【サプライチェーン統合計画変革サミット】基調講演レポート


SAPジャパンは11月26日にサプライチェーン統合計画変革サミットを開催しました。本レポートはゲスト基調講演スピーカーとして登壇されたシスメックス株式会社執行役員SCM本部長 小野 隆氏による講演「シスメックスのサプライチェーン改革について」をレポートします。

シスメックス 執行役員 小野隆氏

(シスメックス株式会社 執行役員SCM本部長 小野 隆氏)

臨床検査機器や検査用試薬ならびに関連ソフトウェアの研究開発、製造、販売、サービスを行い、世界190以上の国や地域でビジネスを展開するシスメックス株式会社。現在、安定供給とスピード、利益貢献を両立できるよう、サプライチェーンをデジタル化し、業務効率の向上を目指しています。

ロングライフサイクル商品をサプライチェーンでどう扱うか

小野氏の講演は、まず、「臨床検査の専門メーカーとして、検査機器だけではなく、正確な検査結果を導くための専用試薬とサービスも重要視しています」と、シスメックスのビジネスモデルの紹介から始まりました。

同社では、販売される検査機器の品目は少ないのですが、使用期間は約7~9年で、モデルチェンジは約8年ごととなっています。とはいえ、製品ライフサイクルの後期からシスメックスの検査機器を使ってくださるお客さまもサポートするので、トータルで考えるとライフサイクルは20年近くになるそうです。「そういうロングライフサイクルの商品をどのように扱っていくのかが、私たちのサプライチェーンの大きな課題です」と小野氏。

同社の業績の傾向は、2000年以降、急激に海外の売上げが伸び、現在、検体検査業界でのポジションは世界7位です。一方、小野氏は「競争相手は吸収合併などでどんどん大きくなってきました。そういう相手と闘うには、規模の勝負では勝てません」と語り、シスメックスの長期ビジョンを「特徴のある先進的なヘルスケアテスティング企業」「そのビジョンの達成に向けた、持続的な成長のための重点課題の1つが “デジタル化によるビジネスプロセス改革”です」と紹介します。

シスメックス講演資料#1

(講演資料より抜粋)

グローバルでの競争優位を目指し、サプライチェーンを改革

シスメックスのものづくりについてのポリシーを「検査機器は国内生産とし、徹底的に品質を追求します」と小野氏は語ります。そして、検査機器のサプライチェーンについて、「加古川の基幹工場でコンテナに詰め、そのまま神戸港に直送することで、輸出のリードタイムを2日短縮しています」と紹介しました。それに対し、検査試薬のサプライチェーンは、「安定供給と輸送コストやリードタイム削減のため、世界8カ国にある10工場で生産し、地産地消の生産体制を維持しています」と、検査機器との違いを語ります。

ここで小野氏は、サプライチェーンにおけるグローバル展開の経過を紹介しました。「1990年代前半から海外への直接販売を段階的に展開してきました。それに伴い、取引条件も従来の代理店との間のFOB取引から、現在のDAP中心の取引に変わってきました。しかし代理店との取引が中心だった時代の、日本の港から出せさえすれば日本側の仕事は終わり、海外側も日本から送ってくれさえすれば、という考え方・仕事の進め方が今も残っています。デジタル化をなぜ進めないといけないのかは、こういった過去からの経緯と関連があります」。また同社では、2012年度からサプライチェーンの再構築を進めるため、「輸出物流の改革」「国内物流の改革」「機器在庫管理の改革」「梱包の改革」に取り組みました。「その目的は、グローバル分野でのロジスティクスを再構築してプロセスを改革し、リードタイムを短縮することです」(小野氏)。

2017年度からはさらに進化した「サプライチェーン戦略」を進めました。安定供給を強化するために、NRI(非居住者倉庫)のネットワーク化を進め、物流と在庫の予実管理を可視化することで「在庫・欠品・ロジコストの削減」を目指しました。また、グローバルなコールドチェーンの確立、梱包設計の責任部門としての輸送効率と品質向上、サービスパーツマネジメントの抜本改革にも取り組みました。「そこで目指したのは、顧客やコスト、品質を最適化し、グローバルにサプライチェーンを構造改革することです。さらに、事業戦略に応じた高効率・高品質なサプライチェーンで、競争優位性を発揮することです」と小野氏は語ります。

シスメックス講演資料#2

(講演資料より抜粋)

サプライチェーンをデジタル化し、世界で戦う

これまで行ってきたデジタル化の取り組みについて、小野氏は「日本発の革新的な取り組みを、海外現地法人が市場ニーズに合わせて発展させてきました。その背景には、臨床検査結果の精度保証をシスメックス自身が行ってきたことと、広大な海外市場でお客さまを効率的にサポートする必要性が高まってきたことがあります」と振り返ります。

同社が目指すサプライチェーンの姿は明確になっていながら、小野氏は「これまでの改革の延長では、将来的にサプライチェーンが事業成長の足かせになるのではという危機感があります」と語ります。そこで、「世界で勝っていくためにサプライチェーンをデジタル化し、劇的に変える必要があるのです」(小野氏)

あらためて小野氏はシスメックスの事業の特徴を「海外売上比率が高い」、「直接販売地域が増加している」、「機器の日本生産にこだわっている」、「グローバルでの需要変動が大きい」、「試薬中心に物量が多い」、「センシティブで冷やすことが必要な遺伝子やタンパクなどの新領域へ挑戦している」ことと説明します。そうした特徴を踏まえて、「在庫を前線に持つ補充型供給」、「グループ内在庫の一元管理」、「短いリードタイムでの生産・輸送」、「高い生産性」、「コールドチェーン」などをデジタル化で実現していきたいと、小野氏は展望を語ります。

現状の課題について小野氏は、「グローバルに開発や製造、販売、サービスをすべて自前で提供しているにも関わらず、バリューチェーンが分断されていて、情報が有効活用できていません」と語ります。そして、サプライチェーンのデジタル化の対策につき、大きく2つの業務に分けて説明しました。まず、「計画系」の業務として、「サプライチェーン全体の情報を掴んで全体最適な計画を立てる」「リアルタイムの情報を掴み、業務サイクルと意思決定を早める」「情報の定義を合わせて事実を正しく掴む」などが挙げられました。そして、「実行系」の業務として、「情報を電子化する」「手作業を削減する」「電子化情報を繋ぎ合わせることで情報の探索を高速化する」などが挙げられました。そして、生産やサプライチェーン領域も、デジタル技術をフル活用することで、「高速業務サイクル」「グローバル全体最適」「生産性向上」を実現し、「コストバリュー」と「ネットワークバリュー」を得ようとしていることを小野氏は紹介しました。

※シスメックス株式会社がSAP S/4HANAなどと併せてサプライチェーンのデジタル変革を目指して導入を進めるSAP IBP (Integrated Business Planning) の概要についてはこちらをご覧ください。

変革に向けて「新生産方式」を導入

変革に向けた取り組みの事例として「新生産方式」の導入が紹介されました。これまでは、3~6カ月先の販売予測を起点に、原材料調達からスタートする見込み方式になっていました。この方式では、「調達」「中間品生産」「完成品生産」といった生産工程が、直列型で繋がっています。

一方、変革後は、納期が長い部品を在庫として確保し、短い納期の部品に合わせて生産することにしました。これによって、直列型で繋がっていた生産工程が並列型になります。さらに「在庫を販売のためのバッファ」として再定義し、「シスメックス流ダイナミックバッファマネジメント」をサプライチェーン全体で導入するとのことです。「このような変革によってシスメックスは、在庫を50%、売上高物流費比率を20%削減し、海外地域統括拠点への供給は1週間以内という高い品質サービスレベルを目指します」(小野氏)。

最後に小野氏は、「デジタル化によって、距離や時間などのフィジカルな制約を緩和し、必要な情報を即座に入手して、熟慮に基づく正しい判断で迅速に行動するサイクルを回します。そうして、お客さまに感動していただけるサービスが提供できることで、初めて当社のミッションである『ヘルスケアの進化』が実現できると考えています」と述べ、講演を終えました。

シスメックス講演資料#3

(講演資料より抜粋)

講演終了後には、SAPジャパン株式会社デジタルサプライチェーン&ものづくり事業部長の中西圭一郎によるQ&Aの時間が設けられました。その中で、「ビジネスモデルを改善する際には、組織や意思決定プロセスの変革も必要なのか」との中西から質問に対し、小野氏は「例えば、サービス部門とサプライチェーン部門が協力し合うことで面白いことが起き、そこで新しいチャンスが生まれると思います」と協力や情報共有の意義を強調しました。「今後サプライチェーンマネジメントに関わる人材に必要な素養はなにか」との問いへの答えは、「地道に業務を進める中でも、先進的なものに興味を持ち、世の中の動きを見られる人が重要です。サプライチェーン部門は様々な先行指標を見ることができるポジションです。だからこそオペレーショナルエクセレンスだけではなく、経営に貢献できる価値が創造できる人材が求められています」と広い視座の重要性を上げました。

最後に、いっしょにデジタル変革を進めるSAPへの期待について小野氏は「将来性とグローバル市場での実力を考えるとSAP以外は思いつかなかった。SAPには今後もパートナーとしてシスメックスのデジタル変革を強力に支援して欲しい」と大きな期待を語りました。

質疑応答風景

(SAPジャパン 中西の質問に答える小野氏)

その他のセッションも含め、本サミットは深くサプライチェーンの変革について知り、考える機会となりました。

※シスメックス株式会社がSAP S/4HANAなどと併せてサプライチェーンのデジタル変革を目指して導入を進めるSAP IBP (Integrated Business Planning) の概要についてはこちらをご覧ください。