ウイルス拡大期における人事部の重点アクション

作成者:樋口 将嘉 投稿日:2020年4月8日

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新型コロナウイルスの蔓延リスクが日に日に高まっている昨今、企業経営者の皆様はどのようにこの難局を乗り越えていくべきか、またどのように従業員の健康を守っていくかに頭を悩ませていらっしゃいます。

また、東京をはじめ大都市圏では緊急事態宣言の対象地域として、自宅待機・リモートワークが余儀なくされています。先々どれぐらいの期間このような状況が続くのか、世界中の誰もが手探りの中、人事部の皆様としては従業員の心理的不安も高まってきている点を忘れてはなりません。

本稿では、人事部の皆様がどのように従業員の皆様の健康・安全を保ちつつ、不安を取り除きながら業務生産性を落とさないようにガイドしていくべきかについてご紹介します。

(目次)

  1. 対応策の時間軸
  2. ウイルス拡大期の重点アクション
    A) 社内対応体制の確立
    B) 社員の安全・健康対策
    C) リモートワークの環境整備
    D) コミュニケーション支援
    E) 仕事の優先度・進め方の見直し
    F) 人事部としての継続対応

 

1. 対応策の時間軸

諸外国での急激な拡大を目の当たりにしている日本においては、このままさらに強い規制がなく、ピークコントロールが国レベルで順当に進むことを願うばかりです。しかしながらグローバルでのビジネスを遂行している企業様にとって、また国内中心の企業様であっても、先々に必要となろう対応策を思案し都度実行していくことは、事業継続性の面でも最重要であることは論を待ちません。

ウイルス拡散とともにどのような事業変化が求められるのか、それに追従してどのように組織を動かしていくべきかについて、今ほど人事部の力量が試されることもないともいえるでしょう。

外部環境変化と自社の対応を正しく連動させるためには、状況変化の段階を明確に分類しておくことが必要です。本稿では、(表1)のように状況変化を3つのフェーズ、6つのステップに分け、拡大期において人事部が取るべきアクションについて後述します。

(表1)表1

 

2. ウイルス拡大期の重点アクション

本稿執筆時の現在(4月6日)、全国的に見るとステップ2から3へ移行するかどうかという状況であると言えます。自粛がうまくウイルス拡散を抑え込めれば、ピーク期を飛ばしてステップ5の収束期へと進めるのですが、今後ステップ3へと進んでいかざるを得ない状況となることも視野に入れておく必要があります。

このような状況下で、人事部が中心となり全社で対応を進めていく際に必要となる6項目について、掘り下げて記載します。

すでに各社様においては対応策を検討されていると思われますが、チェックリストとしてもご活用いただければ幸いです。

 A) 危機管理委員会の確立

ウイルス対策は、過去に経験した地震や台風などの局地的災害とは異なり、全国・全世界での状況が刻一刻と変化し続けます。

そのような状況の中で、現地情報をタイムリーに集約し正しい判断を行うためにも、社内において「危機管理委員会」を明確化し、情報集約と発信の一元化を行うことが重要です。

具体的には下記のような対応が必要となります。

  • 「危機管理委員会」の設置検討:役員会レベルで社長直轄の危機管理委員会を設置することを承認。CHROはメンバーとして参加が必須。
  • 「危機管理委員会」の社内周知:危機管理委員会から社員に対して、「健康第一」であることを周知するとともに、情報の集約と周知方法を説明
  • 「危機管理委員会」の対外コミュニケーション検討:社員が罹患した場合など、対外的にどのようにコミュニケーションをとるべきか、広報とも連動して方針を事前検討

 

B) 社員の安全・健康対策

ウイルスに罹患しないための対応方針を社員に明示するとともに、社員のご家族についてもあわせて配慮し、明確な指示を早め早めに出すことが必要となります。

 海外赴任者への対応はすでに峠を越えていると思われますが、それらを含めて下記のような対応が必要となります。

  • 海外駐在員への対応:各国・各都市の状況にあわせた自宅待機指示や帰国指示
  • 海外出張の運用変更:出張停止の対象国と時期の明示
  • 国内出張の運用変更:出張停止の対象地域と時期の明示
  • 通勤/出社の運用変更:各地域の状況に応じ、拠点毎にて自宅勤務とするかどうかを判断。場合によっては同一拠点内でも部署毎に出社を可とするかどうかを判断。勤怠管理方法やリモートワーク環境整備とも同期をとる必要あり
  • 新入社員の受入:新卒社員や中途社員について、どのタイミングでどのように受入を行うべきかを判断。場合によっては初日からリモートワークとなる場合も想定する
  • 社員連絡網の確認:社員に対して緊急連絡を行う必要がある場合の方法について事前確認(メールで周知できない社員がいる場合には特に準備が必要)
  • 罹患可能性のある社員に対する対処:社員からの体調変化申告をどのように会社として行うか(強制力を持たせるか)、また医療機関/保健所との連動方法について事前検討

 

C) リモートワークの環境整備

自宅勤務をまったく準備していなかった場合、IT部門からのPC利用方法・社内システムアクセス方法のガイドラインが出されるものと思われます。

ここでは、そうしたリモートワーク環境が整備される中で、人事部として検討すべき事項をとりまとめておきます。

  • 働く場所のガイドライン:自宅勤務が主である中で、様々な理由で集中して業務を行うことが難しい場合、サテライトオフィスやレンタルスペース、カフェなどを利用してよいのかどうかのガイドラインが必要(3密接触を防ぐ意味でのガイドライン)
  • 勤怠管理の運用変更:どのように時間管理を行うのかのガイドラインが必要(特に出退勤を打刻で行っていたような場合)
  • リモートワーク環境活用のための費用支援:業務を遂行する上で必要となる通信費についての補助、場合によっては機器の購入費についての対応ルールが必要

 

D) コミュニケーション支援

異なるロケーション間で協働作業を行うことに慣れていない社員(管理職層も含む)に対し、どのような点に気を付けてコミュニケーションを行うべきかを人事部としても明示する必要があります。

リモート会議システムなどの利用方法というテクニカルな面のみでなく、生産性を落とさないためのコミュニケーションルールについて、各種ガイドラインが必要となります。

  • 定時ミーティング:各チームでどのような手法でどのような頻度で定時ミーティングを行うのが効率的かをガイド
  • 上司・部下のコミュニケーション:面着ではないリモートにおいては、管理者がチームメンバーと如何に1to1でコミュニケーションをとるかが鍵となるため、その手法とタイミング、頻度や確認すべき事項などについてガイド
  • チームメンバー同士のコミュニケーション:面識があるメンバー同士で議論を行う場合の効率的な手法、ファシリテーション方法などについてガイド
  • 社内他部署間のコミュニケーション:自部署以外の方々との連携方法について、メールのみでないオンライン活用をした対話方法についてのガイド
  • 対顧客とのコミュニケーション:お客様(消費者および顧客企業)に対して、どのように非対面でコミュニケーションを行うべきかについてのガイド
  • 対協力会社とのコミュニケーション:事業パートナーの皆様に対して、どのように非対面でコミュニケーションを行うべきかについてのガイド

 

E) 仕事の優先度・進め方の見直し

社員がリモートワークとなることにより、一部生産性が下がる局面があることは否めません。ただし、逆にこのタイミングで「やらなくてもいいこと」を明確化し、リモートでも「やるべきこと」がどのように進捗しているかを把握できるようにすることは、中長期の業務生産性の見直しにもつながります。

人事部としては組織長(事業長、部長クラス)の皆様を支援し、組織目標の再設定・各個人への目標の明示化を支援することが求められます。

  • 組織目標の再設定検討:ウイルス拡大/ピーク期が長く続くことを想定した場合、組織としての目標を変更する必要性が高まります。どのように売上を維持するべきか、コスト削減するべきかなどを組織長と相談の上、タイミングを見計らって新たなる目標に変更する準備が必要です。
  • 個々人の目標の再設定:組織目標が変更となる場合、あわせて個々人の年間目標についても修正が必要となります。一律何%下方修正などというやり方をとるのか、個々の組織目標の再設定状況にあわせて変更するのかなど、個々人の評価につながる目標設定について、変更方針の議論が必要です。

 

F) 人事部としての継続対応

拡大期においては、人事部としては社員の健康状態把握とともに、不安心理を取り除くための取組が重要となります。詳しくは別記事(明日投稿予定)「人事部が「今」取り組むべき“社員の心情把握”」を参照いただき、ここでは主に取り組むべき事項について整理します。

  • 従業員台帳の再確認:従業員(広義では有期契約、パート・アルバイトを含む)について、誰が、どこで、どのように就業しているのかを把握する必要があります。人事システムで管理されている場合においても、リアルタイムの健康状態や就業場所(オフィスか自宅かなど)を把握できるかについて確認することが重要です。
  • 従業員の勤怠管理チェック:リモートワークにおいては就業時間と休憩時間とを明確に区分けしにくくなることを踏まえ、どのように管理を行うか、また残業時間認定についてどのように管理するかの運用チェックが必要です。
  • 社員の心情把握:健康状態やリモートワークにおける働きにくさ、改善要望なども含め、社員がオフィス勤務時と異なる環境で感じる不安要素について、リアルタイムで把握するとともに、迅速な改善対応をとることが重要です。(詳しくは「人事部が「今」取り組むべき“社員の心情把握”」を参照ください。)

 

人事部の皆様は新年度を迎え、新入社員対応や年度末評価、また株主総会の事前準備など非常に忙しい4月を迎えられていると思われますが、今ほど全社員に対して明確な指針が求められている時期もないでしょう。
従業員の皆様にとって、不安な社会情勢の中でも会社が真剣に社員およびそのご家族の健康について配慮し、対策をとってくれていると思えることが、中長期のエンゲージメント向上にもつながります。

本稿で述べた施策は数多くの手立ての一部ではありますが、今とるべき重点アクションが何なのかを整理する一助となれば幸いです。

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