itelligence社の取り組みより — 社会課題の解決に向けたテクノロジーの活用


社会課題の解決に必要なパッションとアイディア

私は最近、日本の通信企業様やITサービス企業様の経営計画を拝見させていただくことが多いのですが、多くの会社様が「社会課題の解決」を会社の経営理念やミッションに掲げていることにあらためて気づきました。しかしそもそも営利企業であれNPOであれ、政府でさえも存在する理由が何らかの課題解決であり、「社会課題」を解決するのはどんな組織であれ当然のことかもしれません。ちなみに弊社のコーポレートビジョンも”Help the world run better, and improve people’s lives.”です。

モノが不足していた昭和の頃の経営理念としては「水道哲学」や「豊かな社会」などが重要な社会課題であり、企業のミッションとして重要だったと思われますが、飽食の時代を通り越した令和にあっては、個々の企業が突っ込んだ課題を指し示して普遍的な経営理念の元に具現化するのはなかなか難しいのかもしれませんが、いずれの企業様においても、表層的に「社会課題」を扱うに留まらず、課題の本質に狙いを定めて具体的に解決を図って行くべきだと思います。

ところでその社会課題の解決には何が必要でしょうか。ひとつのヒントとして先日私の同僚である大滝明彦が書いたブログをご紹介します。

海から食卓へ – Bumble Bee社:ブロックチェーン活用で「食のトレーサビリティ」を実現

Bumble Bee社の経営層が、世界をよくするという強い信念 — パッション — を持ち、ブロックチェーンという新しい技術を活用する柔軟な発想 — アイディア — があったからこそ、この成果が実現したのだと考えています。

ドイツにおける侵略的外来種被害

現代は人が行き来することで作為的・不作為的にさまざまな生物が本来と異なる地域に展開することがあります。昨今の経済のグローバル化によってさらにそれが加速化しています。そして、外来種の一部が侵略的外来種となって被害をもたらすことがあります。

この被害には、現地固有種を駆逐してしまうような「生態系への影響」、毒や病気によって住民への生活を脅かす「人への影響」、そして経済的なダメージを与える「農林水産業への被害」があります(詳しくは東京都ホームページ「外来生物が及ぼす被害」をご参照ください)。

Giant Hogweed

今回ご紹介するのは、SAP本社のあるドイツの野原で猛威を振るう、ジャイアントホグウィード(和名:バイカルハナウド)という外来生物です。古くは19世紀に観賞用として中央アジアから輸入された外来種で、右の写真のような存在感のある花を咲かせるのですが、樹液に毒性があります。そしてドイツ、フランス、イギリスなど全ヨーロッパに広まって大きな問題を生じています。

ウィキペディアではこんな紹介をされています。

ジャイアント・ホグウィードの樹液には光毒性の物質が含まれており、樹液が皮膚に付着したまま太陽光か紫外線を浴びると、深刻な植物性光線皮膚炎を引き起こす。まず、皮膚が赤く腫れ上がり、痒みを引き起こす。そして48時間以内に水疱を生じさせる。それらは最後には、黒から紫色の傷として数年間もの間、肌に残り続ける。そのため、入院が必要とされている 。更に、僅かな量でも眼に樹液が入ってしまうと、一時的、もしくは恒久的な失明の原因となる。

罹患した患者の方々の写真を載せることは差し控えようと心から思うほど非常に怖い植物です。そしてこの植物は、外来種としてドイツのあらゆる野原、耕作地、あるいは都市の公園などに繁殖しつつあります。

世界で起こる侵略的外来種被害を食い止めるために、国際自然保護連合(IUCN)が2000年にガイドラインを作り、それに呼応するように世界各国の行政が法律・条例・ガイドラインをなどを定めて対応を始めました。日本も対応が早く、2004年には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が制定され、環境省が国の出入口である空港や港での対策、輸出入の監視などを始めました。昨今では2015年の環境省「外来種被害防止行動計画」により、入れない・捨てない・拡げないの外来種被害三原則が広まってきています。ヒアリへの対応など、ニュースで知られるところとなり、ご存知の方も多いと思います。

入れない・捨てないという人の所作に基づく部分への対応は、行政が進んで行っているところであります。しかし、生物本来の機能である拡大を防ぐ拡げないという対応は大変です。野山に自然と拡がった動植物を見つけて駆除し、個体数の調整をしていかなければなりません。

ドイツ政府および自治体にとって、ジャイアントホグウィード駆除のための個体の発見は、到底手に負えることではなかったようです。

NTTグループitelligence: 社会課題解決に向けた挑戦

この植物の駆除にNTTデータグループのドイツ子会社itelligence社が乗り出しました。itelligenceは1989年設立のドイツのSAPコンサルティング会社です。EU圏内の中堅企業向けのERP導入などで実績のある会社で、2005年から始まったNTTデータの戦略的海外展開で2006年にNTTデータグループに参加し、現在では100%子会社になっています。収益1,000億円(930M€)、EBITA40億円(31M€)、従業員7,900人で、ERPインテグレーションから事業を広げ、IoTAnalyticsなど様々な分野に進出しているところです。

野原、耕作地などに散らばって繁殖するジャイアントホグウィードを見つけるためにitelligenceが求めたパートナーは、親会社NTTデータのある日本のProDrone社でした。携帯電話の電波も通じていない山林などで、特定の植物を探して回るには自立的に飛行し、広い範囲を探索できる業務用のドローンが必要でした。このドローンによってドイツの広大な野原を5メートル四方に切り分け、15フィートの高さからドローンによって草木の様子を撮影します。

Drone Image

この画像情報をSAP HANAとHadoopなどによって構築されたitelligenceの画像解析環境に取り込み、ジャイアントホグウィードの枝葉などの画像と付き合わせて発見するアルゴリズムの開発を行いました。

Itelligence-Architecture

しかし、元々野趣豊かな山野から特定の植物を見つけるのは人間でも至難の業です。このAIプロジェクトも一筋縄ではいかない技術開発となりました。結果的に下記の様なステップを踏んでアルゴリズムの精度を高めてゆきました。

  1. イメージの取得
  2. マニュアルでラベリング
  3. 機械学習
  4. モデルのバリデーション
  5. 準備
  6. 分類
  7. 分析
  8. 可視化

これにより、itelligenceは14,000平方キロメートルという広大な野原から、現存するジャイアントホグウィードの幼木に至るまでの個体を発見することができるようになりました。この功績でitelligenceは2019年のSAP Innovation Awardを受賞しています。詳しい情報はこちらをご覧ください

継続的な社会貢献に向けて必要なこと

冒頭で社会課題の解決にはアイディアとパッションが必要だと論じました。itelligenceは見事に最初のハードルを乗り越え、ドイツ国内での有害植物駆除への第一歩を築きました。ただしこれから実際に全欧、全世界へとこの取り組みを展開していくためには、もしかしたらitelligenceの1社に留まらないステークホルダーが乗り越えなければならない高いハードルがあります。

誰もが望む社会課題の解決とはいえ、実際に行う、つまり事業化するには、その事業を継続的に運営するための原資の確保、つまりマネタイズスキームの構築と定着化が不可欠です。

それを実現した例として私の同僚である古澤昌宏が昨年紹介した素晴らしい取り組みがあります。

自らの目的・使命を考え仕事に取り組む喜び

経営者を突き動かすことで単なるCSRにとどまらない活動を世界中に展開し運営している事例で、今夏弊社のイベントで実際にワークショップを行った際には多くのご参加いただいた企業の経営層の皆様からご好評いただきました。

また、itelligenceと同じくドローンをもちいて社会課題を解決した事例も、過去に、こちらも私の同僚である横山浩実が紹介しています。

もうひとつの「ERP」 - ドローン・データ・IoTを使った野生動物の保護

このように本質的で難しい局面での社会課題の解決こそ、テクノロジーの活用だけにとどまらないマネタイズまで含めたアイディアと、それを強力に事業として進めていくパッションが必要でしょう。広範な分野におけるさまざまな経験をもった人々が集まっているダイバーシティのある環境が威力を発揮するところです。僭越ですが終身雇用の社員が中心の日本の大企業の中だけでは、対象を国内だけに留めず、大きなビジョンをもって、課題の本質を突いて普遍的な解決方法を見つけて具現化するのはなかなか難しいのかもしれません。最近さまざまなコラボレーションやパートナリングの企画を目にしますが、同様の理由に基づいた取り組みだと考えます。

上記で引用したブログでおわかりのように、私が所属する部署はさまざまなバックグランドを元にグローバルとのネットワークを持つ業界スペシャリストの集団です。日々新しいアイディアやスキームについてエキサイティングな議論が繰り広げられています。日本企業のお客様にとっての新しい視座をご提供できるかもしれません。ぜひお気軽にご相談ください。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、itelligence社のレビューを受けたものではありません。