世界No.1鉄鋼メーカー アルセロール・ミッタルの取り組み 第2回:顧客ロイヤリティ向上を目指したECサイト


当ブログの第1回では、アルセロール・ミッタルの「最善の顧客サービスを目指したサプライチェーン改革」について、具体的な活動と成果をお伝えしました。第2回も顧客サービス向上に向けた取り組みを扱いますが、今回は顧客接点にあたる「ECサイト」にスポットを当てたいと思います。

鉄鋼業界を取り巻くEコマース

インターネット・バブルの1990年台末に立ち上がっては失敗した鉄鋼業界のEコマース。現在は西ヨーロッパや中国、またインドを中心に普及が進んでおり、特に中国の鋼材ECサイトであるZhaogang.comは、世界最大の中国鉄鋼市場における10%強の売上高を占めると言われています。ヨーロッパに目を向けると、世界最大の鉄・非鉄の販売代理店であるKloeckner社が出資し設立されたXOM Materials社は、自社で取り扱う製品だけでなく、競合他社が出品可能なデジタルプラットフォームを運営しています。2018年の第三四半期では、デジタルチャネルを介して生み出されたグループ売上の割合は 23% まで増加し、2020年期末には 50%見込んでいます(グループ全体の2017年度の売上高は約63億€ )。 –>  Leading the digital transformation of metal distribution

このように、オンラインのプレゼンス強化は鉄鋼業界でも待ったなしであり、アルセロール・ミッタルヨーロッパ経営陣はECサイト立ち上げを2016年末には決定していました。

ECサイト立ち上げの目的:
・”鉄鋼市場No.1 ポジション”の維持・強化
・顧客ロイヤリティ向上および新規顧客の開拓
・販売業務の自動化によるコスト削減

成熟したサプライチェーンを持つ同社にとって、一度ECサイト構築を決定した後の動きはとても素早いものでした。フランスにEコマースチームを編成し、テクニカルパートナーをベルギーから選定し、オフショアサイトをモロッコから選定しました。また同社のSAP関連部署をプロジェクトに組み込み、開始からわずか6ヶ月後の2017年6月にECサイト「e-steel」はリリースされました。

 

顧客ロイヤリティ向上を目指したECサイト

アルセロール・ミッタルのECサイト「e-steel」は、ヨーロッパ5カ国でサービス展開(2019年5月末時点)

ECサイト「e-steel」は現在、ヨーロッパ5カ国でサービスを展開しています(2019年5月末時点)

(画像をクリックすると英語版ECサイトに飛びます)

筆者が実際にアカウント登録してECサイトを確認したところ、以下のような特徴を確認できました。取扱製品の特性上、一般的なコンシューマー向けのECサイトと単純に機能比較することはできませんが、リアルタイムで在庫状況・配送予定日・配送料含む料金が表示されるあたり、同社サプライチェーンマネジメントの成熟を感じます。

ECサイト特徴:

  • 在庫状況「在庫あり」「まもなく入荷」「在庫切れ」がリアルタイム反映される
  • クレーンを利用した現場の荷降ろし要否を選択できる
  • サイズと重量で配達予定日を自動計算し、注文から24-72時間で配送される
  • 配送センターで集荷することもできる
  • 注文後、配送センターの4営業時間内であればキャンセルできる
  • 製品価格は定期的に更新され、またボリュームディスカウントもリアルタイム表示
  • 配送料はサイズ・重量・配送先により計算される
  • 出荷状況、注文履歴、支払い情報などを確認できる
  • 購入者ごと(ユーザIDごと)に購入限度額を設定できる
  • 24時間365日注文でき、繰り返し注文もできる
  • 問合せは、配送センターへ直接電話、もしくはメール送信(注文画面に、電話番号、メールアドレス、対応可能時間が記載されている) など

また同社は顧客ロイヤリティ向上に向け、「顧客教育」を重視しています。適切な情報提供を通じ、顧客の購買トラブルの未然防止につなげ、アルセロール・ミッタルへの信頼度を高め、顧客の業界内(例えば自動車業界や建設業界)における好意的な口コミの波及につなげる狙いを感じます。

「e-steel」の製品注文画面。顧客ロイヤリティ向上に向けた狙いを随所に感じさせます。

「e-steel」の製品注文画面。顧客ロイヤリティ向上に向けた狙いを随所に感じさせます。

 

この取り組みにより、ECサイトリリースから1年半が経過した2018年末時点で、顧客ロイヤリティはNPSベースで20%向上したと言われています。なお、ECサイトからの売上・受注件数・閲覧数などは非公表とされています。ただ、仏・トゥールーズ市へのパイロット配送からスタートした同社サービスは2019年5月現在、ヨーロッパ5カ国(オランダ、ルクセンブルク、イタリア、フランス、ベルギー)へと配送先を拡大しており、確実に歩みを進めています。

足元の業績は好調な同社にとって、ECサイトによる売上高比率は決して高くないことが推察されます。このことは他の鉄鋼メーカーにとっても当面は同じかもしれません。ただ他のECサイトにより既存市場をディスラプションされうるという危機感を持つこと顧客クレームを積極的に拾い顧客ロイヤリティ向上につなげる同社の取り組み、また顧客にとってこのECサイトのエクスペリエンスが標準になりつつあることは、他の鉄鋼メーカーも意識することが良いと思われます。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、アルセロール・ミッタル社のレビューを受けたものではありません。

参考情報:

McKinsey Quarterly “How a steel company embraced digital disruption
Accenture Blog “Digitizing the steel market: Not if, but when