「2層型」のERP連携で 海外拠点におけるシステムのスピード整備を実現する 大和ハウス工業、日立ハイテクノロジーズの挑戦
作成者:SAP編集部 投稿日:2019年9月6日
積極的な海外進出やM&Aによる事業の多角化など、ビジネスによりスピードが求められるなか、従来のように数年がかりでシステムを展開している猶予はありません。そこで有効なのが、SAP S/4HANA Cloudを活用した「2層型」の基幹システム連携です。今回は、2019年7月11日に東京・品川で開催されたSAP NOWにおける大和ハウス工業株式会社 情報システム部 次長の福嶌健氏と株式会社日立ハイテクノロジーズ デジタル推進本部 本部長の酒井卓哉氏の事例セッションをご紹介します。
グローバルテンプレートを構築し、1拠点3カ月での導入を実現
大阪市に本社を置く大和ハウス工業は、国内156社と海外231社を合わせてグループ387社(2019年3月現在)を有しています。創業100周年にあたる2055年度の売上高10兆円達成を目指し、現在は海外展開を加速中です。本社では2012年からSAP ERPを会計と人事の領域で活用。現在、国内のグループ会社において、会計領域で総売上高の80%強、人事領域で全従業員数の70%強をSAP ERPでカバーしています。
一方、海外事業の強化にはスピード感をもって各拠点に経営基盤を確立する必要があります。しかし、200社を超えてなお拡大を続けるグループ会社への展開に、従来のERPのロールアウト手法では間に合いません。そこで迅速な現場サポートとグローバルガバナンスの両立のため採用したのがSAP S/4HANA Cloudです。
福嶌氏は、海外に進出したその日から稼動し、ガバナンスを利かせられる会計システムはほかに選択肢がなかったと振り返ります。将来的に日本の情報システム部が直接作業することなく海外展開できる体制を作るためにも、極力標準機能を使ってシンプルに導入したいという思いもありました。
当時は国内のSAP S/4HANA Cloud導入実績が極めて少なかったこともあり、同社は2017年10~12月に無償のデモ環境で1回目のPoCを実施。しかし、デモ環境ではできることが限られ、初期設定も十分とは言えなかったため、本契約した検証環境を用意して2018年1~4月に2回目のPoCを実施しました。そこで迅速な展開を可能にするためのテンプレート構築を進めましたが、バージョンアップ検証やトラブルの解消など、さまざまな紆余曲折があったといいます。
苦心の末、構築したグローバルテンプレートの最初の導入ターゲットになったのはマレーシアのグループ会社で、約3カ月間の導入作業で完了させました。標準機能を活用し、アドオンや追加開発等は一切実施しないポリシーのもと、必要な作業は設定程度で済んだといいます。設定作業自体は約2カ月で、残りの1カ月はデータのセットアップやエンドユーザー教育などを実施。いったん決めてしまえば、拍子抜けするほどに安定した導入ができたと福嶌氏は振り返ります。
その後、インドネシアの拠点で展開を開始。現在はマレーシア3社、インドネシア4社で稼動しています。PoCで残された課題についてもSAP S/4HANA Cloudがバージョンアップするたびに解決されていきました。導入を通じて、Fit to Standardの難しさ、環境構築に時間がかかること、有無をいわさずやってくる3カ月ごとのバージョンアップ対応など、さまざまな考察を得たと語る福嶌氏は、「今後も海外展開と並行しながら、よりよいシステムへと進化させていきます」と話しています。
四半期ごとに実装される新機能のメリットを常時享受
半導体検査装置・電子顕微鏡などのナノテクノロジー、光学式装置・血液自動分析装置などのアナリティカル、シリコンウエハーなどの産業部材のインダストリアルという3つのソリューション領域で事業を展開する日立ハイテクノロジーズ。26の国と地域に拠点を有し、海外売上比率が61%を占めるグローバル企業です。
現在は企業価値の最大化を目標に、「世界標準のシステム」、「Fit to Standard」、「クラウドファースト」、「モバイルファースト」の4つを掲げデジタルトランスフォーメーションを推進。さらにはデジタル戦略に基づき、本社や大規模グループ会社にはフルスコープERP、小規模のグループ会社はクラウドベースのシンプルERPという「2層型」の基幹システム連携を実現しています。
同社がSAP S/4HANA Cloudを導入したきっかけは、M&Aで英国企業の一部事業を買収したことにありました。事業運営に必要なシステムを切り出し、買収条件で定められた2018年12月までに、英国、米国、中国、フィンランド、ドイツの5カ国への基幹システムの導入と統合を行うことになりました。既存システム継続利用に残された期間はわずか1年半。買収会社にはIT部門がなく、要員もいないという状況でした。そのため、酒井氏が率いるデジタル推進本部ではプロダクト選定にあたり、グローバルスタンダードであること、短期間で導入できること、少人数で運用できること、同社グループの次世代プラットフォームのグローバルIT戦略にマッチしていることを求めた結果、SAP S/4HANA Cloudの採用を決定しました。
導入はFit to Standardの考え方に基づき、アドオンは一切行わない方針としました。導入アプローチとしては、Best Practiceのテンプレートをベースにトライアルから開始し、レビュー&修正によるアジャイル方式で短期導入を図りました。
プロジェクトチームは、Streamという単位でグローバルに構成。SAPコンサルタントにもグローバルのメンバーを採用しました。導入においてSAP以外のシステムインテグレーターは入れず、ビジネスユーザーとテンプレートベースで業務シナリオを確認。世界各地に分散するメンバーとのミーティングの多くはSkypeで実施したといいます。
導入プロジェクトは2017年12月にスタートし、まずは管理拠点の英国と営業・サービス拠点の米国に5カ月で展開。その後、製造拠点の中国は4.5カ月、製造・R&D・販売拠点のドイツとR&D拠点のフィンランドには3カ月で展開して順次稼動しています。プロジェクト進行当時はSAP S/4HANA Cloudの情報が少なく、情報の収集に苦労したと酒井氏は語ります。要望に対する機能の不足もあり、手作業で割り切ってもらう部分も出てきたが、今後のロードマップにあるものについては将来リリースで順次対応されるということで納得してもらったといいます。
SAP S/4HANA Cloudはアドオンが不可のため、必然的にカスタマイズなしとなり、自動アップグレードのメリットをフルに享受できます。酒井氏は「四半期ごとにリリースされる新機能のメリットを受けながら、アナリティクスやAIの機能を活用していきます。また、本社システムのSAP S/4HANA移行と合わせてオンプレミスとの連携や、同規模グループ会社への横展開も検討していきます」と語っています。
S/4HANAクラウド部会の立ち上げ
さらに大和ハウス工業と日立ハイテクノロジーズは、2019年4月にジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)で「S/4HANAクラウド部会」を立ち上げました。福嶌氏は部会長、酒井氏はオピニオンリーダーとして在籍しています。
そこでは技術的な課題などをまとめ、日本のSAP S/4HANA Cloudユーザーの状況や改善要望を、SAP本社の開発部隊に直接届け、日本企業が望む機能が早期に搭載されるよう働きかけていくことを念頭に活動しています。
両社が他に先駆けて実現する「2層型ERP」は、グローバル経営を加速する好例として、多くの企業の注目を集めるものとなりました。
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