ヒロセ電機がSAP C/4HANAで挑むグローバルデジタルマーケティングの変革
作成者:SAP編集部 投稿日:2019年9月2日
スマートフォンやタブレット端末などの普及によって、マーケティングにおける顧客との接点はますます多様化しています。コネクター専業メーカーとしてグローバルビジネスを拡大するヒロセ電機株式会社では、SAP C/4HANAを導入し、デジタルマーケティングによる変革を進めています。7月11日に開催されたSAP NOW Tokyoでは、これまで以上にカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上が求められる企業のニーズに応えるべく、SAPが2018年より提供を開始した第4世代のCRMスイートであるSAP C/4HANAの活用について、同社の執行役員で管理本部 経営企画部長 兼 IT統括部長の鎌形伸氏が、導入時に直面した課題や経験をふまえ講演しました。
BtoBビジネスで実現すべきデジタルマーケティング戦略とは?
1937年に創業し、国内大手のコネクターメーカーとして知られるヒロセ電機。ロボットや医療機器などの産業用機械、スマートフォンやウエアラブルなどのモバイル機器、車載用バッテリー周辺機器やアンテナ機器などの輸送用機器の3分野を中心にコネクター製品を製造し、その製品数は5万点を超えています。売上規模は約1,200億円。アメリカ、ヨーロッパ、アジアの18カ国に、28拠点8工場を展開し、売上比率の約7割が海外というグローバル企業です。
テクノロジーの進化とともに、同社はこの半世紀にわたり右肩上がりの成長を続けてきました。直近の10年間は、グローバルのコネクター市場の規模が1.6倍に成長しているのに対して、ヒロセ電機は成長が鈍っています。市場規模に対してまだ伸びしろがあると判断し、モノづくり力、技術開発力、グローバル対応力・現地力の3つを柱とする中期ビジョン「G-WING」を掲げ、さまざまな業務改革や戦略の見直しに取り組んでいます。
その1つである営業改革では、BtoBで実現すべきデジタルマーケティング戦略の策定に着手しています。「BtoCの世界でよく聞くCXやオムニチャネルなどのキーワードが、BtoBの世界で通用するのかという素朴な疑問がきっかけで、デジタルマーケティング戦略のあり方を詳しく検討することにしました」と鎌形氏は振り返ります。
まず同社では、さまざまな業種の設計担当者400名に対して、「有効な情報源は何か」に関するアンケート調査を実施。そこから重要なのはヒロセ電機の製品を利用したことのある設計担当者を探し出し、彼らとの“つながり”を持続するための統合的な顧客管理基盤が必要であるということが明らかになりました。
Oneプラットフォームで全体最適を実現する
こうしたアンケート結果を受けて、同社は次のステップとして新たなWebサイトを立ち上げてトライアルを実施。WEBサイトへの掲載情報を大幅に増やし、訪問者の反応をウォッチしました。そこからは以下のような考察が得られています。
- 提供情報の改善に対する反応
2016年4月にWebをリニューアルした直後からアクセス数が急増。公開から1年間で約3.8倍になりました。さらに次の打ち手として、個々の会員が求める情報を提供することを目指していくとしています。 - 海外市場への情報提供が必要
アクセスの内訳を見ると、海外の売上比率が約7割であるにもかかわらず、海外からのアクセスは全体の約4割と低く、ここに大きな可能性があることがわかりました。そこで次の打ち手として、7言語によるWebサイトからの情報提供を決定しました。 - 製品情報をダイレクトに探せることが有効
日本語の流入キーワードは「ヒロセ電機」のブランド名が大半であったが、コネクター関連の部品用語のボリュームはわずかでした。英語についてはブランド名が半数ほどに対して、部品用語はさらに小さな割合にすぎません。この結果から、部品関連名は日本語・英語ともに大きな可能性があることが確認できました。 - 統合的な顧客DBと機能間連携が重要
次の施策として、同社はマーケティングオートメーションツールを導入し、顧客へのメール配信を実施しました。Webの閲覧状況を踏まえて、リード情報を営業に提供した結果、想定以上の反響がありました。さらなる仕掛けを実施するためには、Web顧客データベースと営業顧客データベースの連携と統一が課題であることが改めて認識できたといいます。
上記4つの考察から、同社は目指す成長速度を実現するためにはITの活用が不可欠であると判断。IT化によって時間軸の短縮と取り扱いボリュームの指数関数的な成長の2つを目指すことにしました。そのためには、Oneプラットフォームで全体最適を実現し、データベース、製品マスター、各種顧客データの統合管理をすることが必要でした。
Oneプラットフォームの前提条件は、世界18カ国でOneマスター、Oneデータベース、Oneアプリケーションで稼動すること、さらにグローバルでの利用に対して、システム運用/システムメンテナンスは1拠点で集中管理することを要件としました。
この観点から複数のパッケージソリューションを調査した中から選定したのが、フルクラウドに対応したSAP C/4HANA(検討当時はSAP Hybris)です。鎌形氏は「ブランド認知から受注獲得までをOneプラットフォームで実現できるのは、SAP C/4HANAしかないという判断から採用を決定しました」と語ります。
SAP C/4HANAは、大きく5つのクラウドソリューションで構成されています。同社が採用したのはOne to Oneマーケティングを支援する「SAP Marketing Cloud」、デジタルコマースソリューションの「SAP Commerce Cloud」、導入後の顧客体験をサポートする「SAP Service Cloud」の3つで、すべて日本主導で導入しました。
SAP Marketing Cloudは2017年度末に開発・トライアルを開始して、約1カ月で利用を開始。SAP Commerce Cloudは2018年度初頭より要件定義を開始して11カ月後の2018年度末に公開。2018年度の第4四半期にはSAP Marketing Cloudとの連携を実現しました。SAP Service Cloudは2018年度中頃より要件定義に着手して、4カ月で国内1部署とシンガポールの2地域で運用を開始しました。
日本の主導によるグローバル連携のマーケティング施策
SAP Marketing Cloudの導入により、ヒロセ電機ではオンライン/オフラインでの顧客とのコミュニケーションをデジタルデータとして管理できるようになり、多様なアプローチが可能になりました。
SAP Commerce Cloudでは、日、英、中、韓、独、仏、露の7言語対応とスマートフォン対応を実現。パートナー向けサイトとの統合やマーケティングとの機能連動も実装し、訪問者の行動を一元的に把握できるようになっています。
またSAP Service Cloudの導入は、業務の平準化を目指しインサイドセールスのベテランと新人の差を解消し、業務品質の底上げに取り掛かっています。顧客とのやり取りが可視化されたことでベストプラクティスが認識できること、また、蓄積したナレッジをグループ全体で活用していく道筋が見えたといいます。
今後について、鎌形氏は「SAP Marketing CloudとSAP Service Cloudの適用拠点を拡大しながら、各拠点のツールを一本化し、日本主導のマーケティング施策を通じて、デジタル情報を充実させていきます」と話しています。
「英知をつなげる」という不変の理念をもとに、独創性のある製品を送り出してきたヒロセ電機。BtoB企業におけるデジタルマーケティング変革への挑戦からは、真のグローバルブランドへの飛躍を目指す同社の強い決意が伝わってきました。