三井情報(MKI)が自社導入で見出した クラウドERP導入の考え方とノウハウ


2019年10月30日、SAP Leonardo Experience Center Tokyoにおいて三井情報株式会社(MKI)、テックマヒンドラリミテッド、SAPジャパンの共催セミナー『クラウドERP_SAP S/4HANA Cloud自社導入状況報告』を開催しました。今回は、MKIが「Fit to Standard」で実施したSAP S/4HANA Cloudの導入について、同社の経営企画統括部 戦略企画部 IT戦略企画室 室長の岡田秀之氏とソリューション技術本部 SAPソリューション部 室長の府中渉氏が登壇されたセッションについて解説します。

「クラウド・バイ・デフォルト」で基幹システムを更改

SAPのパートナーでもあるMKIは、2000年代初頭からSAPソリューションビジネスに取り組んできた経験を柱に、SAP S/4HANAへのアップグレードや再構築などのさまざまなサービスを提供しています。次々と新しい技術が生み出される中でMKIは、ビジネスに貢献する攻めのITだけでなく、守りのITでも新たな技術を活用し、経営戦略にビジネスITとコーポレートITを連携させた戦略でデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める必要があると考えています。

一方で同社は7つの会社が合併してきた経緯を持ち、徐々にシステム統合を行ってはいるものの、各社独自の業務プロセスが継続されてきました。また各IT基盤の老朽化、メンテナンスコストやIT人材の確保という課題にも直面。そこで多様化するビジネスへの挑戦を支えるIT基盤を構築し、社員の働き方を改革する必要があると考えた同社は、クラウド・バイ・デフォルトの考え方で「Data」「Anytime Anywhere」「Communication」「Safe & Secure」のキーワードに基づくITグランドデザイン(MKI IT Grand Design)を策定しました。

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将来の運用負荷/コスト削減を念頭に
SAP S/4HANA Cloudへの移行を決断

MKI_OKADAMKIはオンプレミスの基幹システムの移行先として3つの選択肢を検討。1つ目は基盤をIaaSへ移行し、OSとデータベースをバージョンアップさせた後にSAP S/4HANAへと移行する方法で、2つ目はIaaS上でSAP S/4HANA Cloud, single tenant editionを利用する方法でした。しかし最終的に選んだのは、SAP S/4HANA Cloudのマルチテナントエディションを活用する3つ目の方法でした。

3つ目を選択した場合はアドオン不可となる反面、常にクラウドの最新機能を利用できるため保守費用などのコストを削減できると考えたと岡田氏は明かします。これによりMKIは10年、15年先を考えてSaaSを活用すべきという方針のもと、基幹システムにSAP S/4HANA Cloud、営業支援(SFA)と顧客管理(CRM)システムには他社のSaaS製品を採用しました。

トップ自らが現場と話し、SaaSを使うことによる業務プロセスの変化や経営にどう役立つかを説得していったMKIでは、経営陣が強い意志を示すことで、最終的には現場も納得したといいます。

プロジェクト関係者の意思統一と
SAPのサポートが不可欠

続いて府中氏から、導入プロジェクトの状況説明が行われました。MKIは業務を標準機能に合わせる形(Fit to Standard)で導入を進め、各フェーズではSAP Activate方法論に基づいて提供される各種ツールを活用しています。

同氏は、SAP S/4HANA Cloud導入検討の際に前提となる3つの考え方について解説しました。「『作る』から『使う』へ」とは、機能を作るのではなく用意されている機能を徹底して使うというトップダウンの方針です。「スモールスタート」は、最初から完全を求めないこと、2層型ERPを想定して海外拠点から開始すること、アジャイル形式での推進によって俊敏性を獲得することです。「ビジネスファースト」は、ユーザーの要望ありきではなく、ビジネス課題を解決するために必要なタスクを実施することです。MKIはこれらの考え方に基づいて制約を受け入れながら、新たな仕組みを活用し、さらなる成長を目指しています。

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プロジェクト実施体制のポイントとして府中氏は、経営層、プロジェクト推進部門、現場が三位一体となる必要性を強調します。また、SAP S/4HANA Cloudは発展途上の製品であるためSAPのグローバルサポート体制も不可欠で、問題発生時に速やかな対応を依頼できる関係性が重要だといいます。

SAP Activate方法論に基づく
プロジェクト進行の理想と現実

MKI_FUCHU府中氏は実際に導入プロジェクトを推進してみての気づきを、次のように語りました。

まずDiscoveryフェーズで、現場のユーザーとSAP S/4HANA Cloudのコンセプトを理解して統一させておくことが重要でした。続くPrepareフェーズとExploreフェーズでは、開発などを行わなくても、あらかじめ提供されているデモ環境でSAP S/4HANA Cloudをすぐ動かすことができ、次のフェーズに進む判定基準が明確だったといいます。一方で、RealizeフェーズやDeployフェーズでは、提供ツールに日本と欧米との考え方の違いなどがあり、決められた制約の中で進める必要があります。また、周辺システムと連携するためのインターフェースはSAP方法論の対象外のため、自社で技術検証などを行いながら進める必要があります。最後のRunフェーズでは、四半期ごとのバージョンアップに備えた自動テストツールが運用に役立つといいます。

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オンプレミスのテスト環境では、クライアントやインスタンスを論理的に分けてテストを行えますが、SAP S/4HANA Cloudでは同じような感覚でクライアントやインスタンスを複製することはできず、会社コードをテストごとに分割し、苦労しながら進める必要があったと府中氏は話します。また、テスト環境で使われるQ-Systemは本番環境ではないためSLA対象外となり、土日の作業に影響が出ることも考慮しておかなければなりません。

府中氏はさらに、パブリッククラウド型のERP製品のコンセプトを全員が理解するまでにかなり時間を要したこと、現行のSAPが持つ機能のなかにクラウド版では使えない機能があったこと、SAP Cloud Platformで行えると考えていた他ツールとの連携やインターフェース開発に各種APIが不足していたこと、SaaSサービスでも365日24時間利用可能ではなく、メンテナンスのダウンタイムが発生することなどを挙げています。これらを踏まえたうえで、プロジェクト開始前にユーザーの理解度に応じて、時間をかけた準備と計画立案が必要となります。

プロジェクト関係者の「考え方改革」の重要性

MKIはトップダウンでSAP S/4HANA Cloudへの移行を進めてきました。社内でも経営側は「将来を見据えた変革」を重視するのに対して現場は「現在の業務の効率化」を優先するなど、相反する立場にあります。そのため、プロジェクトを進めるには相互の理解が不可欠といえます。

最後に府中氏は、MKIが基幹システムをグローバル標準にする意味について、「市場変化に素早く対応可能な基盤」「SAPによる最新テクノロジーの活用」「海外企業との競争」の3つを挙げています。Fit to Standard の導入が最適となるSAP S/4HANA Cloudは、これまでのSAP ERPの延長線上で導入できるものではありません。府中氏はプロジェクトの円滑な遂行には経営、プロジェクト推進部門、現場の意識を統一し、SAPの強力な支援が必要となることをあらためて強調し、セッションを締めくくりました。

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