海から食卓へ – Bumble Bee社:ブロックチェーン活用で「食のトレーサビリティ」を実現

作成者:大滝 明彦 投稿日:2019年6月19日

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米国最大のマグロ生産加工業者は、フェアトレードの条件下で持続可能な漁業を実現するために、ハイテクを活用しています。

スーパーマーケットで魚のパックを手に取り、その魚が遥か遠くの海からどのような経路を辿ってきたのか気になったことはありませんか?いったい誰がその魚を捕獲し、パッケージングして、出荷したのでしょうか。

1899 年創業の国民に最も親しまれている北米最大のシーフードブランドの 1 つである Bumble Bee Foods の CIO、トニー・コスタ (Tony Costa) 氏は、次のように述べています。「当社の消費者や顧客は、より一層、食品の調達と安全に対して完全な透明性を求めるようになっています。ブロックチェーン技術のおかげで、近い将来、買い物客は携帯電話で QR コードをスキャンするだけで、その魚について、また、それがどのように持続可能な方法で捕獲されたのかについて、価値ある洞察を得られるようになるでしょう」

より良い地球の創出

地球環境の改善に向けたブロックチェーン構築に関する最近の WEF のレポートによると、漁業の専門家は、ブロックチェーンなどの先端技術を活用することで、魚を「捕獲から食卓まで」追跡することができ、意思決定や持続可能な管理に役立つ透明性と質の高いデータを提供できると信じています。

コスタ氏は、2014 年に Bumble Bee によって買収された天然魚および養殖魚の調達のグローバルリーダーである Anova Food について言及し、次のように述べています。「当社では、キハダマグロ商品の Bumble Bee Natural Blue® by Anova® 用に SAP のブロックチェーンソリューションを導入することに大きな期待を寄せています。当社では、当社のマグロをインドネシアでの調達から米国内店舗での販売まで追跡するために、インドネシア政府やサプライヤー、加工業者、Fair Trade USA などの NGO を含め、多くのパートナーと協力しています」

綺麗な海での手釣り

コスタ氏は、フェアトレード認証を受けた漁場で生活している村人に会うために、インドネシアのセラム島にあるアンペラ村を何度も訪れました。彼らの暮らしは、その日の漁獲量に応じた報酬で成り立っています。フェアトレード認証を受けた漁場では、漁師は公平な賃金と安全な労働条件を保証され、環境とコミュニティの継続的な発展の包括的な保護に貢献しています。

コスタ氏は次のように述べています。「このようなインドネシア辺境の漁村を訪れて、私たちが持続可能な漁業と環境へのコミットメントに対する情熱を分かち合っている様子を見ることは、本当に素晴らしい体験です。漁師が釣った獲物とともに村へ戻ると、村人は外へ出てきて祝福します。魚は現地の買付人に買い取れて、ここからブロックチェーンが始まります」

米国および日本の消費者向けにキハダマグロ漁をして生計を立てている現地の漁師ジャファー (Jafar) 氏は、テクノロジーによって自分の重労働のストーリーを伝え、漁獲物の鮮度と品質を保証できることを誇りに思うと述べています。

Bumble Bee1

「海から食卓まで」のストーリーには、多くの章があります。

漁師が水揚げした魚は、荷捌所に運ばれ、ここがブロックチェーンの最初のスキャンポイントになります。

「私たちは、単に魚を売るだけではありません」荷捌所の経営者で Anova のサプライヤーであるロバート・ジョアンダ (Robert Tjoanda) 氏は、このように述べています。彼は、ブロックチェーンプロジェクトによって自分の競争力が増すと信じています。「QR コードは、魚の産地、加工方法、捕獲者についてのストーリーを伝えます。このような情報は、私たちを差別化し、私たちの魚がフェアトレードの条件下で、綺麗な海で獲れたものだと証明してくれます」

魚は、計量、パッケージング、タグ付けされ、スラバヤ市にある Anova の厳しく管理された生産プラントへ輸送され、最終製品へと加工されます。ここで、大規模な食料品店チェーンや高級レストランなどの顧客の要望に応じて従業員が魚を部位ごとに切り分け、米国へと出荷します。

品質テスト

ストーリーは、試験所へと続きます。この試験所は、品質保証において最も厳しい国際規格である ISO-17025 認定を取得しています。

「この試験所はブロックチェーン情報を管理する独立エンティティなので、この試験所からの結果を不正に操作することはできません。このため、ブロックチェーン技術を使用することが非常に重要なのです」とコスタ氏は説明します。これは、5 人に 1 人がマグロを食べているこの世界では重要なことです。捕獲されて加工された魚を追跡し、監視することは、テクノロジーなしでは不可能です。

Bumble Bee は、長年にわたり持続可能なマグロの生産を行っています。International Seafood Sustainability Foundation (ISSF) の創設メンバーである同社は、科学者、マグロ加工業者、および世界的な自然保護組織である世界自然保護基金 (WWF) の間のグローバルなパートナーシップを推進しています。

「当社にとっては、将来の世代もシーフードを楽しめるよう、魚が合法的に捕獲されていることが重要なのです。当社の漁場は、漁業が魚種と生態系に与える影響を考慮しながら、科学とデータを用いて管理されています」とコスタ氏は述べています。

信用ブロックの構築

Tapscott Group の CIO であり、Blockchain Research Institute の共同創設者兼経営執行役会長であるドン・タプスコット (Don Tapscott) 氏によると、ブロックチェーンは財務取引のみならず、人間にとっての価値や重要性のほぼすべてを記録するようにプログラムすることができます。この柔軟性により、ブロックチェーンは、複数の関係者が集まり、定期的に文書を交換しているサプライチェーンにとって理想的なものとなっています。

この仕組みは、次のとおりです。まず、トランザクションデータがデジタルブロックにバンドルされます。新しいブロックは、それぞれ前のブロックにリンクされ、連続したチェーンが作り出されます。ブロックが追加されると、真正性と一貫性のためのコンセンサスアルゴリズムがトリガーされ、ブロックチェーンノードによってデータがネットワークに送信され、その他すべてのノードによって検証されます。このプロセスにより、誰も不正行為を隠蔽するためにブロックを取り消したり、古いトランザクションを削除したり、新しいブロックを作成したりすることはできなくなります。

Bumble Bee のブロックチェーンプロジェクトは、商品の生産地に関する詳細データを消費者に提Bumble Bee2供するだけでなく、サードパーティーのサプライヤーや NGO との間の関係を深め、彼らが水揚げ地、漁師、日付別の魚の購入数などの重要な漁業 KPI にアクセスしたり、モニタリングダッシュボードを使用して Anova により提供されたデータの不正改ざん防止を徹底したりすることを可能にしています。

これにより、マグロに関わったすべての人の真正性が保証されます。しかしこれは、単に海から食卓まで魚を追跡するだけに留まりません。業界の専門家と環境保護主義者は、ブロックチェーンによって DNA のバーコード化とスマートコントラクトが可能になり、これによってコミュニティまたは漁師にある一定の資源の権利が与えられると信じています。
ブロックチェーンはまだ発展の初期段階ですが、Bumble Bee や Anova のような企業は SAP Analytics などの新しいテクノロジーを先駆けて導入しており、それは世界中での商品の流通方法を変えているだけでなく、生態系や最下層の人々の生活にも良い影響をもたらしています。また、これらの企業は、単独でこれを成し遂げなければならないわけではありません。SAP は、最新テクノロジーによって実現可能なことを企業が見つけられるようにサポートする、完全な Innovation Services スイートを提供しています。

新しいアプリとダッシュボードは、ドリルダウンやドリルアウトによって異なる視点から情報を見る方法を提供します。このアプリは権限に基づいているため、各担当者は自分に関連するデータしか参照できませんが、チェーン自体はフールプルーフ(誤りや不正を防止する設計)です。

「SAP および Digital Business Services チームとの提携は、当社にとって最適なものでした」とコスタ氏は述べています。「SAP は最も重要な戦略的パートナーの 1 社であり、新たにクラウドベースのアナリティクスとプラットフォームに重点を置いて、それにブロックチェーンを組み合わせることで、当社はエンドソリューションのシンプルさとユーザーにとっての使いやすさを保ちながら、テクノロジーを取り入れていく新たな方法について構想できるようになりました。ソリューションはクラウドに展開されているので、SAP はソフトウェアに集中でき、当社は漁師と魚の管理に専念できます」

この取組は本年度の SAP Innovation Awards 2019 にエントリーされました。
ご興味のある方は、是非、詳細資料を併せてご覧ください。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、Bumble Bee Foods社のレビューを受けたものではありません。

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