デジタル革命(DX)が農業のビジネスモデルさえ変えていく


世界最大級のエレクトロニクス関連見本市「CES 2020」でトヨタ自動車が静岡県裾野市にスマートシティを作ると発表し、話題になりました。少し前まで、日本でスマートシティというと、不動産会社が行うイメージがありましたが、国内では今回のトヨタ、そして海外ではGoogleの親会社Alphabetの傘下にあるSidewalk Labsが、カナダのトロントにスマートシティ構想を打ち立てるなどしています。

このスマートシティの流れを見ても、デジタル変革(DX)が加速する中で、産業の壁というものは徐々に意味をなさなくなってきていることがよくわかります。デジタルは業界と業界の隙間を埋めてしまいます。これまで大きな川が流れて誰もたどり着けないと思われてきた隣の業界にも、すんなり入り込むことができてしまうのです。

結果として、デジタル変革(DX)が起きる前と起きている現在では、企業の戦い方、勝ち筋というものも変わってきます。例えば、その昔、日本の音楽業界がその業界内で各社がしのぎを削っている間に、AppleのiTunesが全てを持っていったように、企業や産業の壁を越えた戦い方が求められます。今回はその中の事例として農業についてご紹介したいと思います。

農業のデジタル変革

領土拡大とは異なる戦い方で新たなビジネスを生み出したモンサント

世界的な種子・農薬企業のモンサント(2018年6月バイエルにより買収・吸収)は化学肥料市場から、遺伝子組み換え作物へ視点を変えて急成長。2008年にはビジネスウイーク誌が選ぶ世界で最も影響力がある10社にも選ばれましたが、その後は強引な経営手法から批判の的にもなります。

モンサントは化学肥料市場を伸ばすために、種苗市場へ視点をスライドさせました。肥料と種苗は農業界の異なる業種ですが、育てる種と肥料の相性を最大限にマッチさせるのであれば、双方に関わることが得策です。そこで、モンサントは遺伝子組み換え作物を推進していきました。これで同社は飛躍的な成長を遂げます。

この成長の方法は業界内の業種を一つひとつ奪っていく戦い方です。いわば平面上の領土拡大。M&Aも含め、戦い方としては以前からあるもので、その成長は拡大した領土分となり有限です。このことに気づいたのか、モンサントは2013年に新たな戦い方をします。それが、農業プラットフォームサービスのClimate買収です。同社のサービスはデジタル技術による農業経営、生産管理。モンサントは同社を9億3000万ドルで買収(2013年)し、次のようにリリースしました。

「自身の種子や農薬などのコアビジネスを超えて200億ドルの収益機会がある」*1

つまり、リアルにおける同一業種内の平面的な戦い方から、サイバー空間という異なる次元と自分たちの業種を組み合わせて、新しい仕組みを作り出したのです。その仕組みとは、自社を食料供給のソリューション提供企業へと変えること。領土拡大ではなく、自分たちの立ち位置を変え、ゲームのやり方を変えてしまう手法をとったのです。

デジタル化以外にも、新しいビジネスモデルを生み出すDX

化学肥料や種苗の業種で戦ってきた同社が、業種の垣根を越えたソリューション提供企業に変わるとどうなるのでしょうか? Climateを通じて、これまで同じ業界でも異なる業種であった農業機器の製造・販売大手のAGCOとデータの相互接続をしたり、農機具メーカーのJohn Deerのオペレーションセンターと相互接続をしたりといった組み合わせが次々と起きていったのです。この組み合わせから、農地の肥沃度管理や区画ごとの収量分析、地域の気象データ確認などの作業を一つのプラットフォーム上で行うことができるデジタル農業技術ソリューションを提供しています。

さまざまな人や国、企業がモンサント・Climateと相互接続し、価値を高めていく中で、農業生産者はますますClimateを利用することになります。そしてClimateの利用が促進すれば、そこに集まるデータを基にモンサントや他の企業はユーザーに満足度の高いサービスや製品を提供していけます。つまり、大きな円を描くエコシステムが生まれます。

裏を返せば、1つの企業が見いだしたエコシステム(この場合は食糧供給のエコシステム)に参入できる、できないがビジネスの成否を分ける時代になりつつあるともいえます。モンサント・Climateのエコシステムに参入できる企業はともに成長でき、そうでない企業はともに成長できない。

これはAPI*2エコノミーの考え方にも近いといえます。APIエコノミーでは、自社の機能をAPIとして部品化し、その部品をプラットフォームやエコシステムの中に組み込んでもらう。ないしは、エコシステムを創出し、その中で自社と他社のAPIを活用する。前者はClimateに対するAGCOやJohn Deer的な取り組みで、後者はUberやAirbnbなどのAPIを使いこなしてサービスを提供する企業などが挙げられます。

デジタル変革(DX)は、企業の内部をデジタル化するといった一次的なものだけではなく、会社や経営そのものを大きく変えていくきっかけになります。DXが、新しいビジネスモデルを生み出していくのです。

*1 モンサントWebページより
*2 API(Application Programming Interface): ソフトウェアコンポーネント同士が互いに情報をやりとりするのに使用するインタフェースの仕様

著者:中村祐介 Yusuke Nakamura
大手新聞社系記者職を経て、株式会社エヌプラス代表取締役。デジタルとデザイン領域のビジネスコンサルティングやマーケティング戦略立案を行うほか、自らも事業を行う。個人としては、複数のビジネス系大手オンラインメディアのオフィシャルコラムリストや一般社団法人おにぎり協会の代表も務める。