SAP Ariba Live Tokyo 2019レポート①/挨拶&坂口氏・基調講演


2019年7月23日、調達・購買のカンファレンスとしては国内最大級の規模を誇る「SAP Ariba Live Tokyo 2019」がグランド ハイアット東京で催されました。前回を大きく上回る700名以上のお客様が参加した本カンファレンスについて, 4回シリーズでお届けします。

<SAP Ariba Live Tokyo 2019レポート①/挨拶&坂口氏・基調講演>

調達・購買の変革が“よりよい社会”づくりを加速する ─ SAP Ariba Live Tokyo 2019報告#1

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「デジタル調達革命」が今、必要とされる理由

坂口氏の基調講演に先立ち、「SAP Ariba Live Tokyo 2019」開催挨拶のためにSAPジャパンの佐藤恭平(バイスプレジデント 調達・購買ネットワーク事業本部長)が演壇に立ちました。

佐藤は、会場を埋め尽くしたお客様に向けて、「今こそ、デジタル調達革命(=デジタルテクノロジーによる調達の変革)を実行に移すときです」と訴えかけ、こう続けます。

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「デジタル調達革命によって、調達の『コスト削減』『自動化』『コンプライアンス・ガバナンス強化』『社会的責任(の履行)』がより確実に実現できるようになります。これらはすべて、日本企業が持続的な成長を遂げるために、すぐにでも遂行すべき取り組みと言えます」

例えば、現在、急拡大を続けてきた世界経済が調整局面に入るとの予測があります。仮に、そうなれば、企業が売上げを維持・拡大させる難度は上がり、結果として、利益確保のためにコストコントロールを徹底する重要性が増してきます。

また、少子高齢化・労働人口減少に歯止めのかからない日本では、ルーチンワークの自動化による働き手の労働生産性向上が求められています。加えて、日本企業のグローバル化が進むなか、海外拠点の法令違反や不正を阻止するコンプライアンス・ガバナンスの強化も重要な課題と言えます。

さらに、今日では、各国のあらゆる企業に「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」への貢献など、社会的責任を果たすことが強く求められ、企業に対する社会・生活者の価値観にも、企業の社会貢献度が大きな影響を及ぼすようになっています。

デジタル調達革命は、このような時代の要求に企業が対応していくための極めて有効な一手です。

「そのデジタル調達革命を加速させるべく、当社ではSAP AribaやSAP Fieldglassの日本への浸透をさらに推し進めていきます」と坂口は語り、講演のバトンを基調講演スピーカーである未来調達研究所の坂口氏に渡しました。

 

革新のキーワードは「オープンソース調達」「IoT」「AI」 

坂口氏は、過去20年間、一貫して調達・購買の世界に携わってきた人です。その20年間で調達・購買施策のトレンドはさまざまに変化してきたといいます。

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「2000年までは『分散購買』が主流を成していましたが、2001年以降は『集中購買』がトレンドとなり、その潮流が『戦略購買』『協調購買』へと段階的に切り替わっていきました」と、坂口氏は振り返ります。

また、のちの2010年代前半には『発展購買』として、グローバルソーシングやBPO、IoTの利用が活発化したといいます。そして、2010年代後半からは、ビッグデータやAI(人工知能)を活用した『進化購買』の時代に突入していると坂口氏は説明します。

「この2010年代前半以降は、デジタルテクノロジーの活用が調達・購買の中心的なトレンドと言えます。その流れの中で、浮上してきたキーワードが『OS(オープンソース調達)』『IoT』『AI』の3つです。このうち、OSの要点は評価基準を公開し、オープンに調達先を募ることにあります。また、IoTは、商材の『フリーモデル(サブスクリプションモデル)』の実現など、『調達から使用へ』の潮流を形成しつつあります。さらに、AIは、ビッグデータの分析によって攻めの調達を実現するという流れを生み始めています」

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AIが発注を先読みする時代へ

坂口氏は今回、OS、IoT、AIの3つが引き起こしている調達・購買革新の事例をいくつか紹介してくれました。OS事例の一つは、調達サイトの「MFG.com」です。MFG.comは、B2Bのマッチングサイトで、バイヤーが調達・購買したい商材の図面をサイトにアップロードし、それに対して、世界中のサプライヤーが提案を出すという仕組みになっています。

一方、IoTを使ったサブスクリプションモデルの好例─つまりは「調達」から「使用」への転換を示す好例として、坂口氏はドイツにおける生産機器の例を挙げます。

生産機器の調達・購買の従来モデルは、機器を購入して減価償却をするというものです。ところがドイツでは現在、生産機器を無料で顧客のサイトに設置し、1回の稼働当たりで料金をチャージするというモデルが登場し始めているといいます。これは、’使った分だけ料金を支払う’というクラウドコンピューティングのモデルと同じもので、IoTの効果により、「調達」から「使用」への流れがハードウェアの領域でも見られ始めているということです。

さらに、AIを使った調達関連の先進事例として、坂口氏はAmazonの「Anticipatory Shipping」の例を示します。

「Anticipatory Shippingは、いわゆる予測発注システムで、顧客から注文が来る前に注文時期・注文数を予測し、当該商材を出荷してしまうという取り組みです。このように、AIを使ったB2B取引においては、近い将来、発注者が注文をかける必要も、注文数量や注文するタイミングを決める必要もなくなる可能性があるのです」(坂口氏)。

サプライヤーとの“戦略的癒着”という選択肢

もっとも、デジタルテクノロジーだけで調達・購買を巡るあらゆる課題が解決されるわけではありません。坂口氏はそのことを示す一例として、GDPに対する鉱物性燃料輸入額率のグラフを見せながら、次のように製造企業による調達の問題点を指摘します。

「日本の製造業は過去30年間、原材料価格の上下動で儲けが決まるというモデルから脱け出せずにいます。こうした現実を直視するところから、本当の調達・購買の改革が始まると私は見ています」

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では、坂口氏の言う「本当の改革」を目指すうえでは何が必要とされるのでしょうか──。

この疑問に対する一つの答えとして、同氏は、「限られたサプライヤーとの蜜月関係の構築」という選択肢を提示します。

「調達・購買での一般的な考え方は、可能な限り数多くのサプライヤーと等距離で付き合い、競争させて、最良の提案を引き出すというものです。ただし、それを続けることで調達担当者には相応の負荷がかかります。ですので、これまでとは真逆の発想で、限られたサプライヤーと蜜月関係を築き、新しい調達・購買のあり方をともに作り上げていくという選択肢も検討すべきです。というよりも、むしろ“戦略的癒着関係”が必要とされる時代はすでに到来しているとも言えるのです」

坂口氏によれば、サプライヤーとの“戦略的癒着関係”によって、新しい調達・購買のあり方を実践している企業は少なからずあり、その代表的な一社が、アパレルメーカーのEverlane社であるといいます。

「Everlane社と他のアパレルメーカーとの最大の違いは、製品の原価や調達コストをすべて公開している点です。つまり同社は、調達における徹底した公平さ・公正さを実現しようとしていて、買い叩きなどの下請けへの不当な圧力を率先して排除しようとしているわけです。もちろん、原価を公開しているので、顧客に対しても正直です。歴史的に見て、アパレルメーカーのこうした調達・購買の先駆的な取り組みは、のちに、さまざまな業界に伝搬していく傾向が強くあります。実際、日本でもすでに原価公開に踏み切っている企業があります。近い将来、多くの業界で調達コストの透明性を確保する動きが活発化し、場合によっては、生産工場の全公開に踏み切るところも登場するのではないかと見ています。そして、この動きに欠かせない要素が、バイヤーとサプライヤーとの戦略的な癒着関係なのです」(坂口氏)。

社会との共生を意識した調達・購買を

坂口氏は、今後における調達・購買のもう一つの要点として「社会との共生」というポイントを掲げます。

SDGsへの積極的な対応は、企業が市場での信用と信頼、そして支持を集めるための重要な要件となっています。そこで調達の果たす役割は非常に大きいと坂口氏は指摘します。

「調達は、企業が周囲に発信するメッセージです。調達先としてどのようなサプライヤーを選ぶかによって、企業が周囲に与える印象は大きく変わります。その意味で、調達の基準づくりは、どのような社会をつくりたいかを決める取り組みとも言え、その際に考慮すべきなのが“企業と社会との共生”です」

例えば、今後、廃業・倒産を余儀なくされる企業が増えてくるかもしれません。

「そうなれば、廃業・倒産の増大を阻止するメカニズムとして、企業の調達・購買機能への期待が膨らんでいくはずです。企業としては、そうした社会の期待にこたえる必要があり、ゆえに、調達によって単にモノを買うだけではなく、共生社会をかたちづくるという意識を持つことが大切です」(坂口氏)。

一方、これからはビッグデータの分析・活用も、調達の効率化・有効性を高めるうえで重要な要素となるはずです。

「とはいえ、ビッグデータの利活用で、日本企業がGoogleやAmazonといったデジタルジャイアントたちに勝てる見込みはほとんどありません。ですので、日本企業はビッグデータではなく、データを深く掘って独自の知見を発見する『ディグデータ(DIG DATA)』に力を注ぐべきです」と、坂口氏は述べ、次のように話を締めくくります。

「科学的、かつ論理的な思考を巡らし、調達・購買の理論を完成させていく。それが、これからの調達・購買の担当者には必要とされています。外部の情報を収集し、独自の分析を加え、付加価値の創出つなげていくことが大切であり、そのようにして生まれた正しい調達・購買機能はよりよい社会づくりに必ず寄与すると確信しています」

<了>