世界No.1鉄鋼メーカー アルセロール・ミッタルの取り組み 第1回:最善の顧客サービスを目指したサプライチェーン改革


今やデジタルサプライチェーンの取り組みは、業界の垣根を越えていずれのお客様にとってもホットトピックです。とかく変化が遅いと先入観を持たれがちな製鉄業界も例外ではありません。

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アルセロール・ミッタル・オービットは2012年ロンドンオリンピックを恒久的に記念するために建てられた高さ115メートルの展望塔

鉄鋼業界は、米中貿易戦争により先行き不透明なものの、中国は世界最大の鉄鋼生産国であり、全世界の粗鋼生産量の半分を占め、鉄鋼消費面で見ても全世界の45%を占めています。世界の鉄鋼価格に最も影響力を持つのは中国であることは言うまでもありません。そのような状況下で、2006年のオランダのミッタル・スチールとルクセンブルクのアルセロールの経営統合以降、国際的なM&Aをくり返し世界最大の鉄鋼メーカーの地位を守り続けているのがアルセロール・ミッタルです。当ブログでは、この多国籍企業のグループ会社であるアルセロール・ミッタルブラジルの鋼板部門におけるサプライチェーン改革をご紹介します。

事業戦略を支えるIT戦略

アルセロール・ミッタルのITビジョン・IT戦略からは、事業戦略との真の一体感を感じます。

ITビジョン

事業戦略を積極的かつ継続的にサポートする。またITの積極的な活用とイノベーションを通じ、ITサービスの費用対効果を常に最適化する。そして、従業員に成長機会を提供する。

IT戦略

業務部門及びコーポレート部門のITパートナーたれ。ビジネスにとって正しいことをせよ。そして業務プロセス及びITサービスの品質を改善せよ。つまり、継続的にオペレーションコストを最適化し、グローバルソーシングから利益を確保せよ。

このITビジョン・IT戦略に基づいて、既に基幹業務周りのIT改革を成し遂げた彼らは、2015年、ITビジョンに基づきE-Business戦略として「顧客中心主義」「マスカスタマイゼーション」「サービスオリエンテッド」「オープンエコシステム」「フラットな組織」を掲げました。鉄鋼メーカーとしての軸足はぶらさず、 デジタルディスラプションを勝ち抜こうとする同社の姿勢は、世界中の鉄鋼メーカーから称賛されたと言われています。-> ArcelorMittal at a glance ( E-Business Strategy, 2015 )

最善の顧客サービスを目指した需要予測改革

さて、サプライチェーン改革についてはブラジルの鋼板部門がグループ内のパイロット的役割を担うことになりました。

アルセロール・ミッタル ブラジルでは、「精度の低い需要予測による工場設備・作業員への高負荷、および顧客への納入遅延」が課題となっていました。予測業務の難しさ・大変さは日本にいる私達でも想像できます。例えば鉄鋼メーカー・問屋・加工業者・国内 / 海外需要家(自動車業界など)で構成される複雑な商流、各事業部から収集した顧客情報や製品特性(需要の安定 / 不安定、製品ライフサイクル)など、予測にあたり加味することが膨大にあります。そこで、E-Business戦略をふまえ、需要予測精度改革のプロジェクトを発足させました。

行ったこと:

  • 大口顧客の多い北米向け製品を対象に、需要予測業務を標準化(予測結果を各部署の販売計画および受注業務へ反映、など)
  • 需要予測業務の職務・職制を明確に定義
  • 各部署でバラバラだった需要予測・販売計画ツールをSAP Integrated Business Planning に一本化し、販売計画に必要なすべてのデータをSAP HANAに集約

これにより実現したこと:

  • 予測業務の標準化と自動化による、業務の手戻り削減
  • 需要予測モデル活用による、「たられば分析」のリアルタイム化
  • 予測サイクルの短縮(月次)
  • 販売計画とサプライチェーンデータ集約による、販売予測と予測財務諸表の統合
  • 予測変更した際の、素早い生産計画変更(変化の早い自動車業界に対応する仕組み)
  • 受注から出荷までの生産リードタイム短縮(マーケットシェア・売上拡大に寄与)
  • 工場内の設備・人員の最適化、および在庫の削減
  • 北米向け製品(平鋼)販売計画の予測精度は17%まで向上

これらの結果として、顧客の調達リードタイム短縮、顧客からの急な納期・数量変更への素早い対応、顧客側のトラブルを自社のサプライチェーンで吸収する能力向上など、カスタマーエクスペリエンス向上に貢献する活動となり、昨年10月に開催された弊社インダストリーイベント:International SAP Conference for Mining and Metalsでも紹介されました。   –>    Better Demand Forecasting for ArcelorMittal with SAP Integrated Business Planning(International SAP Conference for Mining and Metals, October 2018)

最上流からのサプライチェーン改革

International SAP Conference for Mining and Metalsに併せて撮影された動画では、取り組みの概要の紹介とともに、彼らの顧客に提供できるようになったサービスに言及しています。

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在庫を管理し在庫の質を最大限に高め最善のサービスを提供することで、お客様の調達リードタイムを短縮します。

例えばお客様との間の生産チェーンに問題が発生した場合でも、それを当社側の生産サイクルで吸収できる能力が大幅に上がりました。

— Marcelo Campos, the Sales and Operations Planning Manager at ArcelorMittal Brasil, Acos Planos

(画像をクリックすると動画に飛びます。)

顧客側の生産チェーンでの問題をアルセロール・ミッタル側で吸収できる能力の向上。真の顧客視点の改革にはグループ全体が注目しているだけでなく、自ずと顧客からの好感も得られるはずです。

ちなみにMarceloは「当社はSAP Integrated Business Planningを導入した世界初の鉄鋼会社です。」と述べていますが、既にアルセロール・ミッタル以外の複数の鉄鋼会社でもSAP Integrated Business Planningを活用したデジタルサプライチェーン改革が進められています。それらの取り組みを通じて、もはや鉄鋼業界は変化が遅いという先入観は危険だと痛感しています。私はお客様に今自分が感じている危機感とともに今後も積極的に海外の動向をお伝えすることで、世界市場で戦うお客様に少しでも貢献したいと考えています。そこで、今後も世界No.1鉄鋼メーカーの動向をお伝えすることにコミットする気持ちを込めて、タイトルに「第1回」を冠しました。引き続きよろしくお願いいたします。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、アルセロール・ミッタル社のレビューを受けたものではありません。

アルセロール・ミッタルのSAP導入参考情報:

IT at ArcelorMittal – Linking IT Strategy to Business Strategy -(SAP M&M Forum, September 2012)