SAP SuccessFactorsを活用したグローバル人財マネジメントに取り組むTHK


THK株式会社は、直動案内部品「LMガイド」のパイオニアとして世界シェア5割超を誇る機械要素部品メーカーです。今回は、2019年7月19日に開催されたジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)主催のイベント「JSUG Focus 2019」で行われた経営戦略統括本部 星野恭敏氏の講演より、同社のグローバル人財マネジメント戦略についてお伝えします。

グローバル化に伴う人財マネジメントの課題

THKは工作機械、半導体製造装置などに使われる機械要素部品を製造する産業機器事業、自動車のサスペンション関係の部品を製造する輸送機器事業の2つの領域を展開しています。1990~2000年代からグローバル展開を加速し、現在では売上も人員数も海外の割合が多くなっています。それでも、THKはあくまで「グローバルに拠点を持っている日本の会社」であり、マネジメントスタイルや考え方は保守的な部分があると星野氏は語ります。

事業および組織・人財マネジメントのグローバル化について、星野氏は四象限の図式で解説しました。縦軸は事業のグローバル化の度合い、横軸は組織や人財ガバナンスのグローバル化の度合いを示します。輸出や自社工場の建設、M&Aなど事業のグローバル化とともに、人財のガバナンスもグローバルに拡大していく必要があります。

THKの人財ガバナンスの現状と目標

THKの人財ガバナンスの現状と目標

しかし、事業がグローバル化しても人財マネジメントが日本型のままという点が、海外M&A成長型日本企業の課題といえます。2016年頃、THKはまさにこの課題に直面していました。輸送機器事業の大半が2度のM&Aで成長した当時、海外拠点の責任者の多くは日本からの出向者でした。さらに、海外拠点の人財マネジメントに日本の人事部は関与しておらず、人事制度が統一されていませんでした。また、人事システムも拠点主導で導入されてきたため本社や拠点間は連携されていない状態でした。そこでTHKは、グローバル多国籍企業のレベルまでは行かないまでも、海外M&A成長型の日本企業としてきちんと人財マネジメントを実施するという目標を立てました。

同社が取り組んだのは、人財マネジメントサイクルを仕組み化し、ルーティン化することです。人を外部から採用または内部で発掘して、その人財をアセスメントする。さらに、適切な教育研修を施し、現場で育てていく。育成計画のとおり職務配置を行い、定期的に評価/処遇し、その人財レビューを経営陣で行う。このサイクルを継続し、問題があれば修正していきます。「グローバルに人財を可視化し、全社で計画的に人財を育成する」ことを最優先事項として掲げ、そのために採用したのがSAP SuccessFactorsのプラットフォームです。

タレントマネジメントに向けて取り組む内容を絞り込み

SAP SuccessFactorsにはさまざまな機能がありますが、THKでは人財情報を可視化し、その情報を軸に評価管理、後継者管理を行うことにフォーカスしました。例えば、後継者計画とHi-Pot(高いポテンシャルを持つ人財)育成の仕組みに限定した人財マネジメントに機能を絞り込む一方、トランザクションシステムとしての使用、人事評価制度のグローバル化は見送っています。グローバルポジション評価は、後継者を育成しなければいけない上位層の人財管理に限定。ただし、SAP SuccessFactors標準のHRアナリティクスレポートの活用、欧州のGDPRなどデータセキュリティ法制への対応は行っています。

なおクラウドシステムの利用にはサブスクリプション料金が発生するため、短期間でのグローバルビッグバン導入を目指しました。例えば英語のコミュニケーションを円滑化できるよう米国現地法人の社員をプロジェクトに加えています。また経営陣とも協議し、今回はあえてシェアードサービス化やBPOなどのコスト削減アプローチは追及していません。

THKはまず各拠点が使っているシステム、人財マネジメントを調査したうえでソリューションパートナーを決定。ビッグバン導入に注力した2017年のフェーズ1では、社員情報のデータベース(Employee Central)構築、各拠点の人事情報システムとのインターフェース連携などを約10カ月で進め、本稼動に漕ぎ着けました。

2018年のフェーズ2は、タレントマネジメントのモジュール(Performance Management、Succession Planning、Career Development Planning)構築を行い、10カ月ほどで本稼動。以降は各拠点に対する人財マネジメントの「布教活動」に相当な労力を注いだといいます。

厳密なデータセキュリティ対応

最も手間とコストを要したのが、データセキュリティへの対応です。欧州にある各拠点とは必ずSCC(GDPR準拠に必要な標準契約条項)を締結したほか、監督官庁への届け出に数カ月かかることもありました。欧州以外の国とはDPA(データ処理合意書)を結ぶなど、本社と拠点間(30拠点ほど)でSCCとDPAを締結しました。

THKは個人情報保護案件に強い在欧の法律事務所と契約し、GDPR施行前(欧州委員会指令の時代)からの要件に対応。併せて、全世界の拠点責任者と人事部門に各国のルールを調べてもらうなど、各国の該当法規の調査も独自に進めました。

タレントマネジメントにおける機密情報の扱いには、非常に気を使ったと星野氏は振り返ります。例えば、日本では公開OK、米国ではNGという項目もあります。SAP SuccessFactorsでは、共有されるデータの種類(誰がどの情報にアクセス、編集できるか)を細かく決めていくことになります(Roll-based permission)。例えば、性別、国籍、生年月日は、本人と人事以外の人には見えないように設定します。労組対応など国ごとに要件が異なるため、諸問題を解決しながら導入を進めていきました。

データセキュリティ要件への対応

データセキュリティ要件への対応

製造技能員の生産スキル管理にも活用

製造業であるTHKには、工場で働く技能員が多数所属しています。これまで技能員のスキル管理は、各拠点でそれぞれ評価しており、データは共有されていませんでした。そこで、製造技能員のスキル管理データベースをSAP SuccessFactors内に構築。工場ごとに異なっていた技能員スキルの定義や評価基準を統一し、マスターデータを従業員プロファイル(Employee Central)で管理します。スキルや公的資格の管理には、通常は組織図で使うCompany Structureの機能を転用し、スキルマスターとして利用しています。

これにより国内6工場3,000名超の保有スキル、技能習熟度、公的資格などの一元管理を実現し、半年ごとにアップデートして多能工化を進めています。また、レポート機能により、いろいろな切り口からのモニター/分析も可能になりました。タレントサーチ機能を使い「他の工場にこれができる人はいるか?」と、事業ニーズに応じた人財を探すこともできるようになりました。今後は多言語化や評価制度への活用も考えているといいます。

SAP SuccessFactorsの導入ポイント

最後に星野氏は、導入のポイント(Success Factors)をまとめました。経営トップのコミットメントやサポート、権限移譲はもちろん大きな意味を持ちます。また、実現したい人財管理プロセスの明確なイメージ、やること/やらないことの線引きは、クラウドを活用する上では特に重要です。さらに導入パートナーにグローバル人財マネジメントのノウハウが不足している場合もあるため、大手人事コンサルティングファームの協力を得るなど管理項目や機能要件を詳細に詰めておく必要もあります。

グローバルプロジェクトの経験豊富な導入パートナーと組むか、グローバルコミュニケーションができる人財を社内で確保することも重要です。「人事システムの知識がある内部人財の確保と、情報システム部門の協力は欠かせません。さらにデータセキュリティなどの重要事項には、外部の専門リソースを使うことも検討するべきです」と星野氏は語り、セッションを締めくくりました。