SAP Ariba Live Tokyo 2019レポート④/国谷裕子氏ダイバーシティ講演


組織戦略としてのダイバーシティ ─ SAP Ariba Live Tokyo 2019報告#4

現在、世界の多くの企業が、人の“個性”や“感性の違い”を組織の力に転換する「ダイバーシティ&インクルージョン」の戦略を推進しています。これは、人の多様性(ダイバーシティ)を受け入れ、それぞれが持つ個性や異なる視点・価値観・思考を融合させながら、旧来の価値観にとらわれない組織の自由な発想力や創造力、そして変化への対応力を高めていく取り組みです。

SAPは、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みをかねてから推進しており、その効果の高さを肌身で知る一社です。その経験から、調達・購買の組織を含む、あらゆるお客様に対し、ダイバーシティ&インクルージョンの大切さを唱えてきました。

1MsKuniyaその取り組みの一環として、2019年7月23日に催した「SAP Ariba Live Tokyo 2019」でも、国谷裕子氏をスピーカーとしてお招きし、「ダイバーシティが企業を変える」という演題の下、ダイバーシティの重要性・必要性について論じていただきました。

ご存知のように、国谷氏はTV報道番組「クローズアップ現代」のキャスターとして広く知られてきましたが、今日では、東京藝術大学理事・慶応義塾大学特任教授・自然エネルギー財団理事の任に当たりながら、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を啓発する取材活動に力を注いでいます。

ダイバーシティは選択肢ではなく“急務”の課題

上の記述からもお分かりいただけるとおり、今日の企業にとって、ダイバーシティは「社会的責任」を果たす取り組みであると同時に、事業の収益を伸ばし、その持続可能性を高めるための経営戦略であるとも言えます。

国谷氏は、そうしたダイバーシティの重要性を表現する言葉として、「ウーマノミクス(Womenomics)」というキーワードに言及しました。ご存知の方も多いと思いますが、ウーマノミクスとは、女性の社会進出と活躍が経済活性化のカギを握るという考え方であり、金融機関の大手ゴールドマン・サックス社のキャシー・松井氏が1999年に初めて用いた用語です。もちろん、ダイバーシティは、会社組織における女性の活躍だけを意味するものではありません。ただし、性別の多様性は、組織のダイバーシティを象徴する側面です。そうした女性の社会進出の大切さを、松井氏はウーマノミクスという言葉で表現したわけです。「それから20年の歳月が経過した今、ゴールドマン・サックス社では、『性別の多様性を含むダイバーシティの実現は、企業と経済にとって“選択肢の一つ”ではなく、“急務(の課題)”へと変化している』と述べています」と、国谷氏は語ります。

同氏はまた、ダイバーシティが企業にとって急務の課題であり、成長・発展の原動力でもあることを裏づけるような調査データをいくつか紹介しました。それは、ダイバーシティが企業にもたらすプラスの効果を証明するデータです。

「例えば、2019年5月に国際労働機関(International Labor Organization:ILO)が企業1万3,000社に対して実施した調査によれば、企業の6割が『職場での性別の多様性が業績を改善させた』と答えたといいます。また、世界有数の金融機関クレディ・スイス社も、ダイバーシティがある企業のほうが、ROE(自己資本利益率)が高くて株式のパフォーマンスが良いとしています」(国谷氏)。

女性の社会進出が企業競争力に結び付いていない日本の事情

以上のように、組織における性別のダイバーシティ、あるいは女性の活躍が業績にプラスに作用することはすでにデータで実証されており、世界の企業から見てダイバーシティは経営基盤の強化を図るうえでの“常識”的な施策ともなっています。

それゆえに、多くの企業が先を争うように女性の力の取り込みに力を注ぎ、「男性中心の文化を長く守ってきた伝統的な企業も、女性が活躍できる環境づくりを推し進めています」と国谷氏は語り、その一例として、たばこ産業大手のフィリップモリス社の取り組みを挙げます。「フィリップモリス社では、自己変革による持続可能性の向上を目指し、男性中心の企業文化をガラリと変容させました。かつて存在していた男女間の賃金格差を一掃して、人事評価を男女の区別のない完全成果主義へと移行、幹部への女性の登用も進めています。2017年の時点で同社における管理職の女性比率は34%に達していましたが、その割合を40%にすることを目標として掲げています」(国谷氏)。

このような世界の動きの中で、男女平等の取り組みが遅れ、女性の能力を生かし切れていないのが日本企業であると国谷氏は指摘します。

「日本における女性の就業率だけを見ると70%を超え、米国やEU(欧州連合)の上をいっています。ところが、女性の社会進出が、他国のように企業競争力の向上や経済の活性化にほとんどつながっていないのが日本の現状です。これは、多くの女性が働いてはいるものの、大多数が会社組織の意思決定に関与できていない、あるいは意思決定が下せるポジションにはなく、女性の力が経営に生かされていないことに原因があると見ています」

実際、日本の場合、管理職における女性比率が世界水準を大きく下回っています。この点について、国谷氏も次のようなデータを示します。

「2019年3月にILOが公表したデータによれば、日本の管理職における女性比率は12.0%と主要7カ国(G7)中最下位で、米国(39.2%)やドイツ(29.2%)、さらには世界全体平均(27.1%)からも大きく水を開けられています。また、ILOが1992年に公表した同じ数値を見ると日本は8.4%。つまり、過去27年間で3.6%しか管理職に占める女性比率がアップしていないわけです。これだけダイバーシティや女性活躍の重要性が唱えられてきたにもかかわらず、このような状態にあるのは、とても残念なことです」

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求められるキャリアマネジメントの見直し

ではなぜ、日本の企業では、他国の企業に比べて女性のリーダーが少ないのでしょうか。その理由として国谷氏が挙げた一つは、新入社員の女性に対して、キャリアアップの意欲を喚起する育成がしっかり行われていないこと、つまりは「キャリアマネジメント」に問題があるという点です。

国谷氏は、この問題点を物語るデータとして、独立行政法人国立女性教育会館が実施している、ある調査のデータを紹介しました。同調査は、同じ企業に入社した男女の新入社員が、管理職を目指す意欲をどう変化させるかを、1年ごとに定点観測していくものです

その3年目までの観測結果によれば、入社1年目の時点で「管理職を目指す意欲あり」と答えた男性社員の比率は97%で、女性社員のそれは62%だったいいます。ところが、入社3年目になると、「意欲あり」と答えた男性社員の比率は86.5%と高い水準をキープしているのに対し、女性社員の比率は39.2%と4割以下に減少していたといいます。要するに、男性よりも女性のほうが、入社からわずかの期間でキャリアアップの意欲を失ってしまう比率が高いということです。

「国立女性教育会館では、このような状況が生まれてしまう要因について分析していますが、それに基づくと、新入社員の男性よりも、女性たちのほうが『自分はあまり期待されていない』と感じる場面が多くある点が、キャリアップの意欲を減退させる一因のようです。その背景には、女性たちの上司が、男性社員たちに課すのと同レベルの厳しい任務を与えようとしないことがあります。それが意識的なのか否かは分かりませんが、そうした行動が結果的に『自分は期待されていないのではないか』『自分には能力がないのではないか』という女性社員の不安や不満、あるいは『やりがいの喪失に』つながり、キャリアアップの意欲を削ぐかたちになるのです」(国谷氏)。

国谷氏によれば、入社直後から男女の区別なく同じハードルを課さなければ、女性社員は「自分の学歴や能力が正当に評価されていない」「女性だから、しっかりとした仕事が与えられない」と感じるようになり、仕事における自分の将来を見失うおそれが強いといいます。

「自分の将来を見失えば、管理職になりたいという意欲が減退するのは当然です。ですから、女性のリーダーを増やし、組織の力へと変えたいと考えるならば、入社直後からのキャリアマネジメントのあり方を改めて見直すことが急務と言えます」と、国谷氏は訴えます。

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無意識の“バイアス”を取り払う

もう一つ、女性と男性に対する人事評価・業績評価の不公正さも、女性のキャリアップを妨げる大きな障壁になっていると国谷氏はいいます。

もっとも、女性に対する評価の不公正さは、日本だけに見られる問題ではなく、米国でもそれをどう是正するかが大きな課題になっているようです。というのも、米国では管理職に占める女性比率が高いにもかかわらず、企業役員に占める女性比率は欧州に比べて低いためです。米国では、それを深刻な社会問題ととらえており、問題原因の調査・研究がさまざまに行われていると、国谷氏はいいます。そして、それらの調査が導き出した一つの結論は、女性社員、あるいは女性リーダーに対して、無意識のうちに“女性である”というバイアスがかけられ、不利な評価が下されることが多いというものです。

「例えば、ある調査は、男性は将来性を見て評価されることが多いが、女性は単に、これまでの業績だけを見て評価されること多いとしています。しかも、女性がビジネス上の失敗をすると男性よりも強く批判される傾向があり、かつ、女性リーダーの失敗は組織の中で長く記憶されやすいようです。これらはすべて、女性のことを無意識のうちにバイアスをかけて見ているがゆえの現象と言えます」(国谷氏)。

女性を、このようなバイアスをかけてとらえ、不公正な評価をし続ければ、女性は組織の中で委縮してします。「それではキャリアップに積極的になることはできません」と国谷氏は指摘します。

責任ある投資がダイバーシティへと向かう

G4 memo先にも述べたとおり、女性の能力を取り込むというダイバーシティは、企業組織のパフォーマンスを高め、持続可能性を高める一手であり、それに取り組む企業は、社会的な評価と投資家からの評価を同時に高めることになるといいます。

「例えば、世界最大の機関投資家GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、企業の成長性や持続可能性を測る指標として、企業における女性の活躍ぶりを数値化したデータを採用しています」(国谷氏)。

また、組織における男女平等の推進は、SDGsの5番目の目標である「ジェンダー平等」の達成に向けた取り組みでもあり、その点で、持続可能な社会づくりに貢献する一手でもあります。国際連合では、こうした社会(Society)の課題やガバナンス(Governance)、そして環境問題(Environment)に取り組む企業に優先して投資すべきという「責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)」を打ち出していますが、PRIにはすでにGPIFをはじめとする世界2,000余の機関が署名し、ESG投資が急激に拡大しつつあります。

「これは、持続可能な社会の実現という意志を持った投資が増えることを意味し、そのお金の流れも、男女平等に意欲的に取り組む企業へと向かうことになります」と、国谷氏は説明し、話の最後を以下のようにまとめます。

「ゴールドマン・サックスが言うとおり、今日の企業にとって、女性活躍の場を整えることは、まさに急務であり、これからの成長・発展に不可欠な経営戦略です。ですのですべての日本企業に、女性に対する一切のバイアスを取り除き、男女区別のない公正なキャリアマネジメントと評価を実践しながら、多様なアイデアと意見が自由に飛び交う組織を築いていただきたいと願っています」
<了>