デジタルコアの確立によるスマートシティの実現ーデジタル化ランキング最下層からの脱却ストーリー


複雑化するITの課題を抱え、DX(デジタルトランスフォーメーション)により業務そのものを改革し利用者により良いサービスを提供することを目指すのは、大企業だけではありません。本ブログでは、2014年のデジタル電子政府(州)ランキングで評価がC+、下位25%だったイリノイ州が、その後の4年間でどのようにデジタルコアを確立し急速にDXを進め、2018年のデジタル電子政府(州)ランキングでは評価がB+、上位25%にまで登りあがったのか、その脱却ストーリーを紹介します。

背景・経緯

イリノイ州では、1970年代に開発されたシステムをベースとして動かしており、40以上の部署・組織がそれぞれのやり方で機能拡張をし続けていました。その結果、それぞれに対しては様々な先進的な技術等を活用してきたにもかかわらず、分断化・サイロ化は進む一方で、結果、機能の複雑化による保守性の低下、セキュリティレベルの低下、重複投資によるコスト増、個別バラバラの実装による利便性悪化など、複雑なITシステムに振り回される状況に陥っていました。

このような課題感より、2015年末、Bruce Rauner知事の指揮の下、イリノイ州当局は、同州のITパフォーマンスを向上させるための4年間の計画 「Illinois Smarter State」 を発表し、イリノイ州が最も先進的なデジタル政府(州)になることを宣言しました。

イリノイ州のデジタル戦略

イリノイ州のDXの実現に向けビジョン、計画、実行のロードマップを策定する。その上で先進的な技術に投資を行い、革新的な新たな業務プロセス、サービス、製品を生み出す

これは、イリノイ州を21世紀型組織へと変革するための組織横断的な取り組みです。4年以内にレガシーテクノロジーからグローバルリーダーシップへと飛躍させることを狙っています。私たちは市民により多くの価値を提供したいのです。
Illinois Smarter State プログラムディレクター Kevin O’Toole

 行政改革に対するERPの意義

イリノイ州は行政変革を3つのアプローチで進めました。職員の改革、プロセスの改革、テクノロジーの改革です。そして、テクノロジー改革においては、中央集権サービスを可能とするためのヒトモノカネの統合プラットフォーム、すなわちERPの活用を軸に進めました。その際に、基盤としてはクラウドソリューションを適用することにしました。

クラウドソリューションはスケーラブルなアーキテクチャであるため、コスト効率が高いだけでなく、迅速にシステム構築を行うことができます。イリノイ州は、この特徴を生かし、非効率なレガシーシステムを廃棄し、抜本的に運用モデルとビジネスモデルを刷新することができました。この刷新により、イリノイ州の市民や行政職員は、透明性の高いデータを取得できるようになり、より効果的、効率的な行政運営・サービスを通じ、州内のすべての人々に継続的な価値をもたらすことができるようになったのです。

Illinois Smarter State プログラムディレクター Kevin O’Toole

なお、このERPの導入は、喫緊の課題から優先的に対応できるようにするために3段階で導入しています。

第1段階:コスト管理~財務・調達及び補助金管理
ー 州財務の透明性の担保
ー 監査結果の事前予測
ー 補助金管理・調達管理の高度化による収益増強

第2段階:政策立案支援
ー 政策立案に資するデータ分析
ー 自動化促進による価値最大化及び効率化

第3段階:人事管理
ー 州政府職員の正確な配員可視化
ー 人事標準処理プロセスの自動化・連携化

更にイリノイ州は、行政サービスの高度化に向けて、先進技術の適用によりDXを進めるパイロット事業も行っています。

  • RPAによる自動化ーSAPシステム導入時のデータロード(テスト・本番)の自動化、入金消込の自動判定
  • モバイルアクセス―市民向けインタフェース、職員向けビジネスプロセス管理、支払処理、データ分析

成果(例)

  • 道路に設置したセンサー情報、保守トラックで撮影した画像情報を活用した効率的な高速道路の保全
  • 市民とのモバイル端末によるコミュニケーションの増大(利用者は3%→30%に、市民情報を使って市民サービスを提供する機関は23に)

illinoi

画像をクリックすると動画に飛びます(3分23秒)

グランドデザイン推進に向けて

行政におけるクラウドベースのヒトモノカネの改革、まさにイリノイ州がわずか4年で変革した課題です。世界でも名だたる電子国家であるエストニアにおいては、リアルタイムの予算執行状況の把握及びそれに基づく施策の見直しの迅速化のために、ERPの拡張を行っています。このように、公共業界においても、民間セクター同様、ERPを通じたヒトモノカネの一元管理・リアルタイム可視化は、よりよい行政運営のための必須手段となってきています。

現在わが国では、内閣官房IT総合戦略室では、経済社会や技術の進展を念頭に置きつつ、中長期的に実現すべき行政サービス像とそれを支える政府情報システムの将来的なあり方をグランドデザインとして明確化する取り組みを進めています。

2019年9月12日に開かれた第8回新戦略推進専門調査会デジタル・ガバメント分科会で、グランドデザインの骨子案が公開されましたが、その中では、新たなる行政サービスのエコシステムとして、「生活に溶け込んだ行政サービス」、「変化に対して柔軟な行政サービス」、「信頼される行政サービス」が提唱され、「データファースト」「デジタル時代の官民の新しい関係」「政府情報システムの設計手法の転換」「政府自身のDX」を進めること、そのためにクラウドの活用やデータの標準化及び品質の確保、既存システムのITモダナイゼーションを優先的に取り組む予定としています。

このように我が国においても、政府システムのモダナイゼーションは待ったなしな状況です。すなわち、グローバル標準の先進技術を活かしてデジタルインフラ/データコアをしっかり作り上げることで、職員が「きめ細やかな情報を扱った国民志向のサービス」に注力できる環境にDXすることが強く求められていると言えるでしょう。

既に他国政府の取組を参考にしながら進めている「グランドデザイン」ですが、SAPも先日立ち上げたSIDGなどを通じて、実績ある政府システムのモダナイゼーション手法の適用のご支援を図る所存です。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、イリノイ州のレビューを受けたものではありません。

■参考文献
https://news.sap.com/2018/07/smarter-state-illinois-makes-government-work-with-sap/
https://events.sap.com/sapandasug/en/session/37435