAPのユーザー企業の先進的な取り組みを参照しつつ、Intelligent Enterpriseの概念と組立型製造業の重点5テーマ、それに若干の想像力をまぶして執筆しました。

IM&Cの重点5テーマ

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