これからの財務部門はテクノロジーをどう活用するか? SAPグループのデジタルファイナンスの取り組み


2018年12月11日に開催された「SAP Leonardo NOW Tokyo」において「デジタル時代のCFO部門の在り方~変革を支える経理財務部門の組織の変化と今後の展望」と題されたセッションでは、デジタルファイナンスに対するSAPグループの取り組みや具体的なデジタルテクノロジー事例を紹介。先進的な取り組みを進めている企業から講師をお迎えし、パネルディスカッションも行われました。

SAPグループの財務組織改革

はじめにSAPジャパンの代表取締役 常務執行役員 最高財務責任者(CFO)のアン・サンゴンより、SAPグループの財務組織の改革について説明しました。財務組織にもオペレーションの効率化、リスクと財務コンプライアンスのプロアクティブな管理、デジタルトランスフォーメーションの推進が求められています。しかし数年前までは、硬直したレガシーERPシステム、新たなビジネスモデルによる複雑さの増大、財務とコンプライアンスのプロセスにおける柔軟性低下、手間のかかる報告作業などの課題を抱え、非効率な組織となっていました。

そこでERPのコアをSAP S/4HANAに進化させるとともに、AI技術を使って効率を高め、ビジネスの目標を理解して成功を支える柔軟な組織へと変革し、顧客のニーズにアジャイルに対応できるよう、組織改革に乗り出します。SAPでは、財務組織には「ガバナンス・法令遵守を徹底させる役割」「ビジネスパートナーとしての役割」「変革を推進する役割」の3つがあると定義しています。

Leonardo Now CFO Session_Final Share.pdf P8

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組織面では、子会社ごとの財務業務を本社に集中させ、制度や税務、財務、プロセスなどをグローバルに集約して標準化を実施。各子会社のCFOがビジネスパートナーとしての役割に集中できるようにしています。

一方テクノロジー面ではSAP S/4HANAで業務プロセスを再構築し、SAP Concur、SAP Fieldglass、SAP Ariba、SAP Analytics Cloudなどのクラウドテクノロジーを使い、ビジネスの効率化と可視化を実現。組織の変革とは新しいミッションが生まれることになるため、効率化を求めるには新しい技術を利用し、異なる組織とのコラボレーションが必要となります。それを支えるのは人であり、そのための継続的な学習なども重要です。

Leonardo Now CFO Session_Final Share.pdf P13

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デジタルファイナンスに有効なクラウドソリューション

続いて、SAPジャパンのCFOソリューション推進室 シニアソリューションプリンシパルの中野浩志が登壇し、財務組織変革で使われたテクノロジーについて解説しました。多くのCFO部門は、デジタルテクノロジーに高い関心を持ち、インメモリーの超高速処理、ERPとBIの統合、機械学習などに注目しています。シェアードサービスやCenter of Excellence(CoE)などを使い、業務遂行体制を変え、効率化や強化を実現したいと考えているのです。

CFO部門の武器となるデジタルテクノロジーは、次世代ERP、AI、クラウドです。新たなチャレンジを行うためには、工数を減らすことでリソースを確保して付加価値の高い業務を行うとともに、明細データを即時かつ多角的に分析できるインフラを整備して意思決定を高度化していく必要があります。

意思決定の高度化の具体例として、「明細即時集計型多軸分析」と「機械学習を利用した年度着地予測」の2つの方法をご紹介します。SAP S/4HANA Financeのような次世代ERPによる明細即時集計型多軸分析では、従来は業務単位で分離していたデータ構造を統合し、事前集計値を持つことなく、すべての明細データを即時に、任意の切り口で集計/分析できます。また、財務会計や管理会計、固定資産など複数に分かれていた伝票データも統合され、横断的に即時に集計してレポートすることが可能です。SAPでは、約8億5,000万件の明細データを瞬時に分析。会議中に懸案が出てきても、その場でドリルダウンして分析できます。

Leonardo Now CFO Session_Final Share.pdf P19

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また、SAPの予測には、四半期予測と年度着地予測の2つがあります。計画ツール(BPC Business Planning&Consolidation) を活用して各ローカル拠点から地域統括、本社へとデータ受け渡しの整流化を図ったものの、年度着地予測の精度が悪いのが課題でした。そこで年度着地予測については機械学習を利用することで恣意性を排し、事実に基づく予測および影響度分析を迅速かつ少人数で実現しています。

Leonardo Now CFO Session_Final Share.pdf P21

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SAPでは、年度着地予測に機械学習を利用することで、2017年はグループ全体の年間営業利益を99%の精度で予測。また、これまでは業務の7割を占めていたレポート作成業務を3割まで減らすことで、事業側のニーズをより深く理解し、社内のデータサイエンティストと連携して予測データモデルをデザインする役割に注力できるようになりました。

効率化には、エンドツーエンドで業務プロセスを標準化・簡素化・自動化する必要もあります。SAPでは財務オペレーションを本社に集約し、定型的な業務はシェアードサービス、意思決定や専門性が必要な業務はCoEが行い、地域横断で業務プロセスを標準化、簡素化、自動化しています。例えば2015年は、2011年比でM&AなどによりP2P(調達から支払い)の取引量が20%増加したにもかかわらずオペレーションコストを4%削減。さらに、調達から支払いまでの管理をSAP Ariba、外部要員管理をSAP Fieldglass、出張および経費管理をSAP Concur、全ての支出カテゴリーを横断した統合支出の可視化・分析をSAP Analytics Cloudを使うなどの新たなクラウドベースのアーキテクチャーに移行しています。

デジタルでCFOが実現できることと今後の変化

最後に行われたパネルディスカッションは、EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 パートナーの石塚卓氏をモデレーターに迎え、株式会社ブロードリーフ 取締役 副社長の山中健一氏、大手グローバル企業のY氏に、SAPジャパンCFOのアン・サンゴンが加わりました。

最初の議題は、「ITとデジタルの違いは?」というものです。サンゴンは、ITはオペレーション効率を改善するものであるのに対し、デジタル化は業界に破壊的な創造と新たなビジネスチャンスをもたらすものだと説明。続いてY氏は、デジタルによって数万人の社員の資質データの分析が可能となり、調達交渉に役立てられるようになったと話し、山中氏は、テクノロジーの進化によって、非常に細かなデータを時系列に取ることができるようになり、まったく知らなかった未知の領域や世界観が広がってきていると語りました。さらにモデレーターの石塚氏の示した見解は、ITは90年代から2000年代まで人力でやってきたことを機械がやれるようになったことを指す一方、デジタルは大量のデータを自動的に収集でき、これまで人ができなかったことができるようになることというものです。

次の議題は、「デジタル化された世界の中で実現できることとは?」です。Y氏は、国内従業員の約70%が所属するグループ会社にSAP Concurを導入した結果、従業員はデータ入力に煩わされなくなる一方、全体の購買データを細かく集計/分析でき、データの見える化で気づきが生まれ、コスト削減が実現できていると語りました。続いて、約20年前からECのデータなどを分析/活用してきたと語る山中氏は、デジタルの世界で最も変わったのは仮説/検証の部分だと示唆します。以前は、日々のデータをバッチでデータウェアハウスに落とし、BI分析を専門チームが時間とコストをかけて行っても、それを基にした仮説/検証の正確性は必ずしも高くありませんでした。現在はほぼ自動的に市場動向やユーザーの声を拾って分析することができるようになり、迅速に何度も仮説/検証を行えることで商品価値や顧客体験を高めているといいます。

最後に、「今後のCFOの役割は?」というテーマで議論が交わされました。サンゴンは、CFO組織は、テクノロジーを活用してより効率的に運営することが求められていると説明。たとえば、SAPでは、SAP Digital Boardroomを使ってリアルタイムデータをグローバルで同時に見られるようにし、機械学習を使った分析を行って迅速に細かなレポートを作り、ビジネス課題をリアルタイムに把握し、適切な意思決定に活用していると話しました。一方、山中氏は、今後は単純な意思決定はなくなり、CEOがAIから助言を受けて意思決定するような時代になっていくと予想。次世代のCFOは、企業を成長させるための財産にはお金だけでなく知財や人財も含まれると考え、どう管理して役立てていくかを支援していくようになると語りました。

最後に石塚氏は、今後の会社の成長や方向性を考えてデジタル化する上で、何が足りないかをCFOが理解しておく必要があると強調。CFOに知見があれば、足りない部分を埋めるためにアライアンスやM&Aを行う際に適切な意見を出せるが、なければ取り残される可能性もあると語り、CFOの知見や経験が重要になってくると締めくくりました。