フォルクスワーゲンとポルシェ:顧客中心主義とエクスペリエンスマネジメントの実践

作成者:山﨑 秀一 投稿日:2019年10月24日

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V Logoいまや自動車産業は、100年に一度と言われている大変革期に直面し、所有から使用・利用が加速している逆風にさらされています。そんな中、2018年度に両社はそれぞれ自社の持つ世界販売台数の記録を更新しました。一般大衆向けモビリティで人気のあるフォルクスワーゲンは624万台。フォルクスワーゲングループの中で、富裕層向けスポーツカーを提供するポルシェは25万台を達成しました。両社の販売が好調な理由はどこにあるのか、それぞれ多彩な取り組みを行っている中で、今回はエクスペリエンスマネジメントに焦点を当ててご紹介します。

 

顧客中心主義

自動車メーカーは、ターゲットセグメントに対して、走る・曲がる・止まる、の基本3要素の高度化・自動化、車内空間の快適さ・心地よさ、車外のパートナー企業と連携による利便性の向上したクルマを提供し続けています。商品企画からニューモデル投入の早期化やモデルチェンジ・機能改善サイクルの多頻度化にも積極的に取り組んでいます。

最近では、メガトレンドを背景に、クルマは単なるモノではなく、顧客の求める価値につながるサービスが提供されはじめています。

フォルクスワーゲンとポルシェは、経営戦略の重要テーマとして顧客中心主義を掲げ、顧客の視点で問題・課題を捉え、その解決策となる価値をお届けするモビリティサービスの企画・開発・生産・販売・アフターサービスを実践しています。

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エクスペリエンスマネジメント

自動車メーカーは、月締処理後に、月別、グローバル・地域別・国別・販路別・得意先別、車種別、売上高・台数、目標達成率を基幹業務システムのレポートで把握しています。

フォルクスワーゲンとポルシェは、販売実績の結果だけでなく、何故そのような結果が導き出されたのかを把握できるデジタル情報活用をしています。顧客・見込み客の体験・生声をリアルタイムにデータとして把握して、原因分析や社内外の関係各位のアクションに連携する業務を実践しています。新規購入や乗り換え検討中の人がディーラーに来店すると当日または翌日にはオンラインアンケートが実行されて、来店客が体験した情報がきめ細かく収集されます。

 先日私はポルシェジャパン主催のフェアに参加しました。翌日、私のメールアドレスにオンラインアンケートが送信されてきました。そこには以下のような質問事項がありました。回答方法は、単一または複数の選択肢、順位付番式、度数、テキスト記述形式などが使い分けられていました。

  • アンケートへの同意
  • ポルシェとの関わり
  • 主に利用しているクルマのメーカー・車種
  • フェアの認知度、知った経緯・メディア、参加の決め手
  • ノベルティの認知度
  • 試乗有無・試乗した車種
  • フェアの満足度、開催内容ごとの満足度
  • 来場によるポルシェに対する印象の変化
  • 次のイベントの認知度
  • そのイベントへの印象
  • ノベルティへの印象
  • フェアで扱って欲しいこと
  • 取り扱って欲しいノベルティ
  • 知人友人への推奨度とその理由
  • 職業、性別、年齢、都道府県

ポルシェが実践しているエクスペリエンスマネジメントの重要なアクションのひとつがこのオンラインアンケートです。すべての顧客・見込み客とのタッチポイントで発生する体験を、極力正確に、継続的に、適切な情報として収集し、顧客が求める価値の仮説・検証・評価・検討・アクションが実行されています。

ポルシェではこのオンラインアンケートを世界中の顧客・見込み客に向けてそれぞれの言語で実施しています。おそらくその回答には世界共通の顧客の要望だけでなく各国市場の成熟度の違いや顧客の文化的背景が色濃く現れたものも含まれていることでしょう。それらをまず瞬時にまとめて俯瞰し分析するしくみが動いていることも容易に想像できます。そして得られたインサイトを次のアクションにつなげていくことも。ポルシェの顧客対応に今後どんな変化が起きるのか、ひとりの自動車ファンとしてもSAPジャパン自動車業界担当者としても非常に楽しみです。

フォルクスワーゲンでは、来店客と直接のコミュニケーションを持つ営業やメカニックの働き方改革を促進する従業員に対するエクスペリエンスマネジメントを実践しています。 オーストラリアのディーラー網での取り組みにおいては、現場社員のやる気、モチベーションがあがり、生産性向上と顧客サービスが改善し、過去15年間で最高の成績を残しました。あるディーラーではNPS(ネットプロモーションスコア)が20ポイント向上しました。

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キーアクション

日本国内の新車(乗用車)市場では、少子高齢化、若者のクルマ離れ、所有から使用・利用へシフトなどから市場規模が小さくなりつつあります。成長のピークを過ぎた日本市場で、2018年度、フォルクスワーゲンは2年連続販売台数を伸ばし、ポルシェは9年連続増を達成しました。ドイツの自動車メーカーが、日本市場のターゲットセグメントの顧客が求める価値に応えるクルマ、サービス、エクスペリエンスを提供できていることが、前年を超える新車販売成績につながったと確信しています。

顧客の期待値や顧客の求める価値を理解するには、顧客からタイムリーにエクスペリエンスデータを収集・分析・評価することが必要になります。そこから得られたインサイトに基づく対策を、顧客とのすべてのタッチポイントにフィードバックし速やかに改善アクションまで淀みなく連携できるか否かがビジネスの勝敗を分けるのではないでしょうか。また、顧客との直接のコミュニケーションをするディーラーの営業やメカニックのやる気をいかに引き出し、生産性やサービスレベルを上げるか。従業員のエクスペリエンスデータを収集・分析し、職場環境改善のアクションを実行することが、勝率をあげる重要な施策だと考えます。

今後もエクスペリエンスマネジメントの成功事例を通じて、国産自動車メーカーが輸入車ブランドと戦っていくための発信を続けてゆきたいと思います。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、フォルクスワーゲン社およびポルシェ社のレビューを受けたものではありません。

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