インテリジェントエンタープライズとエクスペリエンスデータで実現する社会的意義のあるイノベーションとは ~SAP NOW Tokyo 基調講演レポート~ Vol.2


今回は、2019年7月11日に開催したSAP NOWの夕方の基調講演「Intelligent EnterpriseとXデータで、社会的意義のあるイノベーションを、日本に」について紹介します。午前中の基調講演と同様にSAPジャパン社長の福田による講演に続き、クアルトリクス合同会社のカントリーマネージャー 熊代悟氏と株式会社メルカリ 執行役員/メルカリジャパンCEO 田面木宏尚氏に登壇いただいた本講演は、エクスペリエンスマネジメント(以降、XM)について新たな知見を得られる絶好の機会となりました。

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インテリジェントエンタープライズで変わるビジネススタイル

講演冒頭で福田は、運転中の女性がSAP co-Pilot(音声入力インターフェース)を使ったシステムとの会話を行う動画を紹介しました。会話を通じてシステムは機械学習を行い、さらに賢くなっていきます。またSAPは、RPAにも機械学習と対話型AIを組み合わせ、さらに効率化されたプロセスを提供しています。学習し、進化し続ける企業ITシステムが当たり前の時代は、すぐそこに来ています。

従来のSAP R/3(ECC)の時代には、情報は人が探し、分析を行うものでした。SAP S/4HANAでは学習も予測もERP側で行い、人にアラートを送ります。SAP S/4HANAには多くの機械学習(ML)機能が実装されており、さまざまなビジネスプロセスがMLにより進化していきます。そのためルーティン業務は自動化され、人の役割はより高付加価値な業務へとシフトしていきます。

さらに福田はデジタルトランスフォーメーションを推進しているお客様の例を交え、インテリジェントエンタープライズのポイントを紹介。ITはビジネスにおける「攻め」と「守り」の両方を担う領域となり、クラウドも活用しながらプロセスを標準化していくことで、経営・業務・ITの距離は大きく縮まっていきます。さらに、顧客と従業員の満足度を高めるための視点として、新たに注目が集まっているのがエクスペリエンスマネジメント(XM)です。クアルトリクス(Qualtrics)は、顧客や従業員のエクスペリエンスを調査/分析して改善につなげるクラウドソフトウェアプラットフォームを提供しており、その先進性に着目したSAPは2019年1月に同社を買収しています。

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エクスペリエンスマネジメント(XM)に注目すべき理由

続いて登壇した、クアルトリクスの熊代氏は、XMという考え方について説明を行いました。個人として商品やサービスを買う時にも、働いている時にも、誰もがさまざまな感情を抱いて行動しています。XMとは、エクスペリエンス(体験)に対する感情をマネジメントし、ビジネスに取り入れていく手法です。いい商品を作れば売れるという時代ではなくなったからこそ、このような考え方が重要となってきます。

しかし、米国で行った調査によると、顧客や従業員に最高のエクスペリエンスを提供していると答えた企業のCEOが80%に上ったのに対し、最高のエクスペリエンスを享受したと答えた顧客や従業員の割合はわずか8%。ここに大きなギャップが存在することは間違いありません。

このエクスペリエンスギャップを埋め、より良いエクスペリエンスを提供するための最も効果的な手法は、体験している側に話を聞くことです。クアルトリクスはいわゆるアンケート調査だけではなく、積極的に顧客や従業員の声を収集し、分析を行い、改善アクションの実行を日々の業務として認識すること、そのPDCAを管理するプラットフォームを提供します。

ここで理解しておきたいのが、OデータとXデータという考え方です。Oデータとは業務(Operational)データのことで、営業や顧客情報、生産、財務など、SAPが得意としてきた領域です。いわゆるトランザクション履歴(過去のデータ)から、何が起こったのかを理解することに役立ちます。従来の企業は、Oデータを活用することで予測や仮説の設定を行ってきました。一方、X(Experience)データは、従業員エンゲージメントや顧客満足度、ブランド認知度などのデータを指します。なぜ売上が落ちたのか、なぜ従業員が辞めたのかなど、起こった理由や感情を理解することにフォーカスします。

OデータとXデータを組み合わせ、どんな取引を行ったお客様が、どれだけ満足しているのかを調査/分析してより深いインサイトを見出し、改善のアクションにつなげることが可能です。

XMプラットフォームで改善策を発見

エクスペリエンスマネジメント(XM)プラットフォームとも呼ばれるクアルトリクスでは、顧客、従業員、商品、ブランドのエクスペリエンスを1つのプラットフォームで管理できます。

プラットフォーム上では、核となる「リサーチコア」ツールによって、「収集+対話」「分析+策定」「アクション+改善」の一連の流れをシームレスに実現。さまざまなタイミングで各種データを集めたXデータを分析し、どういうアクションに繋げるのかAIを活用して推奨事項を提示します。

重要なのが、XデータとOデータの連携です。Xデータからは何%の顧客が満足しているのかは読み取れても、それ以上のことは分かりません。Oデータと連携させると、取引年数や年商規模によって満足度にどう違いが出るのかなどのインサイトが得られます。SAPシステムに蓄積されたOデータとの連携により、クアルトリクスの提示する分析結果はより広く、深くなっていくはずです。

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メルカリにおけるクアルトリクスの活用

メルカリの田面木氏からは、クアルトリクスの活用事例の紹介が行われました。CtoCのマーケットプレイスで知られるメルカリは近年、海外にもビジネスを拡大。グループの従業員数1,800名の内30%を占めるのは40カ国以上から集まった外国人従業員です。メルカリは利便性の高いアプリ開発を通じて、顧客エクスペリエンスの最大化を図ってきました。さらに、グローバルな人材を採用し世界で勝てる企業を目指すため、従業員エクスペリエンスの最大化にも取り組んでいます。

以前からXデータに着目していた同社は、クアルトリクスを活用して従業員エクスペリエンスをさらに追求しています。1つは、従業員エクスペリエンスを向上させるため、組織の現状を把握するためのサーベイ「メルパルス」、もう1つはマネジメントの強み・弱み・改善点を把握し、成果を最大化するためのサーベイ「マネパルス」の実施です。

メルパルスは、年に2回実施されます。7つのカテゴリからなる54項目の設問をもとに、メルカリの現状の組織の「あるべき理想の姿」に対して、実際はどれくらいギャップがあるのかを明らかにし、ギャップを埋めるためにどのような対策を打つべきかを検討します。クアルトリクスのダッシュボード画面でサーベイ結果を確認すると、組織の評価ポイントと課題(トップ3&ボトム3)が可視化されます。さらに、四象限マッピング機能を使うことで、重点改善ポイントと重点継続ポイントを視覚的に把握でき、部門ごとに詳細なデータも掴むことができるようになっています。重点改善ポイントが明らかになったらアクションに移し、しっかりと課題が解決されているかを確認しているといいます。

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一方、マネパルスは四半期ごとに実施されます。評価軸には、メルカリが掲げる「Go Bold」「Be a Pro」「All for One」という3つのバリューに、「マネージャー推薦度」と「チームパフォーマンス」という指標が加わります。マネージャー推薦度とは、部下が上司を評価した点数です。数値化されたマネージャー推薦度がダッシュボードで可視化されるため、管理者は部下からの評価を直視せざるを得ません。可視化するだけではなく、コミュニケーションに基づいてPDCAのサイクルを回すことが重要なので、メンバーからマネージャーに対して直接フィードバックする場を設けています。このミーティングを行うことで、パフォーマンスやマネジメントの改善が可能になっています。

田面木氏は、「日々ビジネスの状況は変わります。顧客、従業員もまた変わっていきます。エクスペリエンスを可視化し、改善に向けてアクションを起こすことが非常に重要です」と示唆しました。OデータとXデータをかけ合わせることで、顧客や従業員がどう感じているのかを正しく検証することにつながり、そのプロセスをループさせることが、データを通じて価値を作っていく力を高めてくれます。

エクスペリエンスマネジメントの必要性を認識しながら、「新しいことに挑戦したくても、お金も人も足りない」という企業も多くあります。そこで、リソースをOデータからXデータへシフトさせ、全体のバランスを変えてはどうでしょうか。今ある仕組みをシンプル化して、新しい顧客エクスペリエンスや新しいビジネスモデルの構築など、ビジネス変革の比重を増やしていくことが重要となります。

最後に福田が再登壇し、今回のイベントのテーマでもある「社会的に意義のあるイノベーション」に触れ、「SAPは、よりよい世界を創り、より豊かな生活を提供したいと考えおり、それは、決してSAPの力だけでできるのではなく、お客様、パートナー様を含めた皆様のビジネスがよくなれば、ビジネスを取り巻く環境もよりよくなります。引き続きお客様のビジネスをサポートすることで、世界をよりよくしていきたいと考えています」と締めくくりました。

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SAP NOW Tokyo 2019 基調講演―インテリジェントエンタープライズとエクスペリエンスデータで実現する社会的意義のあるイノベーションとは
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