SAP Select Tokyo – 元JSUG会長が語るSAPの変革は「実践」へ


2019年7月9日(火)に開催されたエグゼクティブ向けイベント「SAP Select」には、今年も多数の経営幹部の方々にご参集いただきました。2015年の第1回から毎年参加されてきた、元ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)会長の都築正行氏に、今回のイベントの印象や評価、今後に向けた課題などについて語っていただきました。

昨年表明された「SAPの覚悟」の現在

SAP Selectへの参加はすでに5回目という都築氏。今回の関心は、昨年の同イベントでSAPジャパンが宣言した「SAPの覚悟」がどう進化したか。またその結果、何が起こりつつあるかにあったと語ります。

2018年のSAP Selectでは、SAPがどう変わったかを打ち出していました。ERP以外の売上の急増=SoR(System of Record)をSoE(System of Engagement)が売上で上回る=という状況を踏まえて、「SAPはお客様のあらゆる課題を包括的に解決するパートナー」(=SP)であり続けるという「覚悟」を表明した、大きな節目でもあったといえます。

都築氏はその取り組みが、2019年1月のQualtrics社の買収にも表れていると指摘。エクスペリエンスマネジメント(XM)ソフトウェアのパイオニアを傘下に収めたことで、SAPが提唱する「X(経験)データとO(業務)データの組み合わせがもたらす革新の可能性」をユーザーに対し、より具体的なビジネスモデルやソリューションとして提供できる足がかりを築いたと語ります。

★IMG_2267_re続いて、SAPジャパン社長福田譲の「世界をよりよくすることが私たち全員のビジネスであり、同じ志を持つさまざまな会社とともにビジネスを推進していく」という発言に触れ、その「実践」の一つとしての「SAP RELAY研修プログラム」を挙げました。日本の次世代のイノベーションリーダーをシリコンバレーで様々な国のリーダーと一緒に研修を受けて貰うものですが、この1年で3回実施。この11月に4回目が予定されています。また、東京・大手町の「Inspired. Lab」での活動や「SAP Leonardo Experience Center Tokyo」の開設もその一環だといいます。Inspired.Labを拠点に、既に200社以上の企業が変革を志してオープンイノベーションを実践中です。SAP Leonardo Experience Center Tokyoは、企業のデジタル変革を支援するイノベーション拠点で、SAP Leonardoが持つIoTやマシンラーニング、ビッグデータ活用やクラウドなどの最新ソリューションを体験できます。また、デザインシンキングの専門家が多数在籍しユーザーの教育にもあたることでアイデアの創出が加速されます。

こうした最近の取り組みを通じても、SAPが「SP」として日本企業の変革を、ともに実践しようとしている力強い動きを感じると都築氏は語ります。

富士フイルムCEOが示した、経営層のデータ活用への意識

SAP Selectに登場した多彩なゲストの中で都築氏が強い印象を受けたのが、キーノートセッションの富士フイルムホールディングス株式会社 代表取締役会長・CEO 古森重隆氏のご講演でした。古森氏は写真のデジタル化によってフィルムの需要が急速に減少する事業リスクを早くから認識し、率先して事業改革を推進。現在のイメージング技術を軸とした、6つの重点事業分野への転換を成功させました。

海外の状況も踏まえて古森氏がこのリスクを認識したのは、デジタル化が本格的に始まる前です。社長に変革を直訴したものの、まだ写真フィルムが伸びている時期だったため、新規ビジネスへの転換は実現しませんでした。しかし2000年に社長に就任してからは、写真フィルムで培った技術を活用して事業モデルの転換を進め、2004年には写真フィルムから事実上の撤退を果たしたのです。

ここから学ぶことは、経営者は現在と将来の両方を考え、どちらかではなくいずれの価値をも創り出す使命を担っているということです。市場の先を読み、変化を予測して先手を打ち、みずから変化を作り出して、それを独自の優れた技術で価値に変えてゆく。それを成し遂げた古森氏の強い意志とスピード感、ダイナミズムに有事の経営者のあるべき姿を見たといいます。

さらに都築氏は、もっとも感銘を受けた言葉として、「Small Data, Wise Decision~ビッグデータは必要ない。GAFAに押さえられたと騒ぐことはない」を挙げます。昨今はデータ活用やデータドリブン経営などが注目されていますが、データの収集や膨大なデータの分析に時間を要して、決断が遅れるのでは逆効果です。もちろんスモールデータといっても、少なければ良いということでもありません。有益で本質的なデータだけを見分けることが、より確実な経営判断を可能にするという意味だと捉えています。

メルカリに学ぶ日本企業の停滞脱却とDX実現へのアプローチ

さらに都築氏は印象に残ったプログラムとして、前述したQualtricsのエクスペリエンスマネジメント(XM)について説明した「SAPエグゼクティブスピーチ」を挙げます。SAPのクラウドビジネス部門のトップであるジェニファー・モーガンを進行役に、Qualtrics CEO兼共同創業者のライアン・スミス氏、QualtricsユーザーであるメルカリジャパンCEO 田面木宏尚氏を迎えてセッションが行われました。

田面木氏はもともとカスタマーサービス部門出身で、顧客の利便性をもっとも大切に考えています。ユニークなのは、その「顧客」の中にエンドユーザーと接するヘルプデスクなども含めたすべての社員を含めている点です。具体的には、いわゆる「お客様」と社員のエクスペリエンスを同じ次元で捉え、それらを総合的に分析することで次の事業戦略に活かしていくというのがメルカリの経営であり、その実現にQualtricsのソリューションも活用しています。

ここで都築氏は、なぜ日本ではドラスティックなデジタルトランスフォーメーション(DX)導入の試みが欧米に比べて進んでいないかということを考えたといいます。その理由の一つは、日本企業には『カイゼン』のような、社員一人ひとりが工夫していく風土にあるのではと指摘します。もちろんこれには良さもあります。一方で欧米企業のようにトップの経営戦略のもとで組織全体が一気にDXを進めていくスピード感を持たなくては、いつまでも周回遅れから脱することができない恐れがあり、現場を理解しているトップがリードするメルカリはそれに挑戦しつつある貴重な事例の一つだと評価します。

発展するユーザー会とも本気の議論を

最後に都築氏は、2019年7月19日(金)に開催された「JSUG Focus 2019」にも触れます。このイベントは、すべてのJSUG会員を対象に、各会員企業の日頃の取り組みや、そこから得られた知見や情報を交換する場となっています。

JSUG2代目会長を務めた都築氏は、ユーザー会ができた当初は参加企業も限られ、ずっと数も少なかったものが、多くの方々の尽力によって現在の規模にまで拡大してきたと実感。組織の飛躍的な成長を喜びながら、この組織力をもとに、課題に大胆に向かっていくと示唆します。

★IMG_2274_re「SAPが提供する様々なソリューションに加え、SAP RELAY研修プログラムやInspired.Lab、SAP Leonardo Experience Center Tokyoなども積極的に活用してDXの推進を加速して周回遅れを一気に克服願いたいが、一方で所謂2025年の崖問題も大きな懸案事項となっています。このような課題にSAPユーザー企業とSAPが一丸となって向かって欲しい。即ち、お互いの知見を持ち寄り、企業の壁を取り除いて本気で議論して解決策のヒントを得るというJSUGの原点に立ち返って欲しい」と都築氏は語り、ユーザー、SAPが本気で議論して成長する取り組みと発展に大きな期待を示しました。