インテリジェント・エンタープライズ化を促進させるデジタルコア:SAP S/4HANA 1909リリース(後編)

作成者:上硲 優子 投稿日:2019年10月31日

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前回のブログでは前編として、SAP S/4HANA 1909新機能のうち、機械学習や組込型レポートなど「インテリジェント・エンタープライズ」化促進につながるものをお伝えしてきました。

今回は後編として業務領域におけるいくつかのハイライトをご紹介していきます。

会計:連結会計機能の強化、配賦処理の一元化

SAP S/4HANAでは昨年の1809のリリースからGroup Reportingと呼ばれる連結会計機能が提供されていますが、今回のリリースではそのGroup Reportingに対する機能強化が行われています。

Group Reporting概要とSAP S/4HANA 1909での拡張部分

Group Reporting概要とSAP S/4HANA 1909での拡張部分

例えば、その中の一つであるマトリックス連結機能を活用することで、「セグメント別/地域別/サブ事業別」といった異なる連結階層での処理や、「法人単位を最小単位とする制度連結階層」と「セグメントや利益センタを最小単位とする管理連結階層」という複数の連結階層の組み合わせによる管理連結が実現できます。

マトリックス連結のイメージ

マトリックス連結のイメージ

これにより、内部取引消去額とその内訳の確認を通じた連結処理の透明性向上や、制度連結、管理連結両面におけるレポート作成業務の効率化が可能です。

上記以外にも、連結領域においては内部取引照合機能の拡張や資本連結における持分法対応、SAP Analytics Cloudとの連携強化などが図られています。。

また、従来の配賦処理は処理対象(オブジェクト、実績/計画等)別にトランザクションが分かれていたのですが、それらが①配賦管理、②配賦実行、③配賦結果確認という3つのアプリにまとめられました。ひとつのアプリから、複数対象を処理可能です。SAP S/4HANA 1909リリースでは原価センタ配賦、利益センタ配賦、総勘定元帳(G/L)配賦が計画、実績ともに対象となっています。

 

生産:工場の中長期的な生産・リソース計画シミュレーション

SAP ERPからSAP S/4HANAになって大きく機能拡張された領域の一つが生産です。インメモリーデータベースであるSAP HANAの能力を生かし、資材所要量計画(MRP)のパフォーマンス改善がなされたり、今まではERPの外にあったスケジューリング(詳細日程計画:PPDS)が取り込まれたりしてきました。

今回のリリースではPredictive MRPという機能が提供されています。この機能では本社で策定された中長期の販売計画や需給計画に対して、工場側リソースの負荷状況を評価・考慮しながら生産実現性をシミュレートすることなどが可能です。これにより、事業計画に対するリソース計画の精度向上や、生産計画調整の高サイクル化と打ち手判断のスピード向上を図ることができます。

Predictive MRP利用イメージの例

Predictive MRP利用イメージの例

また、今回ご紹介している工場側の中長期的な計画だけでなく、本社側での計画および本社-工場間のやり取りや短期的な計画など、SAPソリューション(SAP Analytics Cloud、SAP Integrated Business PlanningとSAP S/4HANA)を活用してエンド・ツー・エンドな計画プロセスを実現いただけます。

計画プロセス全体像とSAP計画ソリューションのマッピング

計画プロセス全体像とSAP計画ソリューションのマッピング

 

販売:利用可能在庫確認の拡張、ワークフロー

1709リリースから「優先度の高い顧客により確実に納品する」ため高度な利用可能在庫確認機能の提供が行われており、バックオーダーや製品割当機能などが強化されています。今回の1909では、製品割当においてより現実的な引当を行うため、①複数の製品割当基準を考慮した確認と、②販売制約に基づく製品割当のチェックに加え能力に基づく製品割当のチェックが行えるようになりました。

また、1809リリースから提供されている「代替基準確認(初期提案されている在庫場所での在庫確認ができなかった場合の代替在庫場所を定義・設定する機能)」に対し、1909では代替在庫場所を決定するためのルールに「納期優先」を考慮したものが追加されました。また、受注登録時だけでなく変更時などにも対応できるようになっています。

もう1点の強化ポイントとしてご紹介するのはワークフローです。販売系トランザクションでは各種申請のためワークフローの要件をよくいただきます。今まではSAP Workflowなどによる設定で定義いただくなどの対応でしたが、見積や受注の承認ワークフローがSAP Fioriの画面から容易に設定いただけるようになりました。

 

購買:集中購買プラットフォーム

前編でもご紹介した「機械学習を利用した納期予測」や多くの組込型レポート(Embedded Analytics)が提供されています。

また、複数SAP ERPを運用している企業様において、それらを横断した集中購買処理によりオペレーションや契約、監視の一元化というニーズに対応するための環境として、Central Procurementという機能が提供されています。

SAP Supplier Relationship Management(SAP SRM)を活用して複数SAP ERPシステムをまとめた集中購買処理を行われているお客様もいらっしゃるかもしれませんが、SAP S/4HANAで同様のことを実現させるための機能だとお考え下さい。

 

サービス:基幹への取込、クラウドソリューションとの連携強化

サービス管理の機能は1709および1809リリースからの提供ですが、それらはアドオンとしてSAP S/4HANAに追加される形となっていました。それが1909からはS/4HANAのコアに組み込まれたため、追加のインストール処理が不要となっています。

また、通常の製品だけでなくサービスやサブスクリプション契約もまとめた「ソリューション見積」伝票や、保守サービスシナリオにおけるSAP C/4HANA Field Service Managementとの連携強化なども提供されています。

 

まとめ

今回はSAP S/4HANA 1909の拡張機能の一例を取り上げましたが、既に提供されている機能も含め活用することで「システムの高速化やシンプル化」「業務プロセスの改善」、「ビジネスモデルの変革」などを実現されている企業が増えています。

現在お使いの基幹システムをSAP S/4HANA化することを検討されている場合、SAPでは様々なセミナーを行っているので、ぜひお問い合わせください。

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