DXの基盤としてSAP S/4HANA Cloudを 導入し、海外拠点へのスピード展開を進める 第一稀元素化学工業のチャレンジ
作成者:SAP編集部 投稿日:2019年11月15日
事業の規模にかかわらず、グローバルビジネスのスピーディな展開を支える基盤として大きな注目を集めるクラウドERP。9月26日(木)に大阪で開催されたSAPクラウドERPセミナーでは、SAP S/4HANA Cloudを活用した新たな成長基盤の構築を目指す第一稀元素化学工業株式会社による講演が行われました。デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けた同社の「グローバル基幹系再構築プロジェクト(D-Value)」の取り組みからは、海外拠点へクラウドERPを展開する上での価値ある知見が凝縮されています。
海外拠点へのスピード展開に向けてSAP S/4HANA Cloudの導入を急遽決定
自動車排ガス浄化触媒や燃料電池をはじめ、多種多様な工業品に使われるレアアース化合物「高機能ジルコニウム」の生産・販売で、世界でもトップクラスの実績を誇る第一稀元素化学工業。同社が現在、組織をあげて取り組んでいるのが、海外販社に向けたSAP S/4HANA Cloudの展開プロジェクトです。
同社が最初にSAP ERP(ECC 6.0)を導入したのは2008年。2016年にはサーバーのリプレースに合わせて、ECC 6.0のバージョンアップ(Unicode化)を実施。この時点では、次回の基幹系システムの更新はまだ先との判断から、ECC 6.0の継続運用が決まっていたと振り返るのは、ICT統括室の室長を務める萩原成紀氏です。
「ハードウェアを更新した結果、期待した通りの処理速度の向上が実現したことから、当面はこれで問題ないという判断がありました。また、当社のデータ規模ならECC 6.0でも十分なパフォーマンスを出すことが可能で、情報システム部門としては、あえてクラウド移行のリスクを受け入れる必要はないと考えていました」
ところがその後、経営サイドから海外販社へのシステム展開の指示が下されたことで状況は一変します。この話を聞いたSAPジャパンからSAP S/4HANA Cloudの提案が持ち込まれたのです。
「当初は海外展開も既存のECC 6.0で実施する予定でしたが、SAPジャパンからの話を聞けば聞くほど、クラウドERPが私たちの目指す目標によりフィットしていることがわかりました。そこで、パートナー数社に依頼してPoCを実施したところ、検証チームからSAP S/4HANA Cloudを高く評価する報告が出されたことから、クラウド移行に向けたプロジェクトを本格的に立ち上げることになりました」(萩原氏)
リスクに勝るクラウドのメリットを受け入れる社内のマインドチェンジ
SAP S/4HANA Cloudの選択に関して、同社の経営陣からは「いいものなら使え」という指示が出ました。しかし、萩原氏は今回のクラウド移行の決定に時間を要したもっとも大きな要因は、情報システム部門の中にあったと明かします。
PoCの検証チームが処理能力の飛躍的な向上、海外拠点へのスピード展開といったクラウドERPのメリットを説明しても、「当社のデータボリュームであれば、それほどの効果はない」「マルチテナントのクラウド環境で、他社のシステムの影響を受けるリスクがある」など、さまざまな声が聞かれました。
「反対する人をセミナーに参加させるだけでなく、先行して導入しているユーザー企業の責任者に実際の苦労話を聞きに行ったり、SAP本社の技術者との質疑応答の機会を設けたりしながら、最終的にリスクに勝るクラウドERPのメリットをほぼ全員で共有することができました」(萩原氏)
「なかなか最終的な決断に踏み切れなかった一番の原因は、情報システム部門のマインドチェンジができていなかったことにもあります。いつの間にか日々のシステム保守がメインの仕事になってしまい、ERP導入の本来の目的=成長のためのシステムという意識が欠けていたことで、決断までに長い時間を要してしまったのです」
そこで同社では、改めて今回の海外販社へのSAP S/4HANA Cloud導入を、グループの価値を世界へ届けるDXの中核プロジェクト「グローバル基幹系再構築プロジェクト(D-Value)」の一翼として位置付けることにしました。
従来のオンプレミスとは異なるクラウドならではの特性
初の海外展開となる中国・上海の販社へのSAP S/4HANA Cloud導入が始まったのは2019年5月。同年10月にはシステム設定を完了し、ユーザーテストとトレーニングを開始しました。これと並行して、10月には米国の販社への導入プロジェクトもキックオフしています。2020年以降はタイ、EU、などにも順次展開を進め、2022年までに海外のすべての販売拠点をクラウドへ移行、2024年には日本本社、ベトナムの生産子会社を含めてSAP S/4HANAおよびSAP S/4HANA Cloudに統一する予定です。
導入開始からプロジェクトを担当してきたICT統括室の三井里絵氏は、「今回の導入では『2-Tierモデル(2層ERP)』を採用しました。生産拠点にはSAP S/4HANAのオンプレミスを、販売拠点にはスピード重視という観点からSAP S/4HANA Cloud MTE(マルチテナントエディション)をそれぞれ導入していきます」と説明します。
また、同氏は従来のオンプレミスのシステム導入とマルチテナント型のクラウドシステムを比較した結果、以下の3つの面で特徴的な違いがあると話します。
1. 機能の違い:制約がある一方、有効な新機能も多い。
クラウドゆえにユーザー側で変更できない制約は多いが、四半期毎のアップグレードでユーザーが設定できる自由度は増えている。逆に、主な項目の変更が許されないこともあるので、思い込みは禁物。カスタマイズできるかどうかは、事前のチェックが必要。それよりもクラウドファーストでリリースされる新機能をいち早くキャッチアップする意識が大切。
2. 導入方法論:Fit to Standardへのマインドチェンジ
オンプレミスならFit&Gapで足りない機能はアドオンでという選択肢があるが、マルチテナントでは「Fit to Standard」、つまりSAP標準の設定を使うのが原則。そもそもマルチテナントを選択した理由は、クラウドならではのスピード感、成長性、拡張性が当社ビジネスの成長に価値をもたらすと感じたため。このため要件定義でも、よほどの問題がない限りSAP標準で進めるマインドチェンジが必須。
3. 保守運用:四半期毎のアップデート、インスタンスの制約など
クラウドでは導入中でも四半毎のアップグレードがやってくる。この影響をあらかじめ想定しておかないと、スケジュールに予想外のインパクトを与える可能性がある。また、クラウドには「クライアント」の概念がなく、限られた環境で、本稼働後の保守運用と、他国展開を同時並行で行う必要がある。
機械学習などの新技術を活用したビジネスに貢献するIT部門への飛躍
これまでのプロジェクトの手応えから、SAP S/4HANA Cloudは未来のビジネスを支える成長基盤として、さまざまな可能性を秘めていると三井氏は評価します。
「機能改善のサイクルが速く、システムが古くならない点はクラウドならではメリットです。また、登録したインシデントに対するレスポンスもよく、すぐに対応してもらえるので助かっています」(三井氏)
また、サーバーなどのハードウェアの保守がなくなったことで、情報システム部門がシステムの保守作業から解放され、今後は機械学習などの新しい技術を活用して、ビジネス側に有益な提案をしていけるのではないかと期待を語ります。
最後に萩原氏は「こうした機能改善がさらに進んでいけば、販売拠点だけでなく、生産拠点や本社もSAP S/4HANA Cloudで統一できるかもしれません。SAP が非常に注力している分野でもありますので、今後もシステムの進化を見極めていきたいと思います」と語り、講演を締めくくりました。
動画:第一稀元素化学工業株式会社 – 企業の成長に合わせてシステムも成長していく
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