SAP Ariba Live Tokyo 2019/ ブレイクアウトセッション


SAP Ariba Live Tokyo 2019レポート/ ブレイクアウトセッション

今までのデジタル化はどこが間違っていたのか?

2019年7月23日に開催された国内最大級の調達・購買カンファレンス「SAP Ariba Live Tokyo」の「受講者満足度アンケート」で、全22セッション中1位*を獲得した当セッション。調達購買業務プロセスにおけるデジタル化の必要性について対談形式で講演しました。

*アンケート回答から4段階評価(大変満足・満足・普通・不満足)に基づき算出

MrMurata

 

村田 聡一郎:SAPジャパン株式会社

インダストリークラウド事業統括本部

IoT/IR4 ディレクター

書籍『Why Digital Matter? ~“なぜ”デジタルなのか(プレジデント社)』監修者, 中小企業庁 小規模企業政策小委員会 委員(2018年度) 経済産業省 DX見える化指標検討委員会 委員(2018年度)

 

 

MrOta

 

太田 智:SAPジャパン株式会社

バリューアドバイザリーディレクター

外資系消費財、経営コンサルティング会社にて主に調達・購買業務に従事。調達購買や組織・人材開発にについて社内外で多数講演。

 

 

 

 

日本企業の強み「ヒト=社員の現場力」の功罪

村田はIoT、クラウド、インメモリーコンピューティング等を活用した顧客・パートナーとの共同イノベーション事業開発を通して海外事例に多く触れてきました。世界の潮流のなかで日本の競争力がどう変化したか、説明します。

高度成長期~1990年代半ばまで、優秀で勤勉かつ在職期間が長く経験豊富な日本人社員の現場力を最大限に活かす、“ヒトが走る経営”によって、日本企業は世界トップクラスになりました。これは日本のような労働力を持たない欧米アジアの企業には真似のしようもない、“勝利の方程式”でした。

ところが2000年代以降、デジタルの能力が飛躍的に伸びると、ヒトの代わりにソフトウェアに仕事をさせる、つまり“電子を走らせる”ことが可能になり、日本以外の各社がいっせいに飛びつきました。なにしろヒトと違って、電子は疲れない、間違えない、サボらない、ストライキをしない、賃上げを要求しない、そして辞めない。いったんきちんと導入すれば、24時間365日、1年でも10年でも動き続けます」

その結果、図1が示す通り、1990年~2018年の28年間に、欧米6カ国の名目GDPは2~3倍に増えているのに対し日本はわずか1.2倍。とくに2000年以降、主要国は成長を続けているが、日本はほぼ横這いのままです。

図1 主要国の名目GDPの伸び(1990年=1.0とした場合)

資料: SAPジャパン(※講演資料p8より)

資料: SAPジャパン(※講演資料 p8より)

日本の伸び悩みの要因は?「現場力が低下したわけではありません。現場力は昔と変わらず、強い。そして、それこそが問題なのです」と村田は続けます。

「“ヒトが走る経営”であまりに大きな成功を収めてきた日本企業は、ヒトで戦う以外の方法を顧慮すらしませんでした。ヒト×デジタルを活用した経営により競争力を高めてきた欧米企業とも、「ヒトがさらに走る」ことで戦ってきました。社員が有能で勤勉なので、これまではなんとか持ち堪えてきたのです。

だが団塊世代の大量退職や少子高齢化に伴う人手不足の中、ヒトに依存した戦い方は、そろそろ限界に来ているのではないでしょうか?」

「ヒトではなく、電子を走らせろ。電子は疲れない」

日本企業におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)と従来からの「IT化」との違いを、村田は図2に示しました。

『「IT化」が「ヒトが行う前提で最適化されてきた従来からの業務プロセスのところどころにITを投入し、部分的にカイゼンすること」であったのに対し、「DX」は「デジタルが行う、つまり電子を走らせる前提で最適化された業務プロセスへと転換すること」です。この違いは大きい』

図2 デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは何か?

資料:SAPジャパン(※講演資料 p23より)

資料:SAPジャパン(※講演資料 p23より)

IT化は「既存の業務プロセスのカイゼン」でしかないため、部門別にシステムがカスタマイズされていく、「部門最適化」が起こる。この状態を村田はインダストリー2.5と呼称しており、日本企業の多くの業務システムがこの状態だといいます。(図3)

一方、DXは個別ではなく、全体最適を実現するため、従来の業務プロセスを変革し、デジタルの力を利用して企業内外をシームレスにつなぎ、インダストリー3.0を実現します。2000年代にヒトとデジタルが業務を分担して処理し全体最適を実現する仕組みを整えた欧米企業は、インダストリー3.0の状態にあり、彼らはそれをベースにさらに上、つまりインダストリー4.0を目指しているというのです。

「ただし多くの日本企業は2.5の状態でもかろうじて現在のポジションにいる。ここから4.0にカエル跳びすれば、ふたたび世界と戦うことチャンスはある。重要なのは経営者がこの事実を認識し、やり方を変える決断ができるか、だ」と村田は熱いメッセージを送りました。

図3 インダストリー 2.5, 3.0, 4.0

資料: SAPジャパン(※講演資料 p24より)

資料: SAPジャパン(※講演資料 p24より)

インダストリー2.5: 部門別システムを持ち、高度経済成長期の業務プロセスからカイゼンを行っている状態

インダストリー3.0: グローバルでワンインスタンスのシステムを導入し、非競争領域であるシステムは、パッケージを採用し、ヒト依存を排除している状態。

インダストリー4.0: システムが生産的な働き方を支援し、顧客接点やスマート工場など、競争領域とシステムを連動させている状態。

調達・購買をDX化して、何を目指すのか?~守りから攻めの調達・購買への転換~

太田は、消費財業界で国内外の調達活動を手がけた後、コンサルタントとして調達・購買領域や 日本企業の組織・人材開発に関わった経験から日本企業の間接材の調達・購買業務プロセスにおけるDX化について展望しました。

「前半のDX化は全体最適のため、従来のやり方を変えることがカギというお話でしたが、私も調達・購買業務プロセスはデジタル化することで、より本領を発揮できる領域と考えています。端的に言うと調達・購買の役割:“安く買う、安く買わせる、手間を減らす”は、部分最適では機能せず、全体最適で初めて最大限の効果が出る。しかしながら、現在は業務やシステムがバラバラであることや、派生する煩雑業務に忙殺され、この様な全体最適に至っていないのではないか」と太田は問いかけます。

全社統一のシステムを構築することで、まずは購買プロセスにおいて手間を減らすことが重要であると述べたうえで、前半の講演で出た生産性問題に対して調達・購買領域ではどの様に考えるべきか、を説明しました。

「今は、多くの企業の調達担当者は、相見積もりなどの購買依頼から発生した案件の対応に忙殺されています。これらの相見積もりは一般的には戦術的調達と呼ばれています。戦術的調達ではなく戦略的調達はどの様なことをするのか。それは昨年度の実績や事業部の計画を元に購買要求より先手を打って指定業者の選定やカタログ化を促進することです。それにより“安く買う”が達成されます。そこで“決められたものを買わせる仕組みを構築”することで調達担当者が毎回の購買依頼に対応する必要がなくなるとともに、統制を担保できるのです」

最後に、太田は次のように述べています。

「調達購買の領域は今後“守りから攻め”へシフトすべきと思います。現在はヒトの時間配分は図4のとおり、オペレーションにかなり費やされています。この部分をデジタル化し、電子が代替できない部分、つまり戦略的調達の促進と全体最適を促進出来る仕組づくりに特化していくべきであると考えます」

図4 デジタルでもたらす効果

資料: SAPジャパン(※講演資料p35より)

資料: SAPジャパン(※講演資料p35より)

 

対談:購買領域におけるDXとは?

セッションの後半は、太田と村田の対談形式で進められました。

QApanel discussion

――太田:今一度、「従来のIT化」と「DX」化はどう違うのでしょう?

村田:昨年、“統計不正”や自動車業界での“検査不正”が話題になりましたが、この問題はIT化とDXの違いの典型例です。そもそもヒトが昔ながらに紙を使って業務を行っているから、人手が足りなくなり、業務量をこなすために止むに止まれず“不正”が発生していたわけです。事業所統計を紙の調査票で集めるのでなく、デジタルデータとしてアップロードする仕組みにする、のがあるべき解決策ですよね。

もし、お客様がインダストリー2.5から3.0へ変革したいなら、もっともシンプルで、簡単な方法は世の中の標準プラクティスが詰まっているSAPのERPやAribaを使うことです。なぜなら、世界中で非常に多くの会社が使っているSAP ERPはすでに差別化領域ではなく非競争領域であるからです。

――そうはいっても結局、部署が使いやすいように作った方が便利なこともあるのでは?

そもそも会社としての差別化領域ではないのですから、最小限のリソースでやってしまうべきです。ただ個人的には、SAPが言う「ベストプラクティス」ではなく、「コモンプラクティス」だと認識されるべきだと思います。一つのパッケージがすべての会社で100点が取れることはありえません。SAPは90点ソフトウェア、それを入れればどの企業でもどの国においてもただちに90点が取れるソフトウェアです。現場のために作り込まれた110点ソフトウェアは、それが会社としての110点になっているかどうか考えるべきです。

――ヒトの代わりに電子を走らせると、現場力を誇っていた日本は何が強みとなるか?

デジタル導入とは仕組み化ですから、ヒトのカイゼン活動だけを考えれば足かせになりうる。だからこそIT導入に現場からの反発があることが多いのです。でも、海外勢は電子を走らせて攻めてきています。そろばん対Excelでは勝ち目ないですよね?まずは敵が使っている武器を日本も使うべきではないでしょうか。日本の現場力とは、改善するための想像力です。いったんデジタル化したところで、改善するための想像力は失われないし、日本の武器であり続けるはずです。ヒトが素手で戦うのではなく、デジタルという武器を使って、競争をしていきましょう。

――現場の社員にDXという変革を求めることが可能か?

これまでやったことがないことをするのですから、簡単ではないですが、日本の現場力なら乗り越えられます。経営者自身のマインドセットが変わって、会社全体の旗振りをしていけば、現場はすぐに対応できる力があると思います。

――日本企業が現在行っていることは改革なのか?それともカイゼンか?

これまでは、従来からやってきた業務プロセスの改善しかできていないことがほとんどです。高度成長期からカイゼンを50年やって、それで成功したのでそのまま惰性で続けて、もう20年たっています。経営者がさぼっているとまでは言えませんが、世界はもうデジタルなのです。

――今までデジタルというとIT部門主導だったが、今後は誰が対峙していくべきなのか?

全員に関係がある事ですが、まずは経営者が頭を切り替える必要があります。日本企業の社長は現場上がりであることがほとんどなので、現場の声が気になるのが普通だが、経営者が旗を振っていかないと、全社での改革はできません。

最後に太田が下記のようにまとめて本セッションを締めくくりました。

「今後、人は、減る。人が走るだけの経営がうまくいくことはない。現状の延長線上の改善を続けていっても、うまくいくことはない。日本は危うい、このままではゆっくりと沈んでしまうのではないか。仕事をまもるのではなく、会社をどう守るのかの視点が必要で、その答えはデジタルにあるのではないか。しかし、デジタル化、SAPはツールでしかないので、その先にどうしたいのか、どこを目指したいのか、をセットで考えることがDXのカギになると思います」

<了>