災害発生時の迅速かつ正確な初動対応を促すための情報活用プラットフォーム―減災社会の実現と協働を目指して―
作成者:SAP編集部 投稿日:2019年6月11日
SAPジャパンは企業ビジョンとして、“Help the world run better, and improve people’s lives”を掲げており、現在まで数多くのお客様やパートナー企業とPurpose-Led(目的主導型)のコラボレーションを世界的に行ってきました。大分県唯一の国立大学として“大分創生”を掲げ、2018年に学術的見地から防災・減災に関する調査研究や教育活動を行う学内共同研究施設「減災・防災復興デザイン教育研究センター(以下CERD)」を設立した大分大学様、地元企業・株式会社ザイナス様と共に同一の目標に向かって歩んでいます。目指すのは「防災・減災のための情報活用プラットフォーム(仮称EDISON)」の構築。災害発災時の迅速な調査とその対応による有効な情報提供のためには、多種多様なデータの統合が重要であり、それらの情報から得た分析結果の共有が求められます。
しかし、デジタル技術が急速に発展する現在であっても、これらの情報を災害発生時の迅速かつ正確な初動対応、地域防災に活用する仕組みは提案されていません。
このような背景をもとに3社が連携を進めてきたプラットフォームが、いよいよ実用化に向けたアクションを起こします。2018年12月10日、大分県庁にて行われた大分大学様による定例会見にて、北野正剛学長が本プラットフォームの実証実験の開始を報告。2019年春にはその実証実験と実現可能性を公開することが伝えられました。さらにアジア各国の複合型災害に取り組むため、他大学や関係組織との連携を強化。災害対策センターの設立といった将来についても話し、「CERDを中心に各社と連携し、住民の安全のために災害情報を今後は活用していきたい」という大学としての使命感を強く訴えました。
テクノロジー×教育が描く未来の行方
プラットフォーム構築に込められた3社それぞれの想いとは
“災害大国”と呼ばれる日本の歴史には、古くからその随所に多くの天災が顔を覗かせるも、近年は記録的猛暑や豪雨といった災害が全国に多発。大分県も例外ではありません。では、そんな時代を生きる私達に、本プラットフォームが問いかけるものとはどのようなものでしょうか?
防災・減災に必要とされるデータは多岐に渡り、多くの機関に分散していることからCERDでは主だった省庁や研究機関と公共機関、そして自治体との連携を進めてきました。
まずはこの分散しているデータを中核であるインメモリープラットフォーム「SAP HANA®」に統合する事で、例えば被災状況と人口動態などを掛け合わせた透過的なビューを提供します。情報連携が出来ていない事によって初動対応や現地対応での混乱を招いている現状を打破していきます。
加えてデジタルイノベーションシステム「SAP® Leonardo」の機械学習や深層学習を使って近未来のリスク評価や早期警報を可能にします。
社会実装の本質を再定義するために
即効性のあるシステム×根本的な体質改善のための教育
しかし、CERDセンター長・小林祐司氏が、この取り組みの根底にあるものとして挙げたのは“教育”という言葉でした。「私達が実用化に向けて動いているプラットフォームは、防災・減災に有効な薬を処方するだけではありません。
システムに構築されたデータを一般の人々が積極的に活用し、1人ひとりが自らの防災・減災対策を立案していく未来を望んでいます。目指しているのは防災・減災に対する人々の根本的な体質改善です。
ネットを使えばたくさんの防災情報にたどり着きます。しかし“ツールができたので使ってください”と発信するだけでは不十分で、人々に活用してもらわなければ真の社会実装とは呼ぶことはできません。教育の中でそういった事実を子ども達に体験させていくことができれば、いつの日か現在の社会の仕組みさえも変えていけると信じています」。
思い描く未来図の完成がたとえ100年先になってしまったとしても、大切なのは今この時代に出来ることを最大限することー。教育とテクノロジーの力を掛け合わせた社会実装の先には、技術がもたらす大いなるブレークスルーが待っているのかもしれません。しかしそれに呼応する様に私たちも防災・減災に対する強い気持ちを持ち続けることが大切なのです。
CERDセンター次長・鶴成悦久氏も続けます。「県内で発生した自然災害の調査や対応にCERDとして取り組んできましたが、“本来であれば多くの人々にとって有益であるはずの災害情報が縦割りの組織内でしか活用されていない”という現状にジレンマを感じることがありました。現代は防災・減災に対する様々なデータが乱立しているにも関わらず、災害発生以降に得られた情報を活用する仕組みが確立されていない。だからこそ、その課題を打破したいと考えました。CERDとして得た災害情報を予測や評価、最終的には教育という形で社会に還元していくことが必要です。
企業が有する技術や行政の持つ力、住民一人ひとりの声といったものを総合的に集めていきながら、すべての人とオープンイノベーションを進め、防災・減災にプラットフォームの運用に活かしていきたいですね。大学という組織が中核となり、企業や自治体と連携をとりながらシステムを構築していくことに意義があると考えています」。
次の100年を担う子ども達へ何を残せるか
大切なのは、次世代のために今一歩を踏み出すこと
多様な連携により総力を結集させ、日本の未来を共創していくー。「エンジニア冥利に尽きます」と語るのは、本プロジェクトに地元民間企業として携わる株式会社ザイナス 取締執行役員本部長 山本竜伸氏です。「私達民間企業の願いは、大分県が元気であること。そのためには、新たな産業の必要性を感じていました。では新たな産業とは何か?その答えを突き詰めたときに辿り着いた一つが、皆様に安心安全を提供する事です。
大分には多くの災害の因子が存在しています。そして環境変化により近年は頻発する災害に悩まされてきたわけですから、この教訓を活かさない手はないですよね。
現代は情報やシステムが溢れており、その中で日本が世界のトップに立つことは容易ではないかも知れません。そのレースで大分が世界と肩を並べようとするのは尚更難しい。でも防災・減災という分野であればどうでしょうか。各分野のプロフェッショナルが集結するこのオープンイノベーションであれば、可能性は残されているはずです。本プラットフォームの実装には、世界のテクノロジーに“災害大国”日本のノウハウを加えることで、新たに誕生した技術を再び世界へ還元していきたい。日本から世界へ、その発信源として大分が起点となり新産業が成立するのであれば、それはとても誇らしいことです」。
さらにSAPジャパン デジタルエコシステム統括本部 吉田彰は、まちづくりという側面も担う防災・減災とは“100年を要するテーマ”であると話します。しかしながら、テクノロジー企業としての使命は必ずしも自らがスタートを告げたレースのゴールテープを切ることではない。真に大切なのは、自らが第一歩を踏み出すことであると続けます。
「私達が第一世代としてデータ統合や早期対策の第一歩を成し得ることができたなら、それは次世代の技術を用いたシステムの高度化に繋がります。私たち自身が100年計画の1日目を自らの足で踏み出したのだと考えたらいい。その一歩を踏み出すことでさえ、多くの人の力を借りなければ困難でしたが、同じ想いを抱いた人は必ず集結するはずです。共通の“想い”を持つ人々との共創の中で未来を変える“何か”が必ず生まれるはずです」。
EDISONが導いたひとつの“解”
1+1のブレイクスルー
目的の異なる4者が多くの時間を割いたのは“Purpose”すなわち目指すべき未来の共有であったと言います。
研究・教育の視点、そしてテクノロジー企業の視点の違いから目指すべき未来のイメージは異なるものでした。「繰り返される議論の中で、トーマス・エジソンの話題が出た事がありました。彼の足跡を読み解いていくと、その原点は幼少時代にあります。
エジソンは、なぜ1+1が2であるのかさえ疑問に感じ“2つの大きな粘土を合わせたら大きな1になるのでは?”と考えたと言います。これは1+1=2である事の常識すらも壊していかなければならないというブレイクスルーでした。迫り来る自然災害のリスク評価や発災後の初動対応を改善していく”特効薬となるシステム”、これは状況に合わせて症状を緩和し排除していく西洋医療が得意とする“対処療法”になります。
対してシステムが蓄積したデータを使った疑似体験などを伴う実践教育や災害対策拠点の形成は意識改革に繋がります。これは人間本来の持っている治癒能力を高めていく東洋医療が得意とする“体質療法”です。単純な答えのようですがこの2つの要素を用いた”統合医療”を目的とした災害対策プラットフォームは存在していません。それはトーマス・エジソンが導いてくれたひとつの“解”なのかも知れません。」
臼杵市でのデザイン・シンキング、日田市での防災シンポジウムを学びの旅として目指すべき未来の形が明確になってきました。
データは統合により情報として生まれ変わり、情報は判断によって知識へと変化していく。そして体験を伴った知識が意識の変化さえも生んでいきます。
テクノロジーと教育の化学反応と、そこに集う“想い”は無限の可能性を秘めています。そしてその可能性は新たな未来を切り開いて行くでしょう。
迫り来る災害への対応をより深化させ、次世代へ継承をしていくために。
誰もがこのプラットフォームの一員となり、新たな未来図が描かれる事を目指した新たな一歩が今、踏み出されました。
■ 関連イベント
本プロジェクトについては2019年7月11日のSAP NOW基調講演「Innovate with Purpose~ 迫り来る自然災害への対応を深化させるために」にてアップデートを行います。
「SAP NOW」Innovation with Purpose ~ 社会的意義のあるイノベーションを、Intelligent Enterprise で
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