デロイトに見る情報サービス産業自身のデジタルトランスフォーメーション


日本企業の成長にとってデジタルトランスフォーメーションは、もはや避けて通れません。しかし多くの日本企業のIT実務能力は決して高いものではなく、推進する牽引役としてソフトウェアやシステム開発・構築を行う情報サービス産業ベンダーが必要となっています。日本の経済全体におけるデジタル変革の流れは、この情報サービス産業にかかっているといっても過言ではありません。

そこでまず、この日本の情報サービス産業自体に目を向けてみます。

 

日本の情報サービス産業の課題

経済産業省DXレポートによると、日本の情報サービス産業は企業数2.7万社、全売上高25兆円、従業員数97万人の大きな産業となっています。ITに関わる人員の7割を占め、諸外国と比較すると異例なくらい大きな割合を占めています。

独立行政法人情報処理推進機構「IT人材白書2017」より情報処理・通信に関わる人材の割合

そしてこの大きな産業にも、昨今、下記のような課題が生じていると論じられています。

  • 人員の逼迫
    他の産業と同じく人手不足が始まっており、特に技術者は近いうちに深刻な不足状態になります。
  • スキルシフトの必要性
    従来のIT技術から新しいアジャイル開発やAIなどのテクノロジーへのシフトが必要になってきています。

つまり、経済産業省は日本の情報サービス産業に対して、システム開発の受託者からデジタル技術を駆使する新しいビジネスモデルへの転換の必要性を訴えています。

現在の日本の情報サービス産業は、顧客の要望に対して個別に対応することでサービスのバリューを高めてきました。日本の産業にITが普及する過程において、これまでは『ユーザに寄り添う』姿勢が重要な要素であったかもしれませんが、その結果、プロジェクトをカスタマイズし、極端に人手に頼る業務環境を作り、生産性(特に人員あたりの生産性)が軽視されてきたことは否めません。その結果、成果物がデジタルであるにもかかわらず、実態は頭数で労働力を売るアナログな業態のままになっているように思えます。

そんなベンダー各社の中では、個々のプロジェクトが最重要視され、欧米のITベンダーのようにプロジェクト情報の共有化が進んでいません。

売り物であるプロジェクトの効率性を高めるためには、過去のプロジェクトを綿密に調280939_GettyImages-681886691_super_low査し成否を判断し、部品化して共有化することが必須です。しかし、日本のベンダーはプロジェクト個々の成否よりも部門で赤字を出さない管理を問われることが多いようです。ひとつひとつのプロジェクトの利益率を明確化することを避けるため、プロジェクト間でコストを融通したり、営業リソースとデリバリリソースを使い分けてプロジェクトスコープの調整をする、というような事例を耳にすることもあります。もちろん大成功したプロジェクトは社内で共有されるのでしょうが、ベンダー各社の売上の大部分を占める「普通のプロジェクト」個々の中で、どのようなWBSをどのように運用してどのような課題が生じ、どのようなバックアップの末、どのようなコストを消費してどのように利益を得たのか、そういう分析を冷徹に行うベンダーは少ないようです。

このように、ベンダー各社の生産性を高める手段も限定的であったため、日本の情報サービス産業の業務効率性は世界に比して決して高いものとはいえない、というのはよく聞く話です。

これからやってくる、デジタル体験によってビジネスプロセスの改革を望まれる時代では、人月で稼ぐような事業は効率性の観点からなじみません。人員ひとりあたりの効率性を高めるには、まずはプロジェクトの厳密な採算性判断を行い、成功したプロジェクトをベストプラクティスとして共通化し、それを部品としてより高度なサービスを組み立てる、といった改革が必要とされます。

日本の情報サービス産業もまた、他の産業に先んじたデジタルトランスフォーメーションを必要としているのです。

 

グローバルのProfessional Service

グローバル企業のITプロジェクトはユーザ企業自身のIT部門のリーダーシップが強く、コンサルティングやソフトウェア開発、ネットワーク構築などのエンジニアリングサービスは、一般的に日本の情報サービス産業よりも分業が進んでいます。

しかし、顧客企業が自身のデジタルトランスフォーメーションを推進するためには、ビジネスプロセスの議論からITソリューションの導入、さらにAIなどの新しいITテクノロジーの活用など幅広いサービスをが求めるようになってきています。その中で日本の情報サービス産業ベンダーが提供しているような包括的な受託サービスを望むようになってきました。

SAPのProfessional Service Industry BUは、世界におけるProfessional Serviceに対するマーケットからの要請の変化を下記のようにまとめています。

マーケットからの要請 背景
成果報酬型の見積
Outcome base pricing
従来限定的なリスクしか負わなかったITコンサル事業に対して、ユーザ企業がより高いリスクを負うことを求めるようになってきました。
高い知見によるサービス
Knowledge as a Service
単なるITシステムの導入というようなプロジェクトではなく、デジタル技術とビジネス知見を駆使した、より難しいサービスを要望されるようになってきました。
幅広い人材によるサービス
Leverage talent network
一つのプロジェクトのカバーする範囲が広がり、幅広い人材を集めてサービスする必要が出てきました。

これらを実現するためには、今まで以上に個々のプロジェクトの生産性を高め、その知見を共有し、より広い範囲のリソースを活用してゆくための手立てを整える必要があります。

受託開発から転換を迫られている日本の情報サービス産業が目指すべきゴールもまたここにあるのではないでしょうか。

 

デロイトの事業変革

デロイトは従来ビジネスコンサルテーションを中心に各国で事業を展開してきました。しかし、顧客のグローバル化およびITによるデジタルトランスフォーメーションの重要性に応える必要が出てきたため、自社のVision2020の中で、「ITサービスへの注力」と、従来国別に行われてきた事業を「真にグローバル化」してゆくことを決意しました。

しかし、その中で上に述べた事業環境のチャレンジがあり、単なる人員育成強化と営業の統合化だけで片付く問題でないことに気づき、5つの変革のアジェンダを策定しました。変革への課題として、規制の変革、システム刷新、ビジネスモデル変革、人材開発、市場評価を設定しています。

2016年にSAP S/4HANAとCPM(Commercial Project Management)をご選択いただき、システム刷新を含む業務改革を進めた結果、ITプロジェクトについて早期にプロジェクト利益率の向上や案件獲得の確度向上を図ることができ、全体で7.1%の成長を遂げています。

※クリックすると動画をご覧いただけます(2分47秒)Deloitte_

『私たちは、SAPが将来にわたって当社のビジネスを支えていくロードマップを見据えています。』

Paul Bray, – Partner, Deloitte UK

このアクティビティでデロイトが実現した目に見えるデジタルトランスフォーメーションの一例をあげると下記のようなものです。

  • プロジェクトの成否を明確に定義し、部品化・共通化することによって、見積スピードと精度の向上
  • リアルタイムでプロジェクトの進行管理をすることで、プロジェクト推進のスピードアップ
  • デジタル化されたリソースマネジメントで、様々な人材とのマッチングを容易に

 

日本の情報サービス産業の目指すべきゴール

日本の情報サービス産業は、顧客企業のデジタルトランスフォーメーションを推進するためにも、デジタル体験を通じて自社のビジネスをまず変革する必要があります。そのためには、これまでの顧客との密接で濃密な関係を今一度考え直し、個々のプロジェクトの成否を見直し、その積み上げによって成り立つ自社の事業全体の目標を見据える必要があります。その上でグローバルのProfessional Serviceと同様に、生産性を高め、その知見を共有し、より広い範囲のリソースを活用してゆくべきです。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、デロイトのレビューを受けたものではありません。