シグニファイに学ぶモノ売りからコト売り
作成者:柳浦 健一郎 投稿日:2019年6月19日
前回のブログで取り上げたシグニファイ社が、2019年3月27日に発表されたSAP Innovation Award 2019 で見事Next Gen Innovation部門で受賞者となられました。新たなビジネスモデルと革新的な技術を活用することで価値を創造し、照明の可能性を最大限引き出したことが評価された点とのことです。今回のブログでは受賞したシグニファイ社の発表内容をもとに深堀を行い、モノ売りから脱却しコト売りにシフトするためのポイントを探ってみたいと思います。
電球のモノ売りからLight as a Serviceへ
今回受賞したシグニファイ社の取り組みを振り返ってみましょう。受賞の概要は以下のピッチ資料から確認できますが、要点を少し解説していきたいと思います。
https://www.sap.com/bin/sapdxc/inm/attachment.1904/pitch-deck.pdf
SAP Innovation Award のピッチ資料
タイトルを見てみると、From Light Bulbs to Light-as-a-Serviceとあります。これは直訳すると電球から明かりをサービスへということになります。これだとピンとこない方も多いかもしれません。電球をモノ売りからサービス売りにシフトした、と表現したほうがピンときますでしょうか。少し背景を整理すると、一般消費者からしても電球は日常でも使う慣れ親しんだものです。しかし、消費電力が少なく、寿命も長いとされるLEDの電球が環境にも優しいとのことで注目されていることはご存知の通りですが、コストがかかるので値段が高いというのがLEDビジネスの難しいところとされてます。環境にやさしく、消費電力も少なく省エネ性能に優れているとはいえ、従来よりも値段が高いとなると二の足を踏んでしまうというのも実態としてはあります。そこで、シグニファイ社が考えたのが、イニシャルにかかるコストを抑えて、サービスとして”明かり”を売るということでした。顧客が欲しいのは電球なのか?というのを考えると、そうではなく”明かり”なのではないか。つまりシグニファイ社が提供している顧客への価値は”明かり”なのではないかということです。この考え方は顧客が欲しいのはドリルではなく穴であると言われるのと同様です。実際サービスとして”明かり”を提供するビジネスモデルでは、初期費用でコストがどんとかかるモデルではなく、”明かり”として使った分だけ課金・請求するモデルになります。モノ売りでは値段が高くスイッチングコストがイニシャルで高くなってしまうところを、サービス売りをすることでイニシャルを抑えて、”明かり”を使った分だけ、つまり顧客の価値=明かりに応じて課金を行い、購入者側の悩みを解消したと言えるでしょう。会計上も資産(CAPEX)ではなく運用費(OPEX)に変えている点も購入者側からはメリットは大きいと思います。顧客の意識自体が所有から使用にシフトしているこの時代にマッチしているのでしょう。実際、オランダでは33%の企業、つまり3社に1社ががこの手のサービスコントラクトに興味を示しているといった実態調査があります。また、シグニファイ社は顧客の”明かり”の使用を見せる化することで、お客様が明かりの使用をコントロールし、節電につなげることを可能にしてます。結果としてシグニファイ社はサービス利用顧客は約40%のコストセーブができると試算しています。
Light as a Serviceのシステム構成
どのように実現しているのでしょうか。
Light as a Serviceのアーキテクチャ(出典:SAP Innovation Award のピッチ資料より抜粋)
上記の図にある通り、ファシリティマネージャーはシグニファイ社のインタラクト経由でSAP Cloud Platformに使用状態を伝え、SAP Analytics Cloudで使用状況の見せる化を行い、さらにSAP Revenue Cloud(従量課金エンジン)と連携し”いくら課金されるか”も可視化され、さらにSAP Business Suiteと連携することで実際の請求につなげています。この仕組みを短期で実現したことが評価され、SAP Innovation Awardを見事受賞されたのです。
モノ売りからコト売りへのシフト
このシグニファイ社の取り組みはマーケティング論をご存知の方であればお馴染みかもしれません。デザイン思考を用いて顧客の真の欲求を探し出し、それをマネタイズするにはどうするか?といった活動をすることはよくあります。その実例としてこのシグニファイ社の取り組みは非常に参考になります。
シグニファイ社はこれ以外にも”明かり”を売るという観点で興味深い取り組みを以下の動画で紹介しています。
Signify and McCoy win SAP Quality Award for Innovation
家畜の世界では動物をストレスが少ない環境で育成することが求められます。シグニファイ社が注目したのは”明かり”で動物にストレスのない環境を提供することでした。シグニファイ社のLED照明は何色にも変化することができる仕様なのですが、モノ売りではないので、”ストレスのない色”を売っているのです。シグニファイが提供する明かりにより、よりストレスの少ない環境下で成長することができるという、シグニファイ社はこの取り組みでもコトを売っているのです。
同様にSAPのユーザーで同様の取り組みをしている会社としてよく引用されるのがケーザーコンプレッサー社のAir as a Serviceがあります。こちらはコンプレッサーマシーンをモノ売りするのではなく、顧客が欲しいのはコンプレッサーという機器ではなく”圧縮された空気”が欲しいのであり、圧縮された空気を使っただけ課金をするAir as a Serviceというサービスを打ち出し、コト売りをした事例として知られています。
これらの事例を通じて、モノ売りからコト売りへシフトする際の共通的なポイントとして以下3点が挙げられます。
- 自社が提供している製品の価値を理解する
ドリルではなく“穴”、シグニファイ社は照明器具ではなく“明かり”、ケーザーコンプレッサー社はコンプレッサー機器ではなく“圧縮された空気” - 製品・機器をスマート化し、使用状況や使用量を見せる化する
Signify社もケーザーコンプレッサー社も“明かり”、“圧縮された空気”の可視化することで、顧客側に省エネ、コストセーブの意識を根付かせ、Win―Winな関係を構築 - ビジネスモデルをX as a Serviceとして、顧客は製品購入ではなくサービス契約にする
使用量に応じて課金・請求を行うサービスモデルにすることでイニシャルコストの価格競争から脱却し、顧客との関係を短期ではなく長期にわたるエンゲージメントに
最後に
照明器具というモノ売りから”明かり”をコト売りするシグニファイ社の取り組みがSAP Innovation Awardを受賞したことを振り返ってみました。昨今日本ではIoT、デジタルトランスフォーメーションとバズワードが先行している感があります。しかし、顧客に提供している本質的な価値は何か?を追求していくと、価値を売るところに行きつき、それをどのように認識するのかという点でIoTが役立ち、ビジネスをモノ売りからコト売りにシフトすることがデジタルトランスフォーメーションの一つの形というのもご理解いただけるのではないでしょうか。自社が提供している製品の価値を今一度見つめなおし、コト売りの本質を追求し、ビジネスモデルの変革に取り組むきっかけに当ブログが貢献できれば幸いです。
自社が提供している製品の本当の価値は何ですか?
※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、シグニファイ社のレビューを受けたものではありません。