インダスモーター:自動車生産販売会社のインテリジェントエンタープライズへの変革


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今回はトヨタ自動車のパキスタン生産販売会社のインダスモーターのデジタルトランスフォーメーションを取り上げます。
同社は、トヨタ自動車、豊田通商、それと現地パキスタンのハビブ財閥との合弁会社として1989年に創業し、1993年から車両の現地生産を開始しました。当時は、一日当たりの生産台数は20台でしたが、いまでは250台/日の規模にまで成長しました。

経営環境の大きな変化

一昨年人口2億人を突破したパキスタンでは、自動車市場が前年対比約20%と急激に拡大を続けています。背景には政府が重要な国策として自動車メーカーの新規参入を促進していることや中古車輸入を認可していることがあげられます。首都カラチで開催されたパキスタンオートショー2019では、中国や韓国の自動車メーカーが存在感を出しており、すでに現地生産に向けた工場建設が進行中です。日産自動車も再進出を決定し、2020年の販売開始に向けて着実に駒を進めています。政府は、市場競争を促し、新車販売市場シェアほぼ100%の牙城を築いている日系3ブランドに、さらなる投資拡大、雇用促進、技術の伝承、販売価格の適正化を期待しています。

政府の後押しや新規参入企業により拡大と競争が激しくなるパキスタンの自動車市場で勝ち続けてゆくために、インダスモーターは10年、20年先を見据えた変化に強い経営情報基盤を構築し、インテリジェントエンタープライズが実践できるためのデジタル変革プロジェクトを実行しました。

ビッグバン導入

自動車メーカーの海外法人や関連会社の基幹システム刷新では、ビッグバン導入が主流に成りつつありますが、インダスモーターにおいても、SAP S/4HANAの生産管理モジュールや倉庫管理モジュールをはじめとする広範囲な業務領域をカバーするビッグバン導入がされました。

販売管理(SD)、在庫購買管理(MM)、生産管理(PP)、プロジェクト管理(PS)、品質管理(QM)、物流管理(LE)、倉庫管理(WM)、設備管理(PM)、財務会計(FI)、管理会計(CO)、人事(HCM)

scopeSapphire Now 2019での講演資料より抜粋

以前のシステムでは、ユーザーが必要とする情報がユーザーの手元に届く頃には陳腐化して、現場の判断や経営のかじ取りの足かせになっていました。SAP S/4HANA をビッグバン導入したことにより、データの収集や編集加工から解放され、手元のスマート端末から必要な情報に容易にアクセスできるようになり、分析から原因追及のスピードが向上し、意思決定の精度が改善したことで、適切なアクションを打つことができるようになりました。

それでは新システムの特徴を活かした仕事の変化を見てみましょう。

1.真のリアルタイム処理

満を持して投入したニューモデルのSUVの売上が、計画を下回り、苦戦している状況に直面しています。この時、クリック操作により、都市部や山岳部などの販売地域差によるものなのか、ディーラー網の違いによるものなのか、台数は達成しているものの一件あたりの契約単価が安いのか、安いグレードに偏っているのか、メーカーオプションやディーラーオプションなどの装備が少ないのかという具合に、原因を特定するために必要な情報を掘り下げてゆくことができるようになりました。このようにある指標から、さまざまな業務部門で発生したオペレーショナルデータを遡り、素早く原因分析ができるのは、すべての企業活動がリアルタイムに処理できているからです。

2.統合データベース

売上低迷は営業サイドの原因だけとは限りません。実は部品の調達業務や車両の製造に起因することもあります。新型SUV向けに開拓した現地サプライヤからの量産部品調達に問題が生じて、計画通りに車の生産ができず、その結果、ディーラーからの見込注文に対して納期通りに出荷がされていないといった状況をタイムリーに把握することができるようになりました。この実現には、調達から生産、販売、物流までのサプライチェーン全体のトラック&トレースが可能な統合データベースが備わっているからです。さらにRFIDとの統合により、生産管理、倉庫管理、物流管理のトラック&トレースの精度や業務生産性が向上しました。

3.超高速処理

創業当時に比べて12倍以上の生産台数にまで事業拡大したことにより、車一台一台の生産に必要な量産部品の所要量計算を行うMRP処理時間はほぼ丸一日要していました。 これがインメモリーテクノロジーを活かした高速MRP処理により、一回あたりの処理時間は30分から45分と大幅に短縮しました。受益者は生産管理部門だけではありません。生産台数増加、電動化や自動運転などの新しい装備などにより、モノづくりにおける不良発見は極めて重要なテーマです。ここにおいても、超高速処理を活かしたリアルタイム品質管理が品質不良率を20%改善しました。

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さらなるイノベーションへ

経営を取り巻く変化が激しく、ビジネスチャンスが拡大するパキスタン。インダスモーターのインテリジェントエンタープライズの新たなるチャレンジはこれからも続くでしょう。 SAP Aribaを活用したサプライヤ統合管理、SAP C/4HANAによるユーザーの好みのオプション装備に対応したオーダーマネージメント、工場の製造装置とIoTを連携した部品発注の自動化などなど。

今後も自動車産業のインテリジェントエンタープライズ事例を通じて、日本のお客様のイノベーションのお役に立てるよう発信を続けてゆきたいと思います。

なおこの取組は本年度のSAP Innovation Awards 2019を受賞されました。ご興味のある方は、詳細資料も合わせてご覧ください。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、インダスモーター社のレビューを受けたものではありません。