SAP Ariba「戦略的調達への変革の道筋」セミナーレポート


日本企業が「戦略的調達」に舵を切るために

欧米では調達・購買業務の「戦略的調達(Strategic Sourcing)」という考え方のもと、間接材領域にも調達・購買部門が介入しています。しかし、調達・購買業務をサプライチェーンの一環として位置づけている日本ではまだ戦略的調達の概念が薄く、間接材の業務プロセスにほとんど変化が見られません。2019年4月24日に開催したSAP Aribaのセミナー「戦略的調達への変革の道筋」では、調達のスペシャリストである購買ネットワーク会 代表の梅原広行氏、アフラック生命保険株式会社の日下部淳氏と高島潤氏をお迎えし、戦略的調達実践に向けた取り組みのポイントを紹介しました。会場P/Lに影響する購買戦略とは

最初に購買ネットワーク会 代表の梅原広行氏が「間接材における事業戦略と購買戦略の関係」について解説しました。購買ネットワーク会は、770社・1,600名を越える  購買関連ビジネスパーソンが集まる日本最大のフォーラムです。

間接材料費とは一般的に製造原価以外のことを指し、IT、コンテンツ制作、コールセンター、オフィスのファシリティ、リクルーティングなどの費用が含まれます。間接材の比率は自動車業界で約25%、消費財メーカーでは50%以上と言われています。そのため、間接材コスト削減は「競争戦略」となり、本気で取り組めば20~50%は確実に削減可能と梅原氏は指摘します。欧米企業では専用の人員を配置してコスト削減やコスト最適化に取り組んでいますが、日本企業はなかなか進んでいないのが実情です。

間接材購買の特徴のひとつは、その商材の多種多様性です。モノからサービスまで、世の中に存在するあらゆる売り物が間接材の対象となります。大企業なら購入アイテムは数十万種類に上る一方、年間で数百円しか購入しないアイテムも存在し、商材によっては調達購買部門より担当部門のほうが各種商材情報に詳しいこともあります。もうひとつは、調達に関わる社内の関連部門が多いことです。すべての従業員に対してモノ・サービスの購入が発生し、アイテムの種類、サプライヤーの数も必然的に多くなります。また、間接材は購入の動機が不明確になりがちで、曖昧な理由で仕様を選んでしまうことも起こります。

問題は、間接材の費用を削減しても、会社の収益に直接つながらないことです。P/L上に変化がないため、自部門の予算確保が優先され、「予算を使い切らないと翌年はカットされてしまう」という思考になってしまいがちです。

P/Lに影響する購買戦略を実行するには、シンプルに「単価×数量=支払額」で考えて総コストを削減することと梅原氏は語ります。単価×数量の中で、購買・調達部門がコントロールできる範囲は、「ソーシング・購入力」と「支払条件」です。それを上流にさかのぼっていくことで削減が可能になります。ただし、目先の単価だけで業者を単純に選んでいくだけでは「モグラ叩き」になってしまうため、全部門・全社を見渡した変革が求められます。

Mr Umehara 1具体的な方策は、ROI(費用対効果)の設定です。購入に対する定性、定量的なリターンを設定し、ROI基準を満たさない発注は禁止します。

企業の予算策定においては、購買・調達部門が予算を作るプロセスから参加することが重要です。部門予算に関わる間接材の購買戦略は、主管部門と一緒に作ること。企業戦略、事業部戦略、購買戦略の3つが連なることで初めて「戦略的調達」が実現するのです。梅原氏は「全社員が経営者と同じ視点を持ち、間接材のコスト削減に取り組む姿勢」が必要と示唆しました。

調達購買プロセスの一元化・最適化を進めるアフラック

続いて、アフラック生命保険株式会社(以下、アフラック)コーポレートIT室長の日下部淳氏と、調達購買戦略部 ソーシング課長の高島潤氏が「アフラックにおける戦略調達・購買改革の道筋」と題して同社が現在取り組んでいる活動の事例を紹介しました。アフラックでは、分散していた調達購買手続きをSAP Aribaプラットフォームで一元化すべく、2018年より間接材を対象に「Sourcing & Contract」と「P2Pソリューション(Ariba Buying and Invoicing)」の利用を開始しています。

以前は、各部門が独自に調達していたため、類似した物品やサービスが異なる取引先から提供され、購買力が発揮できない状態が続いていたといいます。また、各部門においては、部員が全調達プロセス(取引先選定・価格交渉・契約締結・支払)まで実施していたため、本来業務に割く時間を圧迫するという事態も発生していました。

そこで、調達・購買部門主導で以下を実施し、各部門が本来業務に集中できる環境を整備しました。

調達コストを最適化:取引先集約によりスケールメリットを享受

購買プロセスコストの最適化:重複する手続きを集約

システム基盤を構築:SAP Aribaプラットフォームを導入してサプライヤー選定から契約管理、カタログ作成までを一気通貫できるシステム構築

さらには調達購買業務のデジタル化による不正防止と内部統制強化も目指しています。

戦略的調達購買プロセスの導入では、調達権限と調達プロセスを集約する「調達購買部門」を新たに設置。調達購買に関わる暗黙知を形式知化することが狙いです。あるべき調達購買プロセスの実行に向けて、自動化や可視化も検討し、共通プラットフォームにおけるシームレスな運用や取引先別支出分析に基づく継続的取引先評価も目指しています。Mr Kusakabe 1新組織として設置した調達購買部門(SS&P)は、2017年に少人数で発足し、段階的に拡大を進め、現在は18名で組織されています。調達領域ではAriba Upstreamによって業務を集約。各実務部門との協同で機能・役割の理解や適正取引の確認をしながら、各実務部門や候補取引先の本気度を醸成してきました。その結果、申請、選定、契約プロセスの標準化、ステータスの共有、セービングレポートの活用などが実現し、公平/公正/透明な選定プロセスによる競合環境を構築しつつあります。購買領域でもAriba P2Pによって業務の標準化・デジタル化を推進し、物品の調達ではパンチアウト化やローカルカタログ化、サービスの調達においてはカタログ化を実現しています。今後も組織強化と人材育成によって属人化を排除し、オペレーションの一層の効率化を目指すことで戦略的調達を推進していくと高島氏は語っています。

アフラックが目指すS2Pサイクルは、上流の戦略的調達プロセスと下流の購買プロセスを連携し、継続的に回すことにあります。

Mr Kusakabe 2今回の調達購買部門の設置に伴い、以前は金額(垂直)および調達カテゴリー(水平)に基づき各部門で調達することが許容されていたものについて、垂直・水平、それぞれの角度から集約が進められています。また、調達プロセスにおいては、調達購買部門が各部門と協業することで各部門の知見を活かすとともに、調達購買部門が各部門に共通するプロセスを実施することで、各部門の担当者は調達業務から解放され、本来業務への集中が可能になるといいます。一方で、購買業務のうち、出張旅費に関しては、外部サービスを活用して航空券・鉄道・宿泊取引プロセスを集約しています。また、継続的に発注するコモディティについては、あらかじめ調達購買部門が選定した取引先に対して各部門が発注するだけで良いよう集約を進めているところです。

アフラックでは、最終的に目指す姿として、エコシステムであるSAP Aribaをデジタル化のためのプラットフォームとして活用する一方で、一括請求取引への移行や電子取引への移行等を通じて、D2D(Digital to Digital)を基本としたシームレスなS2Pプロセスの構築を目指しています。

単純相見積からの脱却には「カタログ化」が必須

SAPジャパン Digital Transformation Organization ディレクターの小川美之と、購買・調達ネットワーク事業本部 ソリューション部 ディレクターの川崎雅弘は、戦略的調達とSAP Aribaの機能についてデモを交えて紹介しました。

購買部門が相見積を取る場合、一例として「50万円以上」で区切ると、ある企業では請求件数が約3万件に達し、その処理に44名の要員が必要と試算。そこでボリュームゾーンである50万円以上1,000万円未満の購買についてはあらかじめ物品・サービスを標準化し、「カタログ化」することで決められたサプライヤーから、決められた金額で購入できるようするようにプロセスを構築するようにします。その結果、調達購買業務は大幅に効率化され、ビジネスリスクの高い(ここでは一例として1,000万円以上とした)物品調達にプライオリティーをおけるようになります。

ボリュームゾーンにおける戦略的調達では、カテゴリーを分析して物品・サービスを標準化し、全社で購買条件を交渉するのが効率的です。各カテゴリーで3社程度を目標にサプライヤーを絞り込み、物品・サービスをカタログ化。各部門は、カタログをもとに決まった価格、決まったサプライヤーから購入します。ここで必要なのはこれら施策を全社ルールとする購買規定の策定と徹底です。

戦略的調達のフレームワークは、Strategy、Supplier、Statement Of Work、Stakeholderの4つの“S”で構成されます。IT、マーケティングなど業務を全社横断的にまとめ、サプライヤーを絞り込むことで、よりよい条件を引き出すことが可能になります。

調達実務における選択肢は一般的に、カタログの活用、事前定義に基づく見積購買、例外購買、請求書による処理があります。SAP Aribaでは4つの選択肢にそれぞれの機能で対応し、戦略的調達業務すべてを一気通貫で支援することが可能です。日本全体のソーシング効果で見ると、利用ユーザー数は10社(東証一部上場レベルのグローバル企業)ですが、国内ソーシング活用・総金額は約1,800億円に達しています。平均コスト削減率は約7.5%、最大コスト削減率は約13.5%と確実に成果を上げています。川崎は「ますます多くのお客様に、SAP Aribaを活用して戦略的調達を実現していただきたい」と語り、セミナーを締めくくりました。

(以上)