明確なPurposeを見据え、社会的意義のあるイノベーションを目指すデジタル戦略 ~SAP NOW Tokyo 基調講演レポート~ Vol.1

作成者:SAP編集部 投稿日:2019年8月22日

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「Innovation with Purpose ~ 社会的意義のあるイノベーションを、Intelligent Enterpriseで~」をテーマに開催された2019年の年次カンファレンス「SAP NOW」。イベントの幕を開ける基調講演には、SAPジャパン 代表取締役社長の福田譲とPHCホールディングス株式会社の執行役員CIOを務める峰島孝之氏、国立大学法人・大分大学 理工学部 教授 減災・復興デザイン教育研究センター長の小林祐司氏が登壇しました。本ブログでは、その講演の模様をレポートします。

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変化に対応し、変化を先導するITシステムとは?

講演の冒頭、福田は今回のSAP NOWのテーマを「Innovation with Purpose」「目的を持った革新」「社会的意義を持ったイノベーション」と説明。「変化が激しく、先が見えにくい時代だからこそ、目先の技術や流行に翻弄されることなく、真の目的、Purposeに取り組むことが重要」と語りました。

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M&Aや事業統合、プライベートエクイティの活用などはもはや特別なことではなくなり、「10年後も自社は安泰」と言い切れる企業は、ほとんどありません。長らく日本で言われてきた「タブー」が取り払われ、変化のスピードはますます高まっています。ITに関しても「私たちが動かしているITシステムは、変化を先導できるものなのだろうか」「私たち自身は意識やスキル・経験といった点で、準備ができているのだろうか」が大きな課題となっています。
そこで今回の基調講演では、医療機器やヘルスケア企業3社を母体としながら、海外企業とのM&Aなど「攻めの経営」を支える基幹システムとしてSAP S/4HANAを採用した、PHCホールディングスの執行役員CIOを務める峰島孝之氏が最初に登壇し、その先進的な取り組みについて講演しました。

デジタルとM&Aで全社改革に挑むPHCホールディングス

パナソニックの家電事業部門と旧三洋電機のヘルスケア事業部門が、2012年に統合して誕生したPHCホールディングス。2016年にはドイツの製薬会社のバイエルの糖尿病事業を加え、2018年から現在の社名に変更しました。
医療機器、ライフサイエンス、ヘルスケアITの分野で世界トップクラスのシェアを誇る同社ですが、ヘルスケア業界にも「デジタル化の波」が確実に押し寄せていると峰島氏は話します。従来の医療は病院が起点でしたが、2030年にはウェアラブルデバイスによるバイタルデータの計測、遺伝子情報の取得、スマートフォンアプリの活用、ソーシャルメディアを介したプッシュ型通知など、医療供給が患者起点になることが予測されます。

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その結果、企業には患者単位のペイシェントジャーニーのデータを一気通貫で扱える能力が求められており、こうした現状を峰島氏は「ヘルスケア企業の成長は、M&Aによるビジネス拡大がカギを握ります。今後は年平均で2件程度のM&Aを実施できる能力が不可欠になるはずです」と分析します。
しかしながら、同社内では会社設立の経緯からマルチベンダーによるシステムが乱立し、デジタル化やM&Aに対応できない状況になっていました。そのため、ITと向き合う社内のマインドには、過去の2つの体験から「身の丈志向」と「SAPアレルギー」があったといいます。
「身の丈志向」は、2014年にパナソニックからカーブアウトする際に早急なスタンドアローン化が必要だったことから、当時の規模に合わせて期間内、予算内でのカットオーバーを強いられたことが背景にあります。また「SAPアレルギー」は、2015年に既存のSAPシステムをライフサイエンス工場に横展開する際、さまざまな要因で生産業務が1年近くにわたって混乱したことが原因です。

そこで同社は、ユーザー部門、IT部門、経営層が一丸となったITアーキテクチャの変革を目指す全社プロジェクトをスタート。まずIT部門には将来の事業展開の可能性を提示し、5年後には2倍となるビジネスを現在のシステムが支えられるかを問いかけながら、新たなITアーキテクチャの基本要件を整理していきました。さらに最新のERPを学ぶ機会を設けた結果、未来の成長を実現するためには新たなERPを中心としたアーキテクチャの刷新が不可欠という総意が形成されていきました。
また経営層に対しては、取締役会の場でM&Aの成長戦略のほか、2023年までに約500名が定年退職を迎えること、IPOへの対応などの課題を提示。さらなる業務の標準化、テンプレート化、SAPの活用などの必要性を説き続けました。この過程について、峰島氏は「CEOとは隔週でミーティングを行い、事業統括役員、CFO、経営企画役員、ユーザー部門の工場長、地区経理部長業務責任者とも頻繁に意見を交わしました。ここでは人の話に真摯に耳を傾け、意見を出してくれる企業文化にも助けられました」と振り返ります。

プロジェクト計画の承認後、同社は2019年1月と5月に2件のM&Aを実施。その結果、売上は1.6倍、パナソニックから独立した時と比べて約4倍の事業規模になりました。このことは事業の成長に向けた仮説が現実のものとなりつつあることを意味しており、同社では今後もさらに仮説を進化させながら、高度なヘルスケアプラットフォームの構築を進めていく計画です。峰島氏は「SAPをコアに、デジタル、M&A、グローバルをキーワードにビジネス基盤を再構築し、今後もグローバルスタンダードを追求していきます」と話し、講演を終えました。

大切な人の命を守るために、大分大学が推進する減災・復興デザインのイノベーション

続いて登壇したのは、国立大学法人・大分大学 理工学部 教授、減災・復興デザイン教育研究センター長の小林祐司氏です。SAPジャパンは防災・減災のための情報活用プラットフォーム「EDISON」を通じて、大分大学・大分県との協働プロジェクトに取り組んでいます。
大分大学の減災・復興デザイン教育研究センター(CERD)は、地域の安全・安心を支える社会の構築を目指して2018年に発足しました。現在は災害調査、防災教育、復興デザインの3つの柱でプロジェクトを推進しながら、「災害対策における真の社会実装」の実現を目指しています。防災・減災の社会的意義は「安全・安心な社会を創りあげること」であり、それは大切な誰かを守り、今の社会をより良くして次世代に引き継ぐことを意味します。そのためには、社会や世界の仕組みを根本的に変えていかなければなりません。

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「災害多発時代」と呼ばれる現在、私たちはどう生きるのかを問われています。それは個人だけでなく、家庭やコミュニティ、さらには社会や企業も含まれます。小林氏は「自然が変化しているなら、私たち自身も変わる必要があるのではないか」と来場者に語りかけました。
東日本大震災、九州北部豪雨など、これまで幾度となく襲った災害により、私たちは、社会は、世界は何を学んだのか。 これに対して小林氏は、「教育」「持続性」「責任と義務」の重要性を挙げました。この3つに対してデジタルを活用していこうという発想が、今回のSAPとの取り組みにつながったといいます。

「なぜこうしたテーマに取り組むのかといえば、それは次世代への責任です。CERDでは、2017年に九州北部豪雨で大きな被害を受けた大分県日田市において、防災シンポジウムを開催。高校生たちとのフィールドワークを通して何が起きていたかを体験し、若者の目線で情報発信しています。子どもたちが“こうして欲しい”といっているのに、何もやらないのは怠慢です。そこでSAPのデザインシンキングを実施して、一緒に議論しました」と小林氏と振り返ります。
東日本大震災以降は防災教育の重要性が叫ばれるようになり、教育にも持続性が求められています。そこに対しても、CERDではEDISONやデジタル技術の活用に大きな期待を寄せており、教育の高度化や実データとデジタルを活用した体験による防災意識の向上に取り組んでいます。

続けて、SAPジャパンからデジタルエコシステム統括本部の吉田彰が加わり、大分大学とSAPが共同で取り組んでいるイノベーションについて議論しました。吉田自身のPurposeの原点も東日本大震災にあり、無力さ、人の温かさ、日本人というプライドが根底にあるといいます。

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その中でSAPがEDISONに取り組む意義は、次の4つの強みを生かしたビジネスの拡張にあります。1つめは、SAPの最先端のテクノロジーが凝縮されたSAP HANAです。SAP HANAを活用することで、従来はスーパーコンピュータで行っていた処理が小さな規模でも実現できます。2つめは、創業以来一貫して、複雑なビジネスプロセスを統合してきた実績です。SAP自身も先端技術を採り入れながら、Intelligent Enterpriseによる業務の高度化を進めています。3つめは、デザインシンキングの多様性と自分ごととして考える共感性。そして、4つめはネットワークやエコシステムで、研究者、企業、行政など多様な立場の人が関わることができる点にあります。
吉田は「まずSAP自身がデジタルトランスフォーメーションの中心となり、世界中のお客様やパートナーとエコシステムを形成する。それをコアに、行政を中心としたデータ、教育機関のノウハウを統合したプラットフォームがEDISONの意義だと考えています」と語っています。

災害で多くの子どもが命を落とす中、「社会の不作為」は社会全体の責任です。何かが起きてからでないと動かない社会は間違いです。すべての人が、地域が、世界がそれぞれの役割の中で関わっていくべきです。すぐには完成に近づかなくても、今できることに取り組んでおけば、いつかは実現できる。そのことが多くの命を救い、子どもたちを守る取り組みにつながるはずです。より良い社会のためにテクノロジーと知を結集する。その先に「真の社会実装」があります。
最後に小林氏は「重要なものはPurpose、想い、持続性です。何かが変わるのは10年後、50年後かもしれません。でも今やるべきことがわかっているなら、私たちはそれに向かって進むべきです。大切な人のため、次世代のために、一緒に取り組んでもらえませんか」と呼びかけて、講演を締めくくりました。

大分大学との取り組みは、一見するとSAPのイメージとは異なるのかもしれません。しかし、こうした取り組みには、創業から約50年にわたって磨き上げてきたSAPのDNAが間違いなく生かされています。SAPが目指すのは、一貫して「再現性のある、イノベーションのパッケージ化」です。
PHCホールディングスのSAP S/4HANAと大分大学が防災・減災で取り組むEDISONは、テクノロジーは異なるものの、共通しているのは「明確なPurpose(目的)」です。2つの講演からは明確なPurposeによって会社や社会をより良くしていきたいという強い想いが伝わってきました。

▼講演の動画は、簡単な登録でこちらからご覧いただけます。
SAP NOW Tokyo 2019 基調講演―明確なPurposeを見据え、社会的意義のある イノベーションを目指すデジタル戦略
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