ミュンヘン再保険のロケーションリスクインテリジェンス


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ミュンヘン再保険(ドイツ)は、約135年間に渡り、リスク管理に対して常に前向きで慎重かつ責任あるアプローチを取り続け、世界中で多種多様なリスクを想定することによって、長期に渡って継続的に価値創造を生み出す努力を続けている世界最大手の再保険会社です。ロケットの打ち上げ、再生可能エネルギー、パンデミックなどの特別なリスクカバーから、最近では特にインシュアテック企業への積極的な出資や戦略提携などにて IoT、サイバーセキュリティなどの分野まで日々革新的な取り組みに挑んでいます。

昨今、先進的な各国の保険会社の間では最新テクノロジーを駆使し自社保有以外の大量の各種データ(画像、大量のセンサー情報など)を活用し、新たなイノベーション創出や革新的な商品・サービス開発に凌ぎを削る時代に突入しています。その中でミュンヘン再保険の Risk Management Partners(*1) と SAP で最新のロケーションリスクサービス – NATHAN(*2) を開発しました。

 (*1)Risk Management Partners:2017年半ばにミュンヘン再保険が設立した新しいリスク関連のビジネスモデルの開発推進に特化したビジネスユニット。

 (*2)NATHAN(Natural Hazards Assessment Network:自然災害評価ネットワーク)

 

ビジネス上の課題とゴール

もともと本質的な複雑さに加えて、データはさまざまなデータベースや情報ソースに分散されていたため、大量のデータを処理することは非常に困難でした。世界中の顧客の多種多様な要件に対応するために、ミュンヘン再保険は、自社の分析情報を顧客にも共有するためのより柔軟でオープンにアクセス可能な環境・手段を探していました。サービスのデジタル化が進み、ソフトウェア分野への投資が増加するにつれて、ミュンヘン再保険にとってもリスク管理の分野で新しいタイプのソリューション機会が生まれようとしていました。

当初メキシコの政府機関とのデザインシンキングを実施。そこでのプロトタイプ検証を通じてソリューションを導き出した後、ミュンヘン再保険は過去40年間の世界的なハザードデータと自社内で開発されたリスクモデリングを組み合わせたアプリケーションを SAP Cloud Platform 上に実装することを決定し、顧客のデータも合わせ、ロケーションとビジネスインテリジェンスの統合を実現しました。この最初のクラウドアプリケーションである M.IN.D(Manager for Interactive Disaster assessment)は、以前のオンプレミスベースのハザードおよびリスクアプリケーションだった NATHAN と組み合わされ、クラウド専用の一連のアプリケーションになりました。このリスクスイートは、SAP Cloud Platform と SAP HANA Spatial に基づく包括的な製品スイートとなります。

ゴールは、リアルタイムデータへの簡易アクセスも提供しつつ、リスク管理者、引受会社、損失調整担当者などさまざまなグループのユーザーの多様な要件に対応させ、モジュール構造とカスタマイズ可能なインターフェースを備えた最先端の地理空間アプリケーションを完成させることでした。

プロジェクトの概要

Risk Management Partners ではリスク管理およびIT分野の専門家が、リスクの包括的な見方を提供し、企業が直面するリスクの特定・評価・回避および軽減を支援するデジタルソリューションを顧客と共同開発しています。最初の製品であるリスクスイートは、先にも述べた通り現在ふたつの強力なツールで構成されています。 第一に NATHAN は個々のポートフォリオデータが地域の累積と損失パターンなどの分析を可能にし、世界中のすべてのロケーションエクスポージャーとリスクスコアを提供します。次に、M.IN.D は、ポートフォリオ管理や請求管理などのビジネス面に焦点を当て、初期損失見積もりを作成し、誤請求などを識別し、地理空間データを視覚化することによって、NATHAN のロケーションリスクの洞察を補完します。

地理空間データの分析は、以前より自然災害のエクスポージャーを判断するための標準的なアプローチでした。ただし、近年データとその情報ソースの量が大幅に増加しているため、大量処理が非常に困難になっています。これらの制限を取り除き、データの威力をさらに利用するために、ミュンヘン再保険はデータベースを SAP HANA にアップグレードし、SAP HANA はリアルタイムに最先端の地理空間分析に不可欠なパフォーマンスを提供しました。さらに世界中に分散している顧客にもソリューションを提供し、リスクスイートの潜在能力を最大限に引き出すために、ミュンヘン再保険は 22,000 のオンプレミスユーザーを SAP Cloud Platform に移行することを即断しました。

個々のリスクレポートなどのダッシュボードやアラートによるリアルタイムのデータプロビジョニングを活用することで、顧客は重大な事象をリアルタイムに状況把握ができ、意思決定を大幅に改善することができます。クラウドプラットホームのオープン性は、ローカルデータセットと API のシームレスな統合を可能にし、それによって引受会社とリスク管理者に全体像を提供し、より情報に基づいたデータ駆動型の意思決定を容易にします。顧客は、あらゆるデバイスや場所からのミュンヘン再保険の貴重な価値あるデータに簡単にアクセスできるだけでなく、スイートの分析機能に絶えず直接接続することを保証する API を通じてリスクスイートを各社独自のソリューションに統合するオプションも提供されています。高度なカスタマイズ可能なインターフェースを特徴とするリスクスイートのモジュール構造は柔軟性も提供し、ユーザーはトピックと目的に応じてさまざまなリスクセグメントの独自のリスクマップを生成し、必要な情報をすべて一目で把握できるようになります。

 

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ミュンヘン再保険社の Web サイト「ロケーションリスクの情報に特化したNATHAN」内には動画もありますので、ご興味ある方は是非ご覧ください。

※引受会社やリスク管理者に、ベンチマーク及びリスクを比較評価する共通のベースラインを提供します。

<主な特徴>

  • ワンクリックで12のハザードマップと4つのリスクスコアを表示
  • 土壌カテゴリー、海岸から断層までの距離、人口密度などを表示
  • 最大1,000万ローケーション(1GB)のポートフォリオ分析機能
  • 動的リスク指標の計算、損失予測が可能
  • 全体的なリスクスコアに加え地震・嵐・洪水別など災害種類別の詳しいリスクスコアも極めて迅速に確認
  • 世界中のあらゆる場所(住所レベル)について絶対的なリスクレベルを測定し算出
  • 位置の精度はグローバル解像度で「30 x 30」 メートル

Risk Management Partnersの責任者Christof Reinertは「リスクスイートを利用すると、実績のあるNATHANの資産を活用して保険の世界観を超えることができ、より多くの顧客のためにミュンヘン再保険のリスクに関する知識ベースに簡単にアクセスすることができます。」と述べています。

アーキテクチャー概要図

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プロジェクトの成果

<ビジネス、社会性>NATHANは顧客満足度が90%超え

  • リスクスイートは顧客のビジネスプロセスをスピードアップし、ポートフォリオ管理と請求管理の両方を強化
  • スイートのモジュール構造により、特にデジタルアプリケーションによって推進されるリスク評価の分野で自社開発された製品ソリューションと統合するための十分なオープン性を提供
  • SaaSモデルで提供することは、新しいビジネスモデルを提起し、単なるリスクスコアではなく、その分野に関するより詳細な情報やサービスという形で新たなアップセルの可能性保持
  • 保険会社の確率論的推定と独自の専門知識とを組み合わせることで、ミュンヘン再保険はダイナミックリスク指標を計算できるようになりました。これは損失予測に貢献
  • SAPとの共同ビジネスモデル(例:SAP製品への統合、収益分配パートナーシップなど)

<IT>地理空間解析がリアルタイムで可能

  • ローカルAPIを簡単にソリューションに統合
  • PaaSプラットフォームでは、インフラストラクチャ開発ではなくクライアントのニーズにフォーカス
  • オフィシャル標準サポートは互換性を促進し、各社のソリューションの統合に寄与
  • ビジネスデータと地理空間データの両方を1つのシステムに統合

<リソースエンパワーメント>

  • Webサービスを介してデータに簡単にアクセスできるため、さまざまなエンドユーザーデバイスを使用可能
  • 各ユーザー固有のニーズに合わせ高度なカスタマイズも可能なインターフェースは、一目ですべての必要な情報を提供
  • リアルタイムデータアクセスにより、損失を迅速に検証して軽減するための損失アジャスターを有効化

最後に、近い将来Risk Management Partnersは、引受会社およびリスク管理者と協力して既存のアプリケーションを改良および拡張し、新しい顧客セグメントを見出すため、スイートを進化させる拡張計画も検討しています。さらに、顧客基盤を拡大するために、ミュンヘン再保険はリスクスイートをSAP HANA Spatial Servicesの一部として提供し、それをSAP Cloud for insurance (S4i) と統合することも目指しています。

ミュンヘン再保険は、長年にわたり格付けの目的のために地理的インテリジェンスを活用し、常に技術を改善してきています。また常に顧客の要件にいち早く応じるため時代と共に革新的なサービスを常に模索し開発し続けています。ミュンヘン再保険にとってSAPは単なるソフトウェア提供者ではなく、今後も新たなチャレンジやイノベーションを共同で行える良きパートナーとして共に顧客ファーストで歩み続けます。

この取組は本年度 SAP Innovation Awards 2019を受賞されました。ご興味のある方は、Risk Suite: Geo powering businesses with big data analytics and geospatial data 詳細資料も合わせてご覧ください。

※なお本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、Munich REのレビューを受けたものではありません。