デジタルトランスフォーメーションを梃にしたファイナンス組織のあり姿


事業環境がダイナミックに変化し続ける中、自社が勝ち残り続けるためにファイナンス組織は何をすべきなのでしょうか。2019年3月12日に開催されたセミナー「SAP Finance Day 2019 次世代CFO組織の役割の変化とそれを支える仕組み」の中で、SAPジャパン株式会社、CFOソリューション推進室、シニアソリューションプリンシパルの中野浩志は、デジタルテクノロジーを活用したファイナンス組織の姿や、機械学習を利用した将来予測型経営管理に向けた具体的な取り組みなどについて、事例を交えて紹介しました。
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SAPが推進したルール・組織・プロセス・IT「四位一体」の変革

SAPはここ数年で、大きく事業構造を変えました。2010年にはERPが事業の9割を占めていましたが、2016年には4割を切っています。増えた部分は、クラウドを中心とした新しいビジネスで、主にM&Aによって成長してきました。

この変化はファイナンス組織にも非常に大きな影響を与えました。M&Aによって、文化や考え方、これまで従ってきたルールが異なる人たちが新たに加わる中で、グループ横断で情報を可視化し、ガバナンスをきかせながらオペレーションをしなくてはなりません。さらに、M&Aで加わったクラウド型のビジネスモデルは、従来型のビジネスとは課金や収益認識のタイミング、回収方法や頻度なども異なります。もちろん、財務諸表の正確性やコンプライアンスは今まで通り重要ですが、それだけではなく、事業構造の変化に対応しながら、いかに事業に貢献できるビジネスパートナーになるかが大きなテーマとなりました。

これは、システムの統合だけでは実現不可能です。そこでSAPのファイナンス組織は、デジタルテクノロジー、デジタルトランスフォーメーションを梃にして、「ルール」「組織」「業務プロセス」「IT」の、四位一体の変革を行いました。

以前は、世界にある法人ごとに、財務会計、管理会計、資金管理や税務などの機能がありましたが、これらを再配置しました。まず、事業分析や案件サポートなど、事業を直接支援する機能は各法人に残し、それ以外は本籍地とレポートラインをグローバル組織に移しました。このうち定型的に処理できる業務はシェアードサービスセンターが、監査や税務など、一定の専門性を伴った意思決定が必要な業務は、COE (Core of Expertise)がサービスを提供する形としました。

グローバルシェアードサービスに移行してみると、同じ会計処理でも、地域によってやり方が大きく異なることがわかりました。このため、地域主軸マネジメントからプロセス主軸のマネジメントに切り替えました。P2P(Procure to Pay)やR2R(Record to Report)など地域横断でエンドツーエンド業務プロセスごとに、簡素化や標準化、自動化推進の責任を持つ「グローバルプロセスオーナー」という役割を置き、それぞれでPDCAを回すように変更しました。

これらの取り組みにより、例えば「受注から入金」のプロセスを見ると、2011年から2015年でM&Aにより取引量は26%増加したにも関わらず、全体のオペレーションコストは8%下がりました。プロセス全体をエンドツーエンドで見ることで、効率化が進んだのです。そして、M&Aを通して事業構造を変える中で、PMIをスムーズに行い、成長と収益性の両立を支えるインフラとしてシェアードサービスセンターは大きな役割を果たしました。

こうしたデジタルトランスフォーメーションにより、CFOの役割も変化しました。以前は財務会計、管理会計、資金管理すべてをCFOが見ていたため、CEOの相談役(ビジネスパートナー)としての役割には、あまり時間が割けていませんでした。しかし、オペレーション業務の多くをグローバルに移したことで、ビジネスパートナーとしての役割を強化できました。例えば現在、SAPジャパンのCFO、安相元(アン・サンウォン)の業務時間の6~7割は、SAPジャパンCEOの福田譲とのコミュニケーションに使われています。

 

変革を後押しした次世代ERP、AI、クラウド

こうした変革を可能にしたのが、デジタルテクノロジーの進化です。中でも特に大きな武器となったのが、「次世代ERP」「人工知能(AI)」「クラウド」の3つです。これらを使って、徹底的な自動化を行い、新しいことにチャレンジして変革を推進するための時間や工数を生み出すのです。さらに、明細即時集計型多軸分析やシミュレーションにより、意思決定や経営資源の適時・適切な配分を支援することが可能になります。

おそらく現在はまだ、多くの企業のERPは集計テーブルを持っていると思います。しかし次世代ERPであるSAP S/4HANAは、集計テーブルの必要がありません。必要な取引データを全件見に行って即時集計してレポートしても、パフォーマンス上、まったく問題はありません。

仕事の仕方も変わります。例えばバランスシート上で何か異算値があった場合、以前であれば、そこから先に進むことはできませんでした。しかしSAP S/4HANAの場合は、その場でドリルスルーして原因を探ることができます。

こうした明細即時集計型多軸分析は、SAPの役員会の場でSAP Digital Boardroomという経営ダッシュボードで活用されています。これは2つの変化をもたらしました。
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1つ目はスピードです。以前は異常値や目標との乖離があった場合は、持ち帰って、次の会議で調べた結果を報告するしかありませんでした。今は即時集計が可能なので、その場で判断できるため意思決定のスピードが速くなりました。

2つ目は、会議に参加するボードメンバーをサポートするスタッフの役割です。これまでは会議の前に、資料の準備に多くの時間をかけていました。しかし今は、資料を準備する必要がありません。スタッフは、環境の変化が起きた場合にどのようなアクションを取るべきかを考えたりすることに集中できるようになっています。

 

急速に精度が高まる、機械学習による予測

SAPでは、機械学習を使った予測も活用しています。SAPでは四半期先の予測と年度着地予測と2つの予測業務がありますが、このうち年度着地予測については、2018年から、機械学習による予測値を使って投資家とコミュニケーションを行うようになりました。

機械学習による年度着地予測の精度は、かなり上がっています。導入前に、ボトムアップの集計による予測と比較しながら1年間ベンチマーキングを行ったのですが、機械学習のほうがボトムアップよりも精度が高くなりました。例えば、2018年着地予測の結果を見ると、機械学習による2018年1月30日時点の年度売り上げ予測も営業利益の予測も、実績値とは1~2%程度の誤差に留まっています。

精度の高さに加え、スピードも強みです。例えば、市場環境の変化により、年度着地の修正をしようとすると、以前のボトムアップ集計では1週間程度かかっていました。これが機械学習だと瞬時でできてしまいます。

機械学習はほかにも、さまざまな使い方ができます。どこを変えると全体への影響が大きいかを調べる影響度分析も可能です。また、例えば売上増や予算未達の要因を、相関分析により相関関係が強いものから順に並べて適切な判断をサポートしてくます。因果関係の分析は人間がしっかり行い、意思決定や適切な施策検討を行う必要がありますが、大量データを利用した相関関係の判断までは機械学習が行ってくれるのです。SAP S/4HANAの場合は、こうした機械学習の仕組みを別途作る必要がなく、ERPに蓄積されたデータをシームレスに利用して予測型経営管理の高度化に繋げることができます。

SAPでは、本社のグローバルコントローリングという部署が年度着地予測を担当していますが、ここもファイナンス組織と同様、デジタルトランスフォーメーションによって役割を大きく変えています。

例えば2015年は、業務の7割が、スプレッドシートなどを使ってレポートを作成するなどのマニュアル作業で、残りの3割が事業部門を支援するビジネスパートナリングでした。ファイナンス組織全体がビジネスパートナーに向けて変革する中、グローバルコントローリングもこの割合を逆転させようとしています。年度着地予測に機械学習を取り入れるという取り組みは、こうした施策の一つです。同部署ではそのために、フォーキャスト(予測)COEという専門職のポジションを作り、機械学習を使った予測を行うスキルをサポートする教育を進めています。
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おそらく今はまだ、システムが事業や地域ごとに最適化されており、データを横串で持てないという問題を抱えている企業が多いと思います。一気呵成に変えることは難しいので、まずは「あるべき姿」とロードマップを描き、効果の高い業務領域から取り組むというアプローチが有効なのではないかと考えています。

本日の講演が、みなさまの検討や施策のお役に立てば幸いです。

 

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