素材産業向けグローバルイベント開催報告 − 後編:BASFのデジタル変革に向けた取り組みを中心に


当ブログの前編では「BASFが考える次世代のビジネスアーキテクチャ」について、基調講演で語られた内容を中心にお伝えしました。この後編では、そのBASFが、顧客接点領域でのイノベーションやSAP S/4HANAのマイグレーションに向けたチェンジマネジメントについて、個別セッションを通して共有したことを中心にダイジェストしていきます。

The Increasing Importance of Customer Experience in the Chemicals Industry

Importance of Data Integration for Successful Transformation

Next Generation Business Architecture at BASF: The Internal Partner Engagement – Design Phase


The Increasing Importance of Customer Experience in the Chemicals Industry

[講演資料リンク]

機械学習を活用したカスタマー・エクスペリエンスの変革

スピーカーは、2018年7月にBASFよりSAP SEに転籍したPedro Ahlersです。BASFでの12年のキャリアのうち、最初の6年間をITで、残りの6年間をビジネス側、すなわちDigital Marketing & Salesをリードする立場として活躍してきました。直近では、BASF顧客のCustomer Journeyを、真のお客様目線で徹底的に再考する、というCuRT(Customer Request Tracking)プロジェクトをリードしていました。

BASFの現在の顧客タッチポイントは、78チャネル(Social Media含む)、600超のURL、50ものアプリケーションがあり、非常に複雑で顧客目線とは言えません。多様な事業や組織運営の結果として、つまり、BASF側の都合のみで現在の状況になったわけです。ただ、それらのタッチポイントを通して、1ヶ月あたり1万もの顧客からの何かしらのコンタクトがあります。それらを機械学習にかけ、製品クレームなのか単なる問い合わせなのか、どの事業のどの製品に関するものなのか、誰からのコンタクトでどこの誰に繋げばよいのか、ということについての最適解を出すことが可能になりました。タッチポイントが複雑なため、例えば、プラスチック添加物(Plastic Additive)に関する問い合わせが、潤滑油事業のタッチポイントを介してなされたとしても、機械学習が最適なルーティングをしてくれるということです。このケイパビリティーをもって、「BASFにおける初めてのバーチャル同僚 −しかもビジネスユニットや地域をまたぐ」(BASF’s first virtual colleague across Business Units and regions)との表現がなされていました。

SAP-Prague-BASF-CuRT

なお、このソリューションの検討〜実現に際しては、Design Thinkingの方法論・マインドセットが重要な役割を果たしたとのことです。Pedro自身も、Design Thinkingの実践者であります。


Importance of Data Integration for Successful Transformation

[講演資料リンク]

ビッグデータの活用とそれを取り巻くチャレンジ

BASFはバイエルからの様々な事業、資産の買収により、農薬、バイオテクノロジーおよびデジタル農業分野におけるさらなるチャレンジに取り組んでいます。その取り組みのひとつとして”Digital Farming”における「作物保護(Crop Protection)」に係る製品/事業を例として、BASFのUdo Kaempf氏が講演しました。

SAP-Prague-BASF-DigitalFarming

最先端のテクノロジーを活用し、リアルタイムの製品レコメンデーションを実現しようというものです。そのために必要となってくるデータ要素は、種類・ボリュームともに膨大なものになります。例えば、天候・天気予報、コモディティ価格、害虫発生や作物の病気についての予測、作物の成長モデル、さらには、品目マスタデータ、CRMやセールスのデータ、EHSやラベルのデータなども必要になってきます。それらデータのセキュリティに最大の重きを置きつつ、どのようにデータに対するガバナンスを効かせるか、データ収集〜連携の複雑性を排除しコスト最適化するか、データのシングルソースをどう確立するか、その上で、データサイエンスをどう実現するか。解決策として、Data Lakeを介した統合により、”Single Source of Reference”を(ビジネスユーザーやデータサイエンティストに)提供していく、というものでした。まだ取り組みの途上にありますが、ビッグデータをどう最大活用できるかについて、試行錯誤しながら成功パターンを模索しているようです。

実現のためのTechnologyとして様々なものが挙げられていましたが、SAP製品としては、SAP HANAやSAP C/4HANA)が活用されています。今後、SAP Data Management Suiteが検討されていく領域になると考えられます。


Next Generation Business Architecture at BASF: The Internal Partner Engagement – Design Phase

[講演資料リンク]

SAP S/4HANAの価値・可能性を引き出すチェンジマネジメント

初日(Day1)の基調講演で触れられたBASFのNext Generation Business Architectureについて、Internal Partner Engagement (IPE)の側面から深掘りするセッションでした。前編で触れた”One globally consolidated system”=ERPシングルインスタンスを今後どのように進化させるか?いまBASFは、その検討・準備フェーズにおり、結論から言ってしまえば、2020年の中頃に、SAP S/4HANAへコンバージョンする*1、というロードマップを描いています。

*1 “Brownfield”アプローチというもので英語圏ではよく使われる表現であり、新規のSAP S/4HANAを構築する”Greenfield”アプローチと対比されます。

そしてこのセッションは、タイトルにもある通り社内のステークホルダー、キーパーソンをどのように巻き込みエンゲージしてきたか(IPE)、というチェンジマネジメントの側面に重点が置かれています。活動の内容を示す象徴的な数字として、IPE以前は562件だった取り組みテーマ(business needs / topic library items)が最終的に2078件と、370%も増加したということです。また、BPTT(Business Process Transformation Team)を編成していますが、現時点で813名で構成されています。ちなみに、活動開始が2018年6月であり、その後3ヶ月間の進捗の結果です。取り組みテーマや関係する人員が増加したことは、SAP S/4HANAが生み出しうる価値・可能性を大きく引き出した結果です。そのためにはBPTTに対し新しいチャレンジへのマインドセットを醸成することが不可欠でした。検討の様子について、動画で製造領域におけるワークショップの例が紹介されていましたが、業務領域毎に、あるいは業務領域をまたいで、次世代のあるべきプロセスを徹底的に議論した結果です。その検討のスピードが非常に早いということにも驚かされます。詳細についてはぜひ講演資料も参照下さい。

SAP-Prague-BASF-IPE

実際には、2014年頃にはクルト・ボック会長(当時)主導のもと、BASFのデジタル戦略が策定されつつありました。その上で、例えば、プラントメンテナンスにおける予知保全(もしくは「コンディション」ベースの保全)や、調達領域におけるサプライヤーネットワークの活用とプロセスの徹底的な簡素化などが実行されていました(関連ブログ)。いよいよS/4HANAを中心とした基幹システムの再構築に取り掛かっているわけですが、この進め方やスピード感は、多くの日本企業のお客様にも参考になるのではと考えます。

SAP S/4HANAへの移行 – Greenfield or Brownfield?

また、なぜ”Brownfield”アプローチを採用したのか。大きな要因のひとつとして、現行のERPが、この巨大な企業全体をカバーするシングルシステムとなっていること、すなわち、SAP S/4HANAへの移行に際して段階的な導入が必須となるであろう”Greenfield”アプローチで起こり得る、法人間の連携(例:連結の相殺処理)やプロセス間連携(例:計画〜受注〜製造〜納入〜請求・入金)における断絶を回避しなければならなかった、とのことです。グローバル・シングルインスタンスならではの悩みと言えるかもしれません。

補足ですが、Day2には産業ガスのグローバル大手Linde社のセッションもあり、彼らもSAP S/4HANA化に向けては”Brownfield”アプローチを採用しています。Linde社は、グローバルを3極に分ける「分散型ERPインスタンス」を採用していますが、大きな理由として、そもそもグローバルで統合することがよほど重要な箇所があるわけではなく、各極ごとの最適化に重きを置いている、とのことです。いずれにせよ、昨年までは”Greenfield”アプローチの事例が前面に出ていましたが(例:Eastman Chemical, Americas Styrenics, Albemarle, Chemours)、BASFやLindeのように”Brownfield”アプローチを採用する事例も出てきています。いま検討の最中というお客様も多いと想定されますが、ぜひ参考にして頂ければと思います。


今回のイベントを通して、前編で取り上げたBASFの基調講演や本編で取り上げた事例講演以外にも、数多くの事例セッションやSAPソリューションセッションが開催されました。お客様事例としては、CovestroのCIOが語るデジタル戦略、Arlanxeoとアクセンチュアによる”Greenfield”アプローチでのSAP S/4HANAの導入事例、Heraeusの顧客中心主義への挑戦、Bollig und Kemperの製品コンプライアンス、Lindeの”Brownfield”アプローチでのSAP S/4HANAの検討事例などが挙げられます。SAPソリューションセッションとしては、”Business Innovation”および”Technology”トラックにおいて、SAP Leonardoや機械学習、また、調達・購買(Ariba)、サプライチェーン(S&OP/IBP)、ロジスティクス、アセットマネジメント等、様々なLoBソリューションの最新動向・事例を紹介しました。

[化学業界向けイベントブローシャーとアジェンダへのリンク]

その他、Day1とDay2のイベント本編とは少し違った視点で、、、

Day0 Workshop

実は今回のイベントですが、Day0においてクローズドのワークショップが複数トラック開催されています。日本からのお客様にも積極的にご参画頂き、SAP S/4HANA導入を決定し実際にプロジェクト推進中のお客様が”SAP Leonardo”セッションに、また、今後SAP S/4HANAやデジタルトランスフォーメーションを検討されるお客様が”SAP S/4HANA”セッションに参加されています。いずれも15名前後のグローバル各国からの参加者とともに、朝9時から夕方17時まで、SAPファシリテーターのリードのもと、座学のみならず、フリップチャート等を用いながら様々な観点からディスカッションやアイディエーション、チーム毎の発表などを行っていました。実り多き議論があったことを願っています。

Evening Event

Day1の夜は、ヴルタヴァ(モルダウ)川沿いに建つ、聖アネシュカ修道院(国立美術館)にてイブニングパーティーが開催されました。イベントの会場は、プラハの旧市街からは少し離れたところでしたので、プラハのOld Townの雰囲気を感じながら、美味しいプラハ料理を、ワインとともに、またプラハ発祥のピルスナービールとともにご堪能頂けたのではないでしょうか。

Convent of St Agnes of Bohemia