プラスチックチャレンジ − 循環型経済(Circular Economy)の実現を目指して

作成者:竹川 直樹 投稿日:2019年10月24日

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プラスチックによる海洋汚染が地球規模レベルで深刻な問題となっています。WWFの報告によれば、「既に世界の海に存在しているといわれるプラスチックごみは、合計で1億5,000万トン。そこへ少なくとも年間800万トン(重さにして、ジャンボジェット機5万機相当)が、新たに流入している」と推定されています。また、太陽光にさらされ分解する過程では、多くの温室効果ガスが生成されるため、地球温暖化の原因にもなっています。

プラスチックごみを減らすために、様々な取り組みがなされています。米コーヒーチェーン大手スターバックスが「プラスチック製の使い捨てストローの使用を、2020年までに世界中の店舗で全廃する」と発表したように、そもそもプラスチック製品を「使わない, 減らす(Reduce)」取り組みや、洗剤などの容器を「再利用する(Reuse)」取り組みが挙げられます。そして、毎年3億トンものプラスチックが生産され、そのうちの半分は一回きりの使用(single use, つまり「使い捨て」)と推計されており、プラスチックの「リサイクル(Recycle)」にも注力しなくてはなりません。

Plastic Challenge − プラスチックごみの削減に向けたSAPの「最初の小さな一歩」[動画(英語)

Plastic Challenge

プラスチックの「リサイクル」といっても簡単なことではありません。いかなる組成のプラスチックでも、まとめて溶解すれば別の何かに生まれ変わる、というようなものではないことは言うまでもありません。プラスチックの種別に応じて様々なリサイクルのプロセスが必要であり、複雑な仕組みを開発したとしても品質基準に合致しないことも起こり得るでしょう。東レとユニクロが、「リサイクル・ダウンおよびリサイクル・ポリエステルの製品化への取り組みをスタート(日経電子版記事)」させていますが、そういった企業の技術革新にも期待しなければなりません。また、化学やアパレルの製造業はもとより、消費者も含めたバリューチェーン全体での取り組みが必要となります。

また、リサイクルしようとするプラスチックごみについては、国や地域の特性に応じて、その問題を様々な観点から捉える必要もあります。例えば、多くのプラスチックごみには「市場価値が認められてすらいない」場合もあるということです。ブラジルやインドなどの各国では、伝統的にゴミの収集を行う人々(street collectors)が、金属や紙、古着、絨毯などを、リサイクルのために再販しています。しかし、プラスチックについては、再販で得られる対価がないため、ずっと無視されてきました。よって「可笑しなことに、プラスチックをリサイクルしようとする企業は、マーケットでそれらを見つけることが出来ないのです」(Padmini Ranganathan, SAP Global Vice President, Products and Innovation)。

そこでSAPは、自社が提供する世界最大規模の企業向け商取引プラットフォームであるAriba Network(関連ブログ)を活用することで、プラスチックのリサイクルに必要となるサプライチェーンを再定義すべきではないかと考えました。上述の例では、Plastics For Changeといった社会的意義に注力する企業と連携し、Ariba Networkへのオンボーディング、すなわち、世界最大のビジネスネットワークへ、それら再販業者が参加することを促しています。そうすることにより、社会の影に隠れている経済(注:原文では“informal waste-picker economy”)を、次のプラスチック素材につなげるための正当な需要・供給システムに組み込むことができるのです。プラスチックごみ、あるいはそのリサイクル品を、然るべき価値にて交換できる仕掛けをつくり、リサイクルに向けた取り組みを促進する。またそれとともに、それら“informal waste-picker economy”の社会的な存在意義や持続可能性への貢献を、SAPとして目指して行こうということでもあります。SAPはこれらの活動も含め、プラスチックごみ削減に向けた取り組みを「プラスチックチャレンジ」と称して推進しています。

関連プレスリリース:SAP、再生プラスチックおよびプラスチック代替品サプライヤーの新しいグローバルマーケットプレイスを発表 [Link]

さて、プラスチックやプラスチックを活用した材料・部品などを、アパレルやハイテク、自動車業界に供給している石油化学業界では、リサイクルに関する技術革新にもめざましいものがあります。Eastman Chemicalは、炭素材の革新的な再生技術を、Americas Styrenics(通称AmSty)やChevron Phillips Chemical などからなるジョイントベンチャーは、ポリスチレンをスチレンモノマーに転換する技術を、Saudi Basic Industries Corp.(通称SABIC)は、プラスチックボトルやフィルムを元の原料レベルに変換する技術を、開発したりそれに投資したりしています。

将来的には、リサイクルした原料や素材から、いま現在生産している素材と同等の製品や、あるいは、異なる用途の製品を市場に送り出す可能性もあるでしょう。石油化学業界は、バリューチェーンの「再」創造に求められている要請に対し、いっそう重要な役割を担っていくことになるのだと思います(下図)。

Circular Economy

それは循環型経済(Circular Economy)を指向し、プラスチックによる海洋汚染の解決も含め、様々な地球規模の課題克服に貢献するものであることが求められるでしょう。SAPとしては、新しいバリューチェーンの設計・実現とともに、それを支えるデジタルテクノロジーを提供していきたいと考えています。


参考文献

Rob Benedict, “Unlocking the circular economy — Petrochemical manufacturers lead the charge to reinvent recycling”, Plastic News, 2019 [Link]

Judith Magyar, “Can A Circular Economy Help Clean The Oceans?”, Forbes, 2019 [Link]

Judith Magyar, “How To Create A Plastic Free Ocean In Ten Years”, Forbes, 2019 [Link]

 

 

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