なぜ日本はCFOが育たないのか? ~経営を担うCFOに求められる資質や役割について~


資本のグローバル展開が進み、経営の柔軟性が求められる中、日本企業では資本政策や財務戦略のキーパーソンとしてのCFO人材が求められています。早稲田大学大学院経営管理研究科の大村敬一教授は、2019年3月12日に開催されたセミナー「SAP Finance Day 2019 次世代CFO組織の役割の変化とそれを支える仕組み」の基調講演で、これまでなぜ日本でCFOが育ってこなかったのか、さらに今後定着が期待されるCFOに対し、どのような資質や役割が期待されるかについて語りました。

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アメリカの大企業で生まれたCFO

「なぜ日本ではCFOが育たないのか?」――。この問いについて考えるにあたり、大村教授はまず、CFOの歴史を簡単に紹介しました。

「CFOの生みの親」と言われるのが、20世紀初めに化学メーカー、デュポン社の社長を務め、ゼネラルモーターズ(GM)に出資したピエール・デュポンです。そして「CFOの育ての親」とされるのが、1920年代にGM社長を務めていたアルフレッド・スローンです。この頃からCFOは、デュポン、GMをはじめ、スタンダード石油、GEなど、主にアメリカの大企業の組織に設けられるようになり、世界に広がっていきました。

一方、日本でCFOといえば、トヨタ自動車創業者の豊田喜一郎氏を支え「大番頭」と呼ばれた石田退三氏や、本田技研工業(ホンダ)創業者、本田宗一郎氏の女房役、藤沢武夫氏などが有名です。しかし、大村教授は「実はどちらも、財務の専門家というよりもCOOに近い」と指摘します。

それでは、CFOの定義はどのようなものでしょうか。大村教授は「実は定かではありません。このため、まずCFOの機能に着目して暫定的に定義したうえで議論を進めましょう」とし、「資本の使途や配分、資本の調達、利益の還元などを最適化するために、経済や市場等の環境情報を参照しつつ、自社の財務情報に基づいて執行し、成果を評価することを通じて、企業価値の向上をはかる」という機能を提示しました。
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CFOが育ちやすい環境、育ちにくい環境

こうした機能を果たすことができる資質と能力を備えた人材は、日本の企業ではまだ育っていません。それはなぜでしょうか。大村教授はいくつかの仮説を紹介しました。

最初の仮説は「資本主義の違い」というもので、『資本主義対資本主義』を著したフランス人、ミシェル・アルベールによる区分です。同書によると、個人の短期的な利益追求をベースとした「アングロ・アメリカ型」資本主義は、証券市場での自由な取引が重要であり、妥協のないプロの資本主義といえます。そのため企業単位での判断が重要となり、CFOの役割が大きくなります。一方、「ライン型」あるいは「アルペン型」資本主義では、集団協調的決定、長期的な契約関係・利益追求を重視します。銀行とも永続的な取引関係を維持し、複雑で不透明な環境です。そのため。企業単位の判断の独自性が弱くなり、CFOの役割は小さくなります。大村教授は「日本はライン型/アルペン型に分類されます」と指摘します。

次に大村教授は、経営学者の井手正介氏による仮設を紹介しました。井手氏は、アメリカの資本主義を、主体による意思決定を優先し、成果評価は企業単位で行う「ミクロドリブンな資本主義」、日本の資本主義を、国家全体の資源配分を優先し、成果評価はマクロ指標とする「マクロドリブンな資本主義」と名付けています。ミクロドリブンの場合は、企業単位での判断が重要となるため、CFOの役割が大きくなり、マクロドリブンでは、企業の独自性が弱いためにCFOの役割が小さくなります。大村教授は、「マクロドリブンの日本企業は、コーポレートファイナンスをフィナンシャルアドバイザーやメインバンクに『お任せ』してしまうことが多いため、自社の資本コストや財務体質の改善が進まなかったのです」と説明しました。

こうした背景から、日本はCFOが育ちにくい環境にありました。しかし、これまではそれでも大きな問題にはなりませんでした。なぜなら「これまでは、事業活動が活発だったために、資本を見る必要があまりなかったからです。しかし今は、設備投資の低生産性化とグローバル化が進み、資本の効率的なマネジメントを担うCFO機能が求められるようになっています」と大村教授は語ります。

 

役割は変化し、進化する

歴史を見ると、これまでも、経営執行体制は企業の発展とともに専門分化されてきました。例えば、17世紀に発展したイギリスの貿易会社、東インド会社の時代には、ファイナンスについては経理機能しかありませんでした。それが経済の発達とともに領域を広げ、原価計算や財務諸表作成、予算執行管理など、会計管理部門をつかさどる会計責任者の分野と、資金調達や利益還元など財務会計をつかさどる財務責任者の分野の2つの機能が発展し、両者を束ねて統括する人をCFOと呼ぶようになりました。

経済が成熟して低生産性化に陥り、ものを作る人が少なくなれば、資本側が支えるしかなくなり金融が発展する。そしてCFO機能が発達します。「つまり、CFOの機能はかなり流動的で、今後もさらに変化と進化を遂げていくと考えられます」(大村教授)。

戦後の日本の製造業を見ると、「生産」「販売」「財務」という企業の主な3つの機能のうち、「生産」から始まっています。「販売」は商社にアウトソースされ、「財務」も銀行にアウトソースされました。当時はそれほど資本戦略が必要ではなかったためです。しかし市場が成熟するに従い、「販売」は内部化が進みました。そして今、市場の成熟が進み、「財務」の内部化が始まっています。
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大村教授はさらに投げかけます。「これまで日本企業でCFOが育っていなかったとすれば、それはこれまで、資本戦略がそれほど必要ではなく、銀行へのアウトソースで十分だったからかもしれません。しかしそれだけが理由なのではなく、CFOの重要性に対する認知が遅れていた面もある。こうした状況を、経営リーダーが理解しているでしょうか」

 

多様な専門性が求められるこれからのCFO

次に大村教授は、現在CFOに期待されている主な機能を挙げました。まず、伝統的なものでは、財務諸表の管理と財務会計、事業キャッシュフローの予測。最近重要になってきているタックスプランニング、新規資本予算の配分などもあります。さらに、資本調達、配当支払いや内部留保など利益の還元、また、最近特に高度化しているリスクマネジメント、M&A、CGや内部統制、株主構造、IRなども挙げられます。「つまり、これからのCFOは、多様な専門性が必要です。会計学だけでなく、現代ファイナンス理論、経営学や数学、統計学、税法などの知識も必要です。短期間で簡単に育成できるものではないのです」
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実はこれまでにも、日本企業がCFO育成の重視にかじを切る契機はありました。バブル経済の崩壊です。「バブル崩壊で銀行機能が低下し、金融人材が市場に流出。低成長性が顕在化し、資本ストラテジーへの関心が高まりました」(大村教授)。「これがCFOの育成に繋がれば」と大村教授は考え、2004年に早稲田大学大学院ファイナンス研究科を開設しました。CFO育成を目指す日本初の社会人大学院です。「しかし、日本企業の中では『財務のマネジメントで付加価値を生み出し企業を支える人材を育てよう』という機運が盛り上がりませんでした」と大村教授は当時を振り返ります。

「今再び、CFO人材の重要性は高まっています」と大村教授は強調します。そして最後に、「経営リーダー層に、そうした状況を理解し、行動につなげてほしい。また、この会場にいる方たちにも、ぜひこの分野にチャレンジしてほしいと思います。特に、ファイナンス分野は専門性が高く、実績が非常に明確な分野です。多くの女性にも挑戦してほしいと思います」と述べ、講演を締めくくりました。

 

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