デザイン思考によるSAPの企業変革の道程


2019年3月12日に開催されたセミナー「SAP Finance Day 2019 次世代CFO組織の役割の変化とそれを支える仕組み」は、SAPジャパン株式会社のバイスプレジデントで、チーフトランスフォーメーションオフィサー兼デジタルエコシステム統括本部長の大我猛によるオープニングセッションで幕を開けました。大我は、SAPがどのように「デザイン思考」を活用して企業変革を推進したかについて、具体的な例を挙げながら説明しました。

 

破壊的イノベーションを生むために

最近、「インダストリー4.0」や「第四次産業革命」などの言葉をよく耳にします。こうした変革は、これまでのような、「既存技術を改良しながらお客様への提供価値を上げていく」といったやり方とは大きく異なります。改善の積み重ねではなく、これまでとは全く違うコンセプトや、新しいパラダイム、ビジネスモデルによる、非連続なブレークスルーが求められます。

 

スライド8

こうした非連続なブレークスルーとなる新しいコンセプトや技術に対し、最初はその価値や可能性を過小評価し、まともに取り合わないといった対応をしがちです。例えば3Dプリンターも、登場した当初は「おもちゃではないか」「何に使えるのか? 実用に耐えるのか?」といった反応が非常に多くありました。しかしいつの間にか3Dプリンターは産業の世界に入り込み、建材や航空部品までも作ることができるようになってきています。

破壊的イノベーションをどうしたら生み出せるのか、また、こうしたイノベーションの種に出会ったときに、それを正しく評価し取り入れるにはどうしたらいいのか。我々は今、こうしたテーマに取り組んでいます。

その中で、3つの「P」の重要性に気付きました。1つ目の「P」はPeople、「人」です。これまで接点がなかったような、異なる業種や業界の人たち、自分にとっての“異邦人”との関わりです。2つ目の「P」はPlace、「場所」です。既存事業から離れてみることです。3つ目の「P」がProcess、「プロセス、過程」です。ビジネスをスケールさせるための共通言語やフレームワークを指します。どの視点が欠けても、企業の変革やイノベーションを起こすことはできません。中でもここでは、3点目の「P」、プロセスに注目します。我々SAPではここに、デザイン思考を取り入れています。

デザイン思考の重要性を表す事例を1つご紹介しましょう。人の体内を写したMRI画像に小さなゴリラの絵を紛れ込ませ、これを放射線科の医師に見せるという実験を行ったところ、83%がゴリラの絵に気付かなかったというのです。つまり、プロであればあるほど、自分が過去に得た経験によってバイアスがかかり、新しいことに気付きにくくなることを示しています。同様のことが、ビジネスでも起こりえます。イノベーションの種となるものが目の前にあっても、それに気付かず、存在しないかのように見過ごしてしまうのです。

これまでの経験によって形作られたバイアスは、ものごとを効率的に行うためには役立ちます。しかし、新しいものに出会ったときには、それを無視し、排除する働きをしてしまうことがあるのです。

「デザイン」というと、日本語では「意匠」ととらえられがちですが、実はたくさんの意味があります。もともとデザインとは、de-sign、つまり、記号(sign)を否定する(de)ことを意味します。バイアスを取り除き、新しい動きに気付いてイノベーションにつなげるために役立つのが、デザイン思考なのです。

 

「答え」ではなく「問題」を探す

今の世の中では、「答え」を得ることは、それほど難しいことではありません。検索エンジンを使えば、答えらしきものはすぐに見つかります。それよりも大切なのは、そもそも「どの問題を解くべきか」を探すこと、つまりプロブレムファインディング(問題や課題を発見すること)です。
スライド17

人はものごとに取り組むとき、すぐに答えを出したがる傾向があります。問題や課題に出会うと、これまでの経験から仮説を立てて選択肢を挙げ、それぞれのメリットデメリットを洗い出して判断する。それがこれまでの優秀なビジネスパーソンでした。しかし新しいことを生み出そうとする場合には、「そもそもそれが本当にイシュー(論点)なのか」「違うのではないか」と考える必要が出てきます。

ニーズをどうビジネスにつなげるか、つまり、テクノロジーとビジネスの交点はどこかを考える前に、そもそもお客さまはそれを欲しているのか、ニーズに合致しているのかを考えなくてはなりません。

ただ、お客さま自身も、自分たちのニーズがどこにあるのかを知らない場合が多いのが現状です。有名なエピソードに、「自動車メーカーのフォードが、もし、お客さまのニーズを聞いて商品開発をしていたら、おそらく一番速い馬車を作っていただろう」というものがあります。表層的なニーズにとらわれず、それまで存在しなかった自動車というイノベーションを起こすことができたのは、デザイン思考に通じるものがあります。

もう1つ有名な事例をご紹介しましょう。検査機器のMRI(磁気共鳴画像)ですが、病気の子どもたちは検査を受ける際に、恐れてとても嫌がります。こうした「課題」を解決するため、技術者は当初、「大きいため威圧感があって恐れるのではないか」とコンパクト化を考えたり、「音が大きいために検査を怖がるのではないか」と静音化を考えたりと、機能面での改良を考えました。

しかし、MRIメーカーのGEはデザイン思考に出会います。そして、MRI本体や周辺を宇宙船や船、潜水艦、お花畑のように楽しくペイントし、まるで遊園地のアトラクションのようにしたのです。すると、子どもたちが喜んで検査を受けるようになりました。機能的改善は行っていませんが、「お父さんお母さんと遊びたい」「外で遊べる子どもたちがうらやましい」といった、子どもたちの気持ちに寄り添ったのです。「機能」ではなく、「人」にフォーカスすることで、ものごとのとらえ方が大きく変わることを表しています。

 

失敗を重ねて成功する

デザイン思考のプロセスでは、いきなりプロブレムソルビング(課題解決)に入るのではなく、まず「真の課題は何か」を考えます。そして同時に、手段を考えながらすぐに実行(Do)に移します。Doが重要です。

従来型のやり方では、仮説を立てて計画するところに比重が置かれ、実行に移すまでに時間がかかります。また、実行して「失敗」することを恐れます。しかし、挑戦し続け、失敗し続けることで、早く高い成果を得ることができます。なぜなら失敗することで、より早く学びが得られ、次に活かすことができるからです。

SAPがグローバルでデザイン思考を取り入れてから7、8年経ちますが、明らかに企業カルチャーは変化しています。新しいことに、果敢に、ポジティブに取り組もうという文化に、会社全体が変わっています。

これからCFO組織にも、さまざまな変化が起きるでしょう。その変化をどのように取り入れるか、企業の姿勢が問われます。新しいものを取り入れるときに生まれる抵抗感を取り除き、挑戦を続けながらイノベーションを起こすために、デザイン思考がどう役立つか。本日の講演で、その一端を感じていただき、何らかのヒントになればと願っております。

 

●お問い合わせ先
チャットで質問する
Web問い合わせフォーム
電話: 0120-554-881(受付時間:平日 9:00~18:00)