オープンデータを利用した官民協創によるイノベーション創出~社会課題の解決に向けた取り組み


Society5.0実現に向けた繋がる社会の必要性

我が国が目指すべき未来社会の姿として「Society5.0」が提唱されて3年余り。この「経済発展と社会課題を両輪で行う社会」を目指して、各省庁では様々な取り組みがされています。経済の長期低迷が続いた「失われた30年」の間にも、インターネットの普及やグローバル化の進展などによって日本や世界を取り巻く環境は大きく変わりました。ビジネスや日々の生活においても「オンライン」、「オープン」、「コラボレーション」な活動に対する期待や重要性はますます高まっており、それに向けた各種施策が立案・遂行されている状況です。

これは同時に、ややもすると日本人が苦手とする非連続・破壊的な「イノベーション」を実現するための下地作りとしても機能しています。工業社会(Society3.0)や情報社会(Society4.0)においては、企業内に閉じた形で限られた人たちが考え出した画一的単一の方法論を適用し、大規模大量生産による経済成長を果たしてきましたが、昨今の技術の急激な進歩により、個々のリアルタイムな状況適合する商品・サービスを迅速に提供することが可能になってきています。そのため、Society5.0では、繋がる社会(クロスボーダー)の個性を活かし、今まで知らなかったようなで他人の良いところを組み合わせることによるオープンイノベーションを生み出すことで、閉塞した経済を打破し、更なる成長を果たすことが強く求められているのです。

2000年代、このような役割はスタートアップやベンチャーが果たしてきていました。令和の時代、この波は大企業や老舗の中小企業にも押し寄せています。これまでと同じやり方では市場の関心をつかむことは難しく、フットワーク軽く戦略を立て実践していく。失敗すら活かして次につなげる勇気・許容度。大企業や老舗の中小企業であっても、このような文化に変革していくことが必要となっているのが現在であり、それが出来るようなエコシステム(ネットワーク)が出来つつあると言えるでしょう。

オープンデータ:繋がるデータの活用

繋がる社会の基盤においてはデータがキーとなります。2013年にイギリスで開催されたG8においてオープンデータ憲章が採択されて以来、世界各国でオープンデータの取り組みが進められています。我が国では、「官民データ活用の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって国民が安全で安心して暮らせる社会及び快適な生活環境の実現に寄与する」ことを目的とした官民データ活用推進基本法が2016年に施行され、つい先日オープンデータ基本方針も改定されるなど、行政におけるデータの活用による行政の高度化・効率化、データの民間提供・利用による産業の活性化や国際競争力の強化により、活力ある日本社会の実現に向けた取り組みが精力的に進められています。

わが国に先行してオープンデータに取り組んでいる欧米各国・地域では、既に「Open Data by Default」 の概念が定着しています。データがイノベーションの資源であり、コラボレーションによりビジネス価値が増大するという認識のもと、中央政府のみならず地方自治体でも、利用者(住民)目線のオープンデータの様々な取組がすすめられている状況です。例えば、ロンドン市交通局では、公式サイト「Open Data Users」に、42種類のデータがAPIやCSVファイルなどの形で掲載されており、地下鉄やバスについては時刻表のみならず、リアルタイムの位置情報も提供していたり、自転車のルートや歩行者向け地下鉄駅までの時間提供までなされていたりと、移動に関する総合的な情報提供がなされています。このテーマでは、日本でも公共交通オープンデータ協議会が世界一複雑とも言われる「東京」の公共交通の利便性向上を目指して、公共交通関連データのオープン化を進められています。「東京公共交通オープンデータチャレンジ」では、首都圏の様々な鉄道会社、地下鉄会社、バス会社等がオープンデータの提供に協力し、公共交通機関を使ってスムーズに目的地まで移動できる「東京」を実現するアプリケーションやアイデアを募集していたりします。弊社も参加させていただき、第二回コンテストにおいて、まよわんじっこくんが東日本旅客鉄道特別賞を受賞いたしました。

このようにビジネス化しやすい分野、ニーズマッチングによりエコシステムが形成されやすい分野においては、利用されやすい形(API)にてデータが提供され、イノベーティブなサービスが生まれ始めています。

更なるオープンデータの活用推進に向けての民間起点の取組

そして、更なるオープンデータの活用に向けて、行政保有データの棚卸官民ラウンドテーブルの開催など、オープンデータの提供の動きは進んでいますが、上記のような一部の取組を除くと、まだまだ「提供できるデータを提供する」にとどまっているのが現状です。冒頭に紹介した通り、「Society5.0」の実現に向けては、「オンライン」、「オープン」、「コラボレーション」な活動による社会課題の解決、サステナブル社会の実現が強く期待されていますが、そのためには「モノ言う国民」が自身が必要とする情報を自由に得ることができる社会が重要となります。

SAPは、「サービスデザイン思考を活かして利用者本位のサービスを開発する」、「ネットワークとネットワークを繋ぐ」、「クライアントのイノベーションを創出する」スキルを活かし、本当に「使える」オープンデータ、利便性の高いwebサイトのあるべき姿を具体的なカタチとし、実現への足がかりとすることを目的として2019年2月に、環境省、内閣官房IT総合戦略室、総務省と共同で熱中症対策のビジネスアイデアソンを行いました。

スライド1

参加者は弊社が主催するBusiness Innovators Networkの参加企業、Inspired Lab入居企業、熱中症ゼロ社会貢献企業、大学生、総務省、内閣官房、環境省など13社、3省庁、5大学から36名。サービスデザイン手法の流れに沿って「オープンデータを活用し、熱中症対策にもつながる新しいビジネスを考える」をデザインチャレンジとし、プロトタイピングまで行いました。その際には、多様なアイデアを生み、価値あるイノベーションを生み出すためのポイントとして以下の4点を意識しています。

  • ペルソナにとっての望ましさ
  • ビジネス性=儲かりまっか?
  • オープンデータの有効活用
  • 熱中症予防への貢献

 

スライド2その結果、対象者によって異なる熱中症に至る背景の分析や熱中症回避のきっかけになり得る事象の特定、対象者の利益・感情に寄り添いつつ回避を促す具体的方策、ビジネスとして成立させるための工夫が含まれるものになっています。

 

熱中症アイデアソン

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スライド3このようなやり方でオープンデータのビジネス化を検討することは、関係省庁が熱中症対策を進める上の示唆を含むものであるだけでなく、参加者への啓発効果や、インダストリーを横断したソリューション・取り組みの効果の可視化が図られるものでもあるため、官民協創の第一歩としての役割やマネタイズできるビジネス創出に向けてのきっかけにもなっていると評価しています。今回のアイデアソンで出たビジネスアイデアは、荒削りなものでありすぐにビジネス化を行うことは難しいものではありましたが、それでも参加企業において人の健康と生産性をサポートする環境モニタリングのビジネス価値が再確認され、ビジネスモデルが成り立つより大きなカタチの検討に繋がり、結果、PoCが開始されるといった「イノベーションの種」が撒かれた成果が生まれています。

まとめ

オープンデータ政策においては、開示できる保有データは全て提供しようという流れになりがちですが、行政の透明性の担保を目的とする場合はさておき、産業の活性化や国際競争力の強化という観点からは、ビジネス価値の高いデータを使える形で提供することが重要となります。「オンライン」、「オープン」、「コラボレーション」な活動に対する期待や重要性がますます高まる今日においては、「Problem Solving」 ではなく、「Problem Finding」がデータ発掘にポイントになり、そのためには利用者中心主義、すなわち、サービスデザイン思考が有効となります。

SAPジャパンは三菱地所株式会社と一緒に、デザイン思考を日本企業の皆様に実践いただき、SAPの各種フレームワークやビジネスネットワークの「つながり」によって、日本の強みを生かしたイノベーションを生み出すことを目指す施設「Inspired.Lab」を開設しています。熱中症対策のビジネスアイデアソンもこの施設を利用して行いました。今後もオープンデータ政策の支援や官民協創社会実現のハブとして本施設やビジネスネットワーク等を活用し、日本を課題先進国から課題解決先進国に変えることに貢献していきます。