データに解釈を与えるのは「人間力」、髙田明氏に聞く情報の活かし方


経営哲学は千差万別、それぞれに学ぶべき独自の工夫と価値観が存在します。今回お話を伺うのは、ジャパネットたかた創業者の髙田明氏。

2015年1月16日をもってジャパネットたかたの社長職を退任された髙田氏は現在、地元長崎のサッカーチーム「V・ファーレン長崎」の代表取締役社長を務めています。
(取材後に、2020年1月1日をもってV・ファーレン長崎の代表を退任することを発表。)

一代で日本有数の大企業を作り上げた髙田氏。この記事では、地元にかける思いや経営哲学についてお話を伺います。

佐世保のジャパネットたかた本社で取材に応える髙田氏

佐世保のジャパネットたかた本社で取材に応える髙田氏

人間の本気を引き起こすことが地方創生の真髄

創業以来一貫して長崎に本社を構えるジャパネットは、なぜ長崎に拠点を置き続けるのか? 地元長崎や地方創生に対する想い、そして代表を務めるV・ファーレン長崎に対する想いを伺いました。

「ジャパネットは佐世保に本社を構えていますけれど、場所は別にどこでもいいんですよ。ウォルマートを見てください。アメリカのアーカンソーという田舎からスタートして、世界一の小売店になりました。

佐世保で生まれたジャパネットなので佐世保に拠点を構えているだけで、それが自然な姿だと思います。大都市は物件も高いし、人件費も高い。今はITが進化しているので、決済でも物流でもインフラが整っていますし、世界中どこでもビジネスができます。

もちろん50年前であれば地方の格差はあったわけですけど、今ではそれも理由になりません。格差を口にした時点で負けているのではないでしょうか。」

長崎県佐世保市に本社を置く株式会社ジャパネットたかた

長崎県佐世保市に本社を置く株式会社ジャパネットたかた


髙田氏は社長業を離れてから自身の事務所「A and Live」を設立。全国各地で講演活動やメディアへの出演を重ねています。また、V・ファーレン長崎の代表を務め、地方創生に関わる活動にも取り組んでいるそうです。その活動の一環として、自ら全国各地の生産者を訪ね、地域の想いを伝えて商品を紹介する番組「おさんぽジャパネット」に出演していました。

「番組では(前身の番組を含めると)全国40ヵ所以上の地域を訪ね、商品だけでなく、生産者の想いや生産過程、その中でのこだわりや苦労も紹介しました。そうすると、何度も生産者の方が驚くほどの反響があったのです。伝われば、モノは売れるのです。

近年では地方の産業が落ち込んでいますね。私の地元は長崎県平戸市ですが、他の地方と同様に、やはり昔のような活気はありません。そのような状況が続くと、地元の人は『平戸はダメだ』と思ってしまう。しかし地方創生を本気でやろうとするならば、昔を振り返るだけでなく、そこに住んでいる人たち自身が『こういうことをやりたい』という気持ちになって、前向きに、本気で取り組まなければ成功しません。例えば国から補助金が出て『これをやってください』と提案されても、実現することではないと思うのです。

地方創生にはもちろんお金も要ります。モノも要ります。けれど、そこに人間の心、本気がなければいけない。簡単なことではないかもしれませんが、住む人の本気の力が出た時に地方が活性化して、日本全体が元気になるのだと思います。」

このような地方に対する想いは、地元長崎でも発揮されています。

「V・ファーレン長崎の平和活動のスローガンは『愛と平和と一生懸命』。長崎はこれまでの歴史の中で、深い苦しみを何度も味わってきました。古くは潜伏キリシタンの迫害の時代から、世界大戦終焉直前の原子爆弾投下まで、多くの方の苦しみがあって、平和の時代を迎えています。平穏な日常を味わえる今だからこそ、私たちにはその平和の大切さを語り伝えていく責任があると思っています。その想いで、V・ファーレンでは選手やスタッフに対して平和教育を実施したり、夏には「平和祈念ユニフォーム」という特別なユニフォームを着用して試合に臨んだりしています。

また、長崎では、親会社のジャパネットホールディングス主導で、500億円規模の投資をする予定のスタジアムプロジェクトが進行しています。サッカー専用スタジアムを軸に、商業施設やホテル、マンションなどの複合施設を長崎市に建設する予定です。私自身はほとんどプロジェクトにはタッチしていませんが、目指す夢は同じです。そんなに莫大な費用がかかるものを、行政に頼らずなぜ一企業がやろうとしているのか。それは長崎の人はもちろん、日本の、世界の人たちに幸せや喜びを感じて欲しいからです。理想を本気で追求しようと頑張っている若い人たちを、私も心から応援しています。」

社長業を退任後も、率先して地域を引っ張る髙田氏。この話の後に「スタジアムのこけら落としの試合では、私がキーパーをやりたいですね(笑)」とささやかな夢を教えてくれました。

ピッチ上で挨拶を行う髙田氏

ピッチ上で挨拶を行う髙田氏

「全体最適」に情報システムは効果的、一方で適切な導入が求められる

ここからは髙田社長の経営哲学へと話題を変えましょう。一代で全国有数の企業を築いた髙田氏はどのように経営や組織と向き合ってきたのでしょうか? 過去を振り返り、髙田氏はこう話します。

「創業したばかりの時は従業員が3、4人でしたから、マネジメントというよりはモチベーションと志を高く保つことに集中していました。私のスタイルはリーダーシップをとってトップダウンで引っ張っていくスタイルだったので、先頭を走ればみんなが付いてくるだろうと。

組織が大きくなってからは適材適所を心がけていました。誰が何に優れているかは人によって違いますし、仕事のレベルも異なります。百人いれば百人違う。それを適正に配置していくことが大切なことです。また、規模によって人事のあり方も変わっていきます。創業当時とホールディングス体制になった今では全然違いますよね。」

組織における情報管理について、髙田氏は次のように話します。

「現代は情報量が非常に多く、変化も早い時代です。ジャパネットも100くらいの部署に分かれていますし、グループ会社も8社になりました。巨大な組織が抱える莫大な情報は、人間の頭だけでは整理しきれません。ですから、最終的にはERPなどのシステムも必要になってくるでしょう。これは私たちの時代にはなかった変化です。創業当時の1986年は、ネット回線もパソコンも普及していなかった時代でしたから。

ご紹介したいのが、『ザ・ゴール』という本を書いたエリヤフ・ゴールドラットさんの著書の中にある『部分最適』と『全体最適』という言葉です。組織が小さいと『部分最適』だけでも仕事は回る。けれど組織が大きくなってくると、ボトルネックが何かを見極めて『全体最適』を考えなければ課題は一向に解決せず、サービスの品質も下がります。もちろん社内だけでなく、物流や仕入先など、社外の関係者も含めた最適化が必要です。

一般的に組織が大きくなればなるほど取り扱う情報量も増加し、コミュニケーションの問題も発生します。それを解決する手段として、企業の情報をシステムに集約して、組織全体の判断やコミュニケーションに活かしていくことはできるでしょう。しかし、単にシステムを導入したからといって課題が解決するわけではないと思っています。情報システムは『企業がどのくらいの規模なのか?』『どういう業態なのか』等を見極めて適切に導入しなければいけません」

人間の本気度こそが的確な判断を実現する

前段で「システムは適切に導入すべき」と話した髙田氏。その背景には、"データを判断する感性"こそが重要という考えがあります。

「集めたデータは的確な分析のもと、判断のために必要な材料となってはじめて価値を持ちます。この判断はAIがやってもいいのですが、どんなに技術が進歩しても、AIでは判断できない部分があると思います。よく『100年もすれば世の中全部変わるよ』と言われますが、それでも私は『人間が持つ感性や情熱に勝るものはない』と考えているのです。

たとえば、年商1億円と100億円のビジネスがあったとします。データだけ見ると、100億のビジネスの方が結果を出しているけれど、翌年には1億に減るかもしれない。逆に今は1億のビジネスが将来的に1兆になるかもしれない、という判断もあるんですね。データはデータでしかなく、どのような結果が生まれるかを見極めるのは人です。もちろんデータで判断できることもあるとは思います。けれど、私は熟練した人間の判断を信じたい。

V・ファーレン長崎も、私が2017年に引き継いだ時には累積3億円以上の赤字を抱える倒産寸前のクラブでした。そういうクラブが、引き継いでわずか7ヵ月後にJ1に昇格した。奇跡ですよ。なぜそういうことが起こるのか? それは、選手はもちろん、チームに関わるすべての人の本来持っている力が引き出された結果だと思います。」

データはデータでしかなく、人間にしか判断できないものがあると話す髙田氏。判断力を養うためにはどのような心がけが大切なのでしょうか?

「一番は本気になっているか、だと思います。高いビジョンを持てば、同じ情報から異なるものが見えてくる。日本一になろうと思ったら、日本一と思えるくらいの努力が必要で、そういう人は同じデータを見ても以前と違った視点が持てるようになってくるでしょう。

私は夢という言葉が好きですが、単に夢を持っているかではなく、死ぬまで夢を持ち続けていることが重要だと思います。けれど、持ち続けているだけでは夢は実現しません。『夢を持ち続ける自分』と『精進し続ける自分』の両輪が必要。なので私のモットーは、その2つをあわせて『夢持ち続け日々精進』と言っています。それが実現できた時、本気度の度合いが高まる。その中で、データを見る感性やひらめきも備わっていくのではないでしょうか。」

髙田氏は、学び続けること、何に対しても貪欲になり努力を続けることが、情報を活用する力になると話してくれました。では、感性を養うために必要な「精進」とはどのようなものでしょうか。

「私はビジョンよりもプロセスを重視しています。ジャパネット時代も、これといった目標や経営の中長期計画などはありませんでした。今の時代、明日がどうなるかもわからないのに、5年後、10年後の目標を掲げてもあまり意味はないのではないかと。私はそういう考えでやってきました。それよりも今に集中する。今を一生懸命頑張り続けていると、どこかでポンとはねる時があると思うのです。

クォンタムリープ(突発的な飛躍)という言葉があります。努力を続けていると、一気にポーンと飛躍する時がある。スポーツ選手でも5年目までまったく芽が出なくても、6年目にいきなり活躍する人がいる。こういう人はおそらく見えないところで地道に努力を続けているのです。

私はずっと『今を一生懸命に生きる』という生き方をしてきましたから、それは死ぬまで変わらないと思います。」

夢持ち続け日々精進。V・ファーレン長崎がJ1昇格を実現できたことも、髙田氏のこのような姿勢と無関係ではないでしょう。71歳にして衰えない感性と、それを支える情熱。だからこそ髙田氏は一代で全国有数の企業を生み出せたのではないでしょうか。


髙田 明氏 プロフィール

ジャパネットたかた創業者。2015年1月16日をもって社長職を退任。現在はサッカーJ2「V・ファーレン長崎」の代表取締役社長を務める。