Why Digital Matters(なぜ、デジタルなのか)? 日本企業だけがデジタルの力を使いこなせていない理由とは


企業経営がグローバル情勢と切り離せない現在、今まで以上にスピード感のある決断、実行、そしてイノベーションが求められています。しかしここで痛感するのが、日本企業の活躍が以前ほど見られないという現実です。なぜ、日本だけが世界の経済成長から取り残されているのでしょうか。
 
2019年10月に開催されたイベント「SAP NOW Osaka」では、この問いに答えるべく、SAPジャパンのIoT/IR4ディレクター村田聡一郎が国内外の現状を掘り下げ、日本企業のあるべき姿を考察しました。

イベントの冒頭には、SAPジャパン社長の福田譲が登壇。7月に東京で開催されたSAP NOW Tokyoでの講演を踏襲してSAPのスポーツ向けソリューションや「インテリジェントエンタープライズ」を目指す企業の取り組み、SAPが注力するエクスペリエンスデータ(Xデータ)の活用などを紹介し、データ活用の重要性を改めて強調しました。

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日本的経営の勝利の方程式が時代遅れに

SAPジャパン IoT/IR4ディレクター村田聡一郎

SAPジャパン
IoT/IR4ディレクター
村田聡一郎

SAPジャパン社長に続いて登壇した村田は、2018年に『Why Digital Matters? “なぜ”デジタルなのか』(プレジデント社)を出版するなど、今回のテーマに以前から取り組んできました。「なぜ、日本企業に比べて外国企業のほうが、ITを活用して軽々と生産性を伸ばしているように見えるのか?」に疑問を覚えて調査を開始した村田は、日本企業の弱点について2つの仮説を立てました。
 
 
 
 
 
 

【仮説1】日本企業は「ヒトの力、社員の現場力を最大限に活かす」ことで世界 No.2 にまで上り詰めたが、今やその成功体験がアダになっている

日本企業の経営陣が「貴社の強みの1つは現場力だと思うか」と質問されたら、ほぼ100%の人が同意するのではないでしょうか。しかし、それが成長につながっているのでしょうか。ここで村田は、主要国の名目GDPの伸び率をグラフで示しました。

1990年を起点に計算すると、アメリカの名目GDPは3.4倍になるなど各国が大きく成長した一方で、日本は1.2倍と低迷しています。2000年を起点に計算しても、アメリカやカナダが2倍に成長しているなか日本は1.06倍(6%)です。もちろん、中国やインドの成長率がそれを上回っていることは言うまでもありません。

もう1つ、「国民1人あたりGDP」の世界的な順位を見てみます。すると、2000年に2位だった日本は、2017年に25位まで急落。これだけでは日本の経済が落ちているように思えますが、それは正しい認識ではありません。「国民1人あたりGDP」をランキングではなく金額ベースで見てみると、日本の金額はほぼ横ばいです。製造業の労働生産性を調べても同様です。

労働生産性のグラフ

製造業の就業者1人あたりの労働生産性の推移を実額で見ると、日本は落ちているというよりは伸びていないのに対し、諸外国の伸びは著しい

「日本の現場力は低下しているのではない。変わっていないので生産性が横ばいなのです。これが、世界に後れをとっている理由の1つです」と村田は明かします。その背景にはデジタル化への遅れがあります。日本企業の強みは「現場力の強さ」にあると誰もが考えてきました。確かに90年代半ばまでの高度成長期、このことは紛れもない事実です。ところが、2000年以降にWindows PCが普及したあたりから、ヒトの代わりにデジタルに仕事をさせることが可能になってきました。

「ヒトと違ってデジタルは疲れません。デジタルは間違えないしサボらない、ストライキもしないし賃上げも要求しません。日本のように現場力に頼ることができない欧米の経営者は『これは非常に魅力的だ』と考え、一気にデジタル化を推し進めました。一方で日本の経営者は、IT導入による効率化が『人員削減』とほぼ同義に扱われてしまう社会的な風潮もあり、従来の『ヒトの力』に固執してしまったのです。日本的経営の過度な現場力重視が今ではアダになっています」(村田)

【仮説2】フィジカルとデジタルの違いがほとんど認識されていないため、「スジの悪いIT」がはびこっている

生産性を高める方法について、世界の一般的な考え方は「人を増やすか仕事を減らすか。どちらも無理なら仕事をデジタルに肩代わりさせるしかない」というものです。世界の企業がデジタル化で生産性を高めるなか、日本企業は残業代の規制や社員の意識改革などで生産性を高めようとしてきました。しかし、意識改革で変わる程度の変化は知れています。人口減少も進むなか、「現場力」一辺倒はもはや限界であり、デジタル化しか打開策はありません。

ところで、デジタルとは何でしょうか?村田は「デジタルの対語はフィジカルです。ヒトもフィジカルの1つ。デジタルは、フィジカル世界では考えられないほど超高速で作業を行います。デジタルは複製しても劣化しません」と特徴を挙げます。

デジタルとフィジカルではコスト構造にも大きな違いがみられます。フィジカル世界では、1つ目を作る時に初期費用がかかり、2つ目を作る時にも一定のコストが発生します。一方のデジタル世界では、初期費用がかかるのは同じですが、2つ目を作るコストは事実上ゼロです。

フィジカルとデジタルのコスト構造の違い

フィジカルとデジタルのコスト構造の違い

「デジタルは一度作ってしまえば複製するコストが限りなくタダになる」ということは、企業が使うソフトウェアも、オーダーメイドよりも汎用品を利用した方がコストを抑えられます。汎用品は工数をかけていても、メンテナンスも含めた労力を多くの企業で分担できるという考え方のため、その点でもメリットがあります。

これらを踏まえ、村田は次のように語りました。「デジタルは自社で作ったら負けで、誰かが作ったものを使うのが勝ち。もちろんヒトもデジタルも両方をバランスよく活用しなければなりませんが、多くの日本企業がデジタルの特徴を理解できていない。それが、デジタルイノベーションに乗り遅れる結果につながっています」

デジタル前提のビジネスプロセスを構築しカエル跳びで一気にインダストリー4.0へ

日本だけが世界の経済成長から取り残されていることについては、経済産業省も警鐘を鳴らしています。通称『2025年の崖レポート』が指摘するように、日本企業の既存システムが事業部門ごとに構築されているため、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰にカスタマイズされていたりすることで複雑化・ブラックボックス化されています。その結果、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると懸念されています。

こうした懸念を払拭するためには、ヒトが行う前提で最適化されたビジネスプロセスを、デジタルが行う前提で最適化されたビジネスプロセスに転換することが不可欠です。これが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。

一方、日本においても、生産的な働き方をシステムが支援する「インダストリー4.0」を目指す企業が増えてきました。ということは、現在の日本企業は「3.0」の状態にあるのかと思いがちです。しかし、「多くの日本企業は現在、2.5の状態。3.0にすら行けていない」と村田は指摘します。

インダストリーX:各レベルの状態とは、以下のようになります。
【2.5】部門別にシステムが作られ、部門間の調整はヒトが行っている
【3.0】部門間のシステムが連携している
【4.0】自社システムが顧客と接点を持ったり、スマート工場と連携したりしている

実は日本は「2.5」→ただしそれは、カエル跳びのチャンスでもある

実は日本は「2.5」→ただしそれは、カエル跳びのチャンスでもある

このような現実に直面するなかでも、村田は逆にチャンスだと考えています。それは「2.5」の企業は一気に「4.0」を目指せばよく、ERPがそれを助けてくれるからです。そして世界で「4.0」を実現している企業の好例として、中国の自動車部品メーカーHasco Vision Technology、BMWなどの業務改革を挙げて解説しました。

「サッカー界で20世紀に活躍したヨハン・クライフという名選手をご存知でしょうか。華麗なプレイスタイルで『空飛ぶオランダ人』とも呼ばれました。彼が残した名言の中に『ボールを走らせろ。ボールは疲れない』という言葉があります。この表現を現代のビジネスに当てはめると『電子を走らせろ。電子は疲れない』と言うことができるのではないでしょうか」と村田はDX時代に相応しい考え方を提示し、講演を締めくくりました。


SAP NOW Osaka: オープニングキーノート


 
 

SAP NOW Osaka: Why Digital Matters? “なぜ”デジタルなのか