ネスレのCo-pilotの役割


世界最大の食品メーカー、ネスレの財務管理部門は、財務面からのコントロールのみにとどまらず、他部門と連携してビジネスをけん引し、CEOや事業部とともに事業を推進させる「Co-pilot(コ・パイロット、副操縦士)」の役割を担っています。同グループの日本法人、ネスレ日本株式会社の執行役員で財務管理本部営業管理統括部部長の中岡誠氏は、2019年3月12日に開催されたセミナー「SAP Finance Day 2019 次世代CFO組織の役割の変化とそれを支える仕組み」の特別講演で、ネスレにおける財務管理部門の役割や、歴代CFOから学んだことについて語りました。
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財務管理部門は「パフォーマンスを加速させる触媒」

中岡氏はまず、ネスレ日本の財務管理部門について、「ネスレグループ全体のパフォーマンスを加速させる触媒(カタリスト)とされています」と説明しました。加速させる方法は大きく3つあります。1つ目が、効率的なオペレーションのサポート。2つ目が、ビジネスの成長ドライバーは何かを考え、全員に伝えること。3つ目が、自分たちが持つ競合優位性をレバレッジさせ、もっと大きく活用して成長させるにはどうしたらいいかを考えて伝え、促進することです。

こうした触媒としての役目を果たすために、どのような機能をどういった組織で担っているのかを表す図として中岡氏が示したのは、4本の柱に支えられた建物で表現された“The House of Finance”です。
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「1番左の柱は、Co-Pilots(コ・パイロット)、ビジネスパートナーで、多くの企業のコントローラーに近いものだと思います。しかし、単に部門のファイナンスや経理を行って事業をサポートするだけではなく、マーケティングのマネジャーなどと協力し、より能動的にビジネスを推進する役割を期待されています。だからこそ、Co-Pilot、つまり『副操縦士』と呼ばれているのです」(中岡氏)

中央の2本、スペシャリスト・サービスとスケーラブル・ビジネス・サービスは、どちらもシェアード・サービスとして提供されています。スペシャリスト・サービスは、税務や監査など、非常に専門性が高い分野です。これらは、センター・オブ・コンピテンス(Center of Competence)と呼ばれる組織で機能を提供しています。一方、スケーラブル・ビジネス・サービスは、会計帳簿など、スケールメリットを追求し、コスト効率を高めるために、センター・オブ・スケール(Center of Scale)というオフショアの組織でサービスが提供されています。

右端のディシジョン・サポート・サービス(意思決定サポートサービス)は、Co-Pilotsと密接に関わっています。原価計算、管理会計、事業計画などをまとめる部門で、ここでまとめた分析やKPI、レポーティングをもとに、Co-Pilotsではそれぞれのサービスを提供しています。

 

多岐にわたる、Co-Pilotの役割

次に中岡氏は、財務管理部門が担っているCo-Pilotとしての役割とはどのようなものかを説明しました。1つ目は、戦略を立案し、それを関係する部門の社員に伝えて実際の行動を促すこと。中岡氏は「これは単に、CEOや事業本部長と話をするだけではなく、率先してその部門の人たちとコミュニケーションをし、戦略の内容やその背景を説明して行動を促すところまでを含みます」と説明します。

2つ目は、立てた戦略がうまくいかなかったり、いき過ぎた場合にどうするか、何に備えるべきかを考え、シナリオを立案し、実際に備えること。3つ目は、人やお金などの資源配分です。「人については人事を考えるわけではなく、それぞれの事業でどれくらいの人数が適正か、今後ある部門が成長するためにどれくらいの配置が必要か、などを考えます。また、お金については、例えば長期的に考えて、広告宣伝やその他の販促、どちらに比重を置くべきかを考えたり、同様に設備投資を考えたりします」(中岡氏)

このほか、「KPIをモニターし、議論を触発したり意思決定のサポートをしたりする」「構造的コストを含む原価を管理し、全体の間接費や固定費をどう効率化していくかを考える」「価格やマージン戦略について、ビジネスやセールス、他部門などと合意した戦略が確実に実行されているかを確認する」「新しく取り組むビジネスの推進に積極的に関与する」などがあります。

 

Where we are, Where we go and How to get there

こうしてネスレにおける財務管理部門すなわちCFO組織の役割について説明した後、中岡氏は「私自身はCFOを務めたことはありませんが」としながら、ネスレ日本の歴代のCFOと共に働く中から学んだことや、印象深かった言葉などを紹介しました。

中岡氏は、「20年ほど前、スイスで行われた研修で、グループCFOが研修の中で話したことが強烈に印象に残っています。『今、自分たちがどこにいるのか、現状認識をする。さらに、これからどこに行こうとしているのか、どんなふうにして行こうとしているのか(Where we are, Where we go and How to get there)という3つをしっかり押さえる必要がある。そのうえで、みんなをガイドすることが大切だ』と言われたのです。シンプルでわかりやすく、Co-Pilot、副操縦士として何をすべきかを端的に表していると感じました」と語りました。
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その研修では、財務管理部門のマネジャーとして重要な10のポイントも説明されたそうです。中でも中岡氏が重要だと感じたのが、5番目の「Communicate clearly(明確なコミュニケーションを行う)、Keep it simple, stupid(愚かでもわかるように単純に)、略してKISS」です。「複雑なことを複雑に賢そうに言うのではなく、誰にでもわかるように伝えることが重要。はっきりと、伝えたいことの本質、やってほしいことを伝え、理解してもらい、行動を起こすことにつながることが大切という話が非常に印象的でした。今でも心がけて仕事をしています」と中岡氏は語りました。

さらに、ネスレの中でよく言われているという「Directionally correct, precisely incorrect(方向性は正しいが、細かいところは間違っている)」という言葉を紹介しました。「私なりの意訳をすると『木を見ず森を見よ』。正しい方向性を決めるために必要な情報を、すばやく提供することが大切ということです。いくら詳細にボトムアップで積み上げたデータを出しても、結果的に間違った方向を示すようでは意味がありません。まず全体像を把握し、方向性をきちんと伝えることが重要です」と中岡氏は説明しました。

次の言葉は「Power of “No”」(『ノー』が持つ力)です。これはかつてネスレ日本にいたインド人のCFOから学んだそうです。「彼は非常にパワフルで、部下から何か申請や相談があると、まずNoと言って却下するところから始まりました。ですから非常に嫌がられていた」(中岡氏)。ある時、なぜNoと言うのか聞いてみたそうです。「すると、『Noにはすごいパワーがある。考え抜いたアイデアに対してNoと言われると、言われたほうは、なぜNoと言われたのか、どうしたらYesになるか考える。つまりNoには、人に考えさせ、成長させるパワーがある』と言うのです。確かに、人はNoと言われてから考え始めます。Noの持つ力を理解し使えるようになれば、人を成長させられる。このことは今も、自分の部下によく話しています」と語りました。

 

間接部門も「マーケティング」を

最後に中岡氏は、現在のネスレ日本のCEO、高岡浩三氏の言葉を紹介しました。「マーケティングを『顧客の問題を見つけて解決すること』と捉えると、会社の経営やマネジメントは、マーケティングそのもの」というものです。中岡氏は「これは今や、ネスレ日本の社員全員に伝わっている考え方です。私たち間接部門の顧客は、社員や他社の人びとなど、多岐にわたります。ただ数字を計算して提示するだけでなく、どんな見方を提供すれば、人が納得して行動できるかを考えるのが財務の仕事」とし、高岡氏の言葉をCFO部門に当てはめた場合の解釈を示しました。

また、高岡氏は中岡氏に、「積極的に外と繋がりなさい。目を広く外に向け、広いネットワークから取り入れたものを自分が持つ情報と融合することで、イノベーションが起こせる」と伝えたそうです。「高岡は、『オフィスでパソコンを見ているだけが仕事ではない。データを持ってお客様先の、営業部門だけではなく経理部門などを訪問し、お互い、どうしたら効率よくビジネスが進められるかを探れ』とも言っていました」と語り、「こうした考え方は、私も社内でしっかり伝えていきたい。また、もしこの会場にお越しのみなさんの中に、ご自身が進める取り組みについて意見交換させていただける方がいらっしゃれば、ぜひお話をさせていただきたい」と述べて、講演を締めくくりました。

 

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