エクスペリエンスエコノミーにおける小売業の最高の体験の提供
作成者:熊谷 安希子 投稿日:2019年10月24日
小売にエクスペリエンスを組み込む価値とは?
小売業にとって、商品やサービス自体の金銭的価値ではなく、あらゆるタッチポイントでの購入やインタラクションとその体験を通じて、消費者にポジティブな感覚・体験をいかに提供できるかが、競合との差別化施策として考えられるようになりました。SNSやブログなどソーシャルメディアを通じて、消費者個人が情報を発信したり、いいね!を押したり、一瞬で多くの人に拡散され、企業と直接コミュニケーションを取ることも簡単になりました。
このような時代において、情報発信力のある顧客をFanに、商品へのこだわり、従業員をアンバサダーに、ブランドをアイコン化することで、商品の売上アップはもちろん、顧客ロイヤリティやブランド価値を高めることにもつながります。顧客が商品を評価し、商品を1つ購入するということは、実際にはそれ以上の価値を企業にもたらす可能性があるのです。
しかし、注目とは裏腹に企業と顧客とでエクスペリエンスに対する認識には大きなギャップがあると指摘されています。
「企業の80%が優れたカスタマーエクスペリエンスを顧客に提供している、と考えている一方で、顧客の8%しか優れたカスタマー・エクスペリエンスを体験できていない」
ハーバード・ビジネス・スクール James Allen *1
アメリカの消費者の52%は、不満な体験をすると昨年銀行や小売、TVプロバイダーなどを変え*2、 不満を持つ95%の人はそのひどい体験を人に話し、45%はソーシャルメディアにそれを投稿する *3 というのですからスピードのみならずとその影響力は計り知れません。
このギャップを解消するためには、何が起こったかという多くのオペレーショナルデータ(以下Oデータ)だけではなく、なぜそれが起こったのかというエクスペリエンスデータ(以下Xデータ)を分析する必要があります。Oデータは買い物客、購入金額、返品の数など – ”何”を教えてくれますが、根本原因を突き止めるためには、通常複雑な手作業で膨大な時間や労力を要します。
新商品の売上や収益は、Oデータとしてリアルタイムに取れるかもしれません。しかし売上が予測を下回ったり、店舗面積あたりの利益が低かったり、返品率が高いと、その原因まではわかりません。Xデータがあれば、顧客の商品の利用や消費に関連した感情をより理解するための消費者のフィードバックを得ることができます。商品の品質がひどかったのか、価格が高かったのか、欲しい色が売り切れていたのか、チェックアウトまでが煩雑だとか、従業員の知識不足、配送までに時間がかかるなど原因が価格なのか、あるいは品質なのか、それとも別の理由なのかを見定めることができるようになります。顧客の感情(Xデータ)を商品の返品の理由に結び付け、パターンを検出することで、問題点の改善をすることができるようになるのです。
顧客が商品やサービスについてどのように感じているかをより迅速に評価して対処することにより、サプライチェーン、従業員、商品管理プロセスをより適切に管理できます。Xデータを利用すると、商品検索、購入、所有、返品など、あらゆるタッチポイントで顧客が期待するエクスペリエンスを予測して提供できます。
チャネルやタッチポイントで個別にXデータを持つだけでは、競争上の優位性はなくなります。 差別化には、End to EndでのXデータとOデータを融合する必要があります。
X-data + O-data がもたらす革新
では、Qualtricsを使用して顧客を理解しビジネス革新をしている例を見てみましょう。
1つ目は、ニューヨーク市マンハッタンの5番街 (Fifth Avenue) にある、おしゃれミドルクラスの最も有名なデパートの一つサックス・フィフス・アベニュー:カスタマーエクスペリエンスの向上
サックス・フィフス・アベニューは、店舗での接客と同様に、デジタルでの顧客エンゲージメントを改善するため、VIP顧客からデータを収集し、さまざまな顧客のロイヤルティレベルと特別な価値のある顧客ライフサイクルプログラムを開発しました。
X+Oを組み合わせることで、知識豊富な販売員が、チャット、電子メール、ソーシャルコマース、予約スケジュール、さらにはカスタマイズ可能なsaks.comブティックページを介して、新しい顧客や既存の顧客と1対1でつながります。厳選された人気の品揃、 VIPの顧客から得たインサイト、過去履歴や好みを組み合わせることで、Saksはパーソナライズされた顧客ライフサイクルプログラムを提供し続けています。そして、どのカスタマージャーニーにいても顧客の期待を上回ることができるように、リアルタイムの顧客フィードバックをもらっています。 *3
手作業や時間をかけて様々なシステムやデータから行っていた分析がQualtricsのリサーチコアソリューションを利用することで、オムニチャネルでの顧客エンゲージメントを向上させています。そしてそれ以外にも下記のような効果を出しています。
バラバラのXデータを統合し、X+O データ収集の速度を 75% 向上
外部委託費用の大幅削減
企業レベルでX+Oデータの一元化
2つ目は、アメリカのコンプレッションウェアの製造販売を行うスポーツ用品メーカー:アンダーアーマー:プロダクト・ブランドエクスペリエンスの向上
アンダーアーマーは、Qualtricsのリサーチコアソリューションによって、1万人以上のアスリートのウェアテスターを活用し、特定のスポーツと様々な利用条件(天気や選択、週毎の記録)でデータベース化し、そこから詳細かつ固有のフィードバックをもらいます。そして適切なデータを使いチームを強化しているのです。これにより優れたプロダクトエクスペリエンスを促進させています。
”運動選手は、アンダーアーマの製品にとって、究極の批評家でありチャンピオンです。– だから製品開発プロセスにおいてアスリートと繋がり続けることが重要です。”
クレイ ディーン, チーフイノベーションオフィサー
製品の魅力や好感度、関連性、価格、メッセージング、配送に関するフィードバックや、最も気に入った機能、気に入らない機能というような市場調査、プロジェクトチームからのフィードバックのようなXデータと、製品デザイン、原価、R&Dプロジェクトデータとコスト、マーケティングプラン、予算などのようなOデータを掛け合わせ、戦略から立ち上げ、トラッキングに至る開発プロセスのあらゆるステップに、お客様の声を入れることができ、マージンを最大化しながらも、アスリートの好みに合わせ、開発中に短期に研究をすることができるようになりました。新製品の市場投入までのリードタイムを短縮し新製品の収益と利益率を高めることができるのです。またその他下記のような結果も出ています。
すべての製品のインサイトを1つのDBで管理
1年以内に2000以上もの製品の評価が行われる
ウエアテスターのデータベースは10倍以上
エクスペリエンスエコノミーで最高の体験を提供するために
今まで企業は、POSデータ(Oデータ)を分析し、どの店舗も同じ品揃えで、需要予測の精度をあげ、計画精度をあげることに時間を費やし改善策をとってきました。さらに顧客のXデータを取り込み分析し改善策を取ることのほうが、なぜそうなったか?という理由がわかり改善効果も高いように思います。
チャネルやタッチポイントで閉じた”自己満足のためのアンケート”で終わらせず、コマース、実店舗、サービスなどの顧客とのあらゆるタッチポイントにおいてエクスペリエンスデータを統合的に取り込み、エンドトゥエンドのプロセスで対応するというのがポイントになるでしょう。下記は、小売プロセスにおけるTOP10のカスタマーエクスペリエンスのドライバです。
マーケティングや店舗、デジタルでのタッチポイントだけでなく、お客様の好みの品揃えやプロモーション、価格設定、在庫配分の観点でもXデータとOデータのユニークな組み合わせにより大きなメリットを得ることができます。
スマホ保有率が進み、店舗のデジタル化もされはじめ、今まで取れなかった消費者の声も容易に取ることができるようになった今、店舗やコマースで何が起こっているのか? (Oデータ)という情報さえも、リアルタイムではなく手間をかけて入手できるのがやっとという状態では、いつまでも人がおもてなしのフォローし続けざるを得なくなるでしょう。
「顧客中心主義」はどの業界でも大前提であり、多くの消費者に接する小売業では特に大きなテーマです。また、小売業は私自身が個人としては顧客といえます。デジタル技術を活用して「私」の声を聞いてくれた企業とのエクスペリエンスを、「私」は決して忘れないと思います。
今回のブログに関心を持っていただけたのであれば、是非上のいいね!ボタンを押していただきリツィート、コメントを頂ければ幸いです。エクスペリエンスのお話だけあって、アクセスされたPV数(Oデータ)だけでは、皆様の関心があったのか、なかったのか、内容がわかりづらかったのかわからないまま、私は次もエクスペリエンスのブログを書いてしまうかもしれませんから。(笑)
※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、サックス・フィフス・アベニュー、アンダーアーマーのレビューを受けたものではありません。
*1 https://medium.com/@CMcVoy/80-of-ceos-believe-they-deliver-superior-customer-experience-661efabd16b0
*2 https://newsroom.accenture.com/news/us-companies-losing-customers-as-consumers-demand-more-human-interaction-accenture-strategy-study-finds.htm
*3 Saks Fashions Omnichannel Associates
https://risnews.com/saks-fashions-omnichannel-associates#close-olyticsmodal