「8KとAIoT」で世界を牽引するシャープの事業変革を支える国内ERP統合
作成者:SAP編集部 投稿日:2020年2月17日
シャープ株式会社は、「8KとAIoT*で世界を変える」を事業ビジョンに掲げ、卓越した品質のモノやサービス/ソリューションを提供する企業へと事業変革を進めています。2019年10月に大阪で開催されたイベント「SAP NOW Osaka」には、同社のIoT事業本部 クラウドソリューション事業部 事業部長の柴原和年氏が登壇。シャープの事業変革を支えるSAP ERPシステム統合の事例を中心に、最新の取り組みとプロジェクトの工夫について語っていただきました。
*AIoT:AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を1つにした造語
最先端技術に挑み続けるハイテク企業のIT内製化の狙い
2019年、「8KとAIoTで世界を変える」を事業ビジョンとして発表したシャープ。8K技術でさまざまなイノベーションを巻き起こし、人々の暮らしを変えていくとともに、AIoTで身の回りの機器が人に寄り添い、新しいパートナーとして生活をより豊かにしてくれる社会の実現を目指しています。
8Kはフルハイビジョンの16倍の解像度により、圧倒的なリアリティを実現します。シャープは自社の超高精細映像技術を核にして、テレビやカメラなどの機器を通じて医療やセキュリティ、工場、教育など幅広い分野においてパートナーと連携する8Kエコシステムの開発を進めています。また、AIとIoTに対応したAIoT機器がヒトや環境の変化に気づき、考え、インターネットを通じてさまざまなサービスを展開することにより、スマートホームやスマートオフィス、スマートシティなどの創出に貢献します。「既に自社のデータセンターに『AIoTプラットフォーム』を構築し、約300の自社機器だけでなく、警報機やシャッターなど他社機器とも連携しています」と柴原氏は語ります。
柴原氏が率いるクラウドソリューション事業部はIoT事業本部の傘下に位置し、これらの事業ビジョンを技術面で支えています。ITを活用したオフィスソリューションサービスを社内外に提供する同事業部が掲げたのが、「IT内製化」です。
「以前は『社内にIT専門家などいらない』と考え外部の業者に任せていました」と柴原氏は振り返ります。しかし現在は、外部のデータセンターから全ての機器を自社データセンターに移行させ、できるだけ自分たちで汗をかいて仕組みを作っています。そこには、内製化によるコストの削減と、社内にノウハウを蓄積させていずれは外販して収益化を図るという2つの狙いがありました。
「ここ3年間は1円以上の取引全てを会長決裁にして取り組んでいます」と、ITコスト削減に対するシャープの姿勢は極めてストイックです。さらに、社内のシステムをSAPに統合する過程もコスト削減の機会と捉えています。例えば、社内の各部署がバラバラに類似のパッケージソフトウェアを使っていることが分かったため、SAPソリューションに集約するか、オープンソースのソフトウェアを使う方針を徹底。その他にも、PC購入など各部門が個別に行っていた契約は、IT部門が一括契約して価格交渉力の向上を図るなど、スリム化を進めています。
柴原氏は、コスト削減と同時に社内にノウハウを蓄積させることも考えました。例えば、13台あったIP PBXが老朽化したので、汎用サーバー上にソフトPBXを作り、スマホアプリを開発することで内線電話を内製化。この取り組みは、ノウハウを蓄積させると同時に、外出先でも通話できるなど社内ユーザーの利便性向上にもつながりました。また、オープンコミュニケーションの取り組みの一環として、ビジネスチャットや、チャットを活用したテレビ電話の仕組みなども開発し、社内における議論のスピードアップやコミュニケーションプロセスの軽減にも成果を上げています。
「One SHARP」の方針のもと事業の枠組みを超えてシステムを全体最適化
シャープは1998年頃から拠点ごとにSAPシステムを導入し、2004年頃には海外を含めて60拠点で利用するようになりました。現在は各拠点にあるSAPシステムをバージョンアップしながら統合作業を進めています。その背景について柴原氏は、「One SHARPの考えに基づき、独⾃開発のアドオンを最小化して、全体最適を実現する方針へと転換しました」と語ります。
過去の同社のSAPシステムは、ある導入拠点のシステムを次の拠点にコピーすることで拡張されてきました。順番に導入が行われれば問題ありませんが、同時に複数拠点に対応する必要も出てきたため、違うバージョンのシステムが点在するようになってしまったと柴原氏は振り返ります。その結果、保守対象となる機能数が増大し、バージョンアップ工数も増え、複雑化していきました。こうした反省を踏まえて現在は、シンプル化した業務をSAP標準機能と共通アドオンで共通テンプレート化し、同じプラットフォームで運用。事業部ごとに必要な機能が異なるため、そこはオプションとして選べるようにしています。
さらに、仕入先コードなど、重複しているマスタ・コード値を解消し、品目タイプや基本数量単位などの整合性を確保。外製先余剰在庫を考慮した部品所要量計算はSAP標準機能を活用しています。また、原価計算の基準が各事業所でバラバラだったため統一するなどの取り組みも進めました。その結果、保守コストが半減し、1,500~1,600に上っていた全体のアドオン数を1/3近くの400本弱まで軽減できたといいます。
システム共通化を通じて自発的な取り組みを促進
システムの全体最適化を推進するにあたって、もっとも苦労したのはシステムを統合する理由について、現場をどのように説得するかということでした。各事業所では自分たちで築き上げてきたシステムがきちんと動いているという意識が強かったためです。しかし柴原氏は、「全社最適化をして組織が変革しようとしている中、事業所が個別にシステムを作っている時代ではない」と言い切っています。
またシステム統合を成功に導くため、プロジェクトメンバーの意識づけに「10箇条」を掲げたといいます。例えば「業務のシンプル化とシステムの簡素化の実現」や「現状維持志向から改革志向へ」といったキーワードを掲げました。印象的だったのは「『今と同じ』『現行保障』の発言は禁句」です。
システムの共通化を進めるにあたって、同社はある工夫を行いました。どの事業所がどれだけ共通機能を使っているのかを定例会議で発表し、事業所間で達成度KPIを競争させる仕掛けをもうけたのです。結果的には、システムの全体最適化が図られ、一番反対していた事業所でも80%の標準機能を利用するまでになったといいます。
最後に柴原氏は、シャープが社内で活用するさまざまなオフィスツールについても紹介しました。ビジネスコミュニケーションにチャットやWeb会議、AIチャットボット支援などを活用することで、フラットな議論を促し、ひいては組織全体の力を底上げしていく方針です。さまざまなツール群の活用がビジネスコミュニケーションをさらに活性化し、「One SHARP」を後押ししていくことになります。