持続可能な社会の実現に向けてーハイデルベルグのスマートシティの取り組み

作成者:吉元 宣裕 投稿日:2019年10月24日

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近年スマートシティの取り組みを多く目にするようになりました。取り組みは交通、エネルギー、環境、医療、防災、行政など多岐にわたり、その定義も非常に幅広く曖昧です。IoT、AI、ビッグデータ、ロボットなど最先端のテクノロジーを活用して新たな街づくりを目指すものですが、ハイデルベルク市の取り組みを例に、テクノロジーの視点ではなく、なんのための街づくりなのかその目的からスマートシティの意義を考えたいと思います。

ハイデルベルグ市 − スマートシティ化への変革

ドイツにあるハイデルベルク市は人口14万人ほどを抱え、ハイデルベルグ城に代表される観光で有名な街です。しかし今この街ではスマートかつセンシブルな都市になるというビジョンを掲げています。そこで、センサーを利用したスマートなリサイクル管理システムを導入し、スマートシティ化の一歩を踏み出しました。

ごみ収集のコンテナにセンサーを取り付けコンテナが一杯になると自動的にごみ収集要求が業者に連絡が行くという仕組みは、満杯になったコンテナから発される不快な臭いを減らすことはもちろん、回収不要なコンテナへのごみ収集を減らすことで騒音も減ります。また一般的な廃棄物収集車は100キロあたり約70リットルのディーゼルを消費すると言われています。ハイデルベルグ市長のDr. Eckart Würznerの経歴を見てみると市長就任前から環境エネルギー担当として副市長を務め、現在はハイデルベルグ市にとどまらずヨーロッパや国際レベルで気候保護やエネルギー問題に取り組んでいます。このハイデルベルグ市の取り組みも市長の強力なリーダーシップの下で進んだことは想像に難しくありません。

日本のごみ処理の現状

Landfill Compactor in a Landfill --- Image by © moodboard/Corbis

さて、日本のゴミ処理の現状を見てみましょう。環境省の調査結果によるとごみ総排出量は5年連続減少傾向で、2017年度は4,289万トンとなり1人1日あたりのごみ排出量は920グラムとなっています。他方でリサイクル率は横ばい傾向が続いており、2017年度は20.2%と10年前の20.3%とほとんど変化がありません。例えば、プラスティックのリサイクルを見てみましょう。我が国では昔からごみの分別は行われてきており、みなさんも当たり前のように普段から分別されていることと思います。環境意識の比較的高いヨーロッパでもプラスティックリサイクル率は30%程度にとどまっていますが、日本のリサイクル率は84%と非常に高水準です。しかし実はこれにはからくりがあり、廃プラスティックのおよそ70%は焼却され、リサイクルに回っているのは25%ほどになります。焼却処理されたプラスティックの熱をエネルギーとして熱回収していることから日本ではサーマルリサイクルと呼びリサイクルの一部に位置付けていましたが、国際的には熱回収はリサイクルに認められていません。

さらに厄介な問題が近年起こっています。リサイクルに回ったプラスティックの7割はこれまで中国に輸出していましたが、2018年1月に中国は海外からの廃プラスティックの輸入をストップしました。経済的に豊かになり自国から出てくるプラスティックごみの管理を優先させる必要があり、さらには環境汚染や健康被害も深刻化してきたためです。現在日本や欧米諸国はタイやベトナムなど東南アジアの諸国への廃プラスティック輸出をシフトしていますが、処理能力が整っていない東南アジア諸国からは受け入れ拒否が相次いでおり、現在は日本国内に処理できない廃プラスティックが留まっている状態です。

SAPが考えるスマートシティの本質

Tokyo, Japan --- Tokyo cityscape --- Image by © Iplan/amanaimages/Corbis日本のごみ処理の現状を見てきましたが、リサイクルやプラスティックの問題は日本に限らず世界共通の課題です。SAPはスマートシティの本質はサーキュラー・エコノミーの実現であると考えています。スマートシティの取り組みは世界中の都市で行われておりその取り組みの内容は多種多様です。特にエネルギーの効率的な利用や自動運転を含めた交通の最適化といった都市のインフラ強化の視点での取り組みが世界的には進んでいます。IoTのデバイスを活用したり市民の情報をデジタル化したりすることで、利便性が高まると同時に行政がデータに基づいてアクションできるようになる魅力的な街づくりにつながるものです。しかしながら利便性を追い求めることがスマートシティなのではなく、持続可能な社会を実現する街づくりがスマートシティの目指す姿だと捉えています。このごみ収集の事例は小さな取り組みかもしれませんが、大きな可能性を秘めています。ビルやオフィスのごみ収集の効率化はもちろん、工場からの廃棄物のリサイクルにも活用できそうです。また、観光地はもちろんオリンピックやイベント会場など多くの観光客が訪れる場所にごみ箱は必要ですが、かつてと比べてセキュリティの観点からかあまり多く設置されていないように感じます。こうしたセンサーのついたごみ箱があれば安全面を考慮しながら持続可能な街づくりに貢献できます。こうして廃棄されるごみや廃棄物の状況が可視化されリアルタイムにフィードバックされることでアクションが取りやすくなり、リサイクル率の向上につながるのではないでしょうか。世界で抱える課題を日本でどうやって解決できるのか、我々は日本におけるスマートシティの形を模索していきたいと考えています。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、ハイデルベルグ市のレビューを受けたものではありません。

 

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