COVID-19対応における行政バックオフィス業務のデジタルトランスフォーメーション


COVID-19に対し、各企業は事業の継続や従業員安全確保などの対応に多くの時間を割いています。政府も厚生労働省を中心に感染拡大防止や患者の早期回復などに全精力をつぎ込んでいますが、同時に、企業活動に制約を受けることにより倒産・廃業のリスクに直面している企業や日々の活動の制約により生活・学習等に困難が生じている国民に対しても様々な対策を打っています。そして、SAPは、この未曽有の危機に対し、ビジョンである「help the world run better and improve people’s lives」の精神に則り、企業・政府が直面する課題に対して迅速に対応するための各種支援を、時には無償で行っています。

本ブログでは、各国政府がCOVID-19対応の企業支援・国民支援に向けて行政バックオフィスのデジタルトランスフォーメーションをどのように進めたかについて、SAPの支援例(ドイツハンブルグ州緊急交付金、日本の特別定額給付金)を事例にご紹介します。

■ドイツハンブルグ州での取り組み(自営業者やフリーランサー向け緊急交付金)

ドイツの連邦政府と州政府は、新型コロナウイルス対策として、500億ユーロ規模の緊急交付金プログラムを決定し、3月30日から申請を受け付けました。打撃の大きい自営業者やフリーランサーを迅速に救済することを目的であり、申請者1人当たり最大3万ユーロが上限であることもあり、ハンブルグ州政府は1週目にハンブルクだけで約10万件の申請が行われると予想しました。この大量の申請を扱うに当たっては、申請者から正確な申請情報を入手し、迅速、安全かつ正確に申請を処理し、確実に交付を行い、ドイツ経済を保護することがとても重要だったのです。

このプログラムの実行に協力するために、SAPはハンブルク州と同州の開発銀行であるハンブルク州投資・開発銀行(IFB Hamburg)向けにデジタル申請プロセスを構築する専門家部隊を配備しました。この部隊は、SAP Cloud Platformを活用して、データプライバシー法(GDPR)の遵守およびポータルのハッカー対策に必要なセキュリティメカニズムを備えた、オンラインで緊急支援を申請・処理できるクラウドアプリケーションを3日間100人日超で開発しました。これで、申請者はPDF形式の申請フォームをダウンロードして入力し、それを電子メールで送信する必要がなくなり、膨大な手間が省けました。また、審査及び振込のバックエンドプロセスと申請受付プロセスを統合し、データの有効性、申請内容が緊急交付金の基準を満たしているかどうかをチェックした上で、振込を行うデジタルサポートも提供しており、ハンブルグ州は自動処理で様々なプロセスを運用できるようになりました。

このように開発・運用開始された緊急交付金申請システムに対し、受付開始から数時間以内に3万8,000人近くのユーザーがポータルに登録し、1万6,500件の申請が提出されています。また、ポータルへの1時間あたりのアクセス件数は20万件にも達したそうですが、遅延なく対応ができています。そして、このような大量の申請に対しても、ハンブルグ州は初日の申請を24時間以内に承認し、援助を必要とする人々に交付金を支給することができました。この事例では、フロントエンドとバックオフィスのビジネスプロセス連携、申請者目線での手続きの合理化を行うことで、人手ではなくデジタルが走る世界が実現し、このような迅速な対応が可能になったといえるでしょう。

■日本の取り組み(特別定額給付金)

我が国では感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行うため、特別定額給付金事業が実施されることになりました。総務省の事業であり、令和2年4月27日時点の住民基本台帳に記録されている者を対象に、世帯主の申請に基づき地方公共団体が支給する運用となっています。

申請はマイナンバーカードを用いた総務省が用意するマイナポータルからのオンライン申請、地方公共団体から郵送される申請書を用いた郵送申請、そして一部の地方公共団体では地方公共団体のWebページから申請書をダウンロードして記入して送付する郵送申請の3種類を組み合わせて行っています。

「マイナンバーがあるからそれを使って給付できないの?」という誰もが思う疑問については、法律の制約により不可能とのことで、さらにマイナンバーと銀行口座は紐づけ管理されていないとのことです。これらの背景により、この複雑な仕組みは下図のような色々な課題を生み出しています。

COVID-19課題

SAPジャパンは「問い合わせ対応をデジタルトランスフォーメ―ションにより支援することで市民の不安解消につながるのではないか」と考え、特別定額給付金問い合わせWebサービスを開発し、地方公共団体向けに無償提供することにしました。5月20日にサービスを運用開始しております。詳細はこちらをご参照ください。

サービス設計にあたっては、湯沢市等がLINE Botで同様のサービス提供を行うのを支援している一般社団法人シビックテック・ラボにご助言いただき、実際の業務フローとの親和性・個人情報の取り扱いなどの考慮点に対応するものにしました。

実際のアプリケーション開発はSAPジャパン社内のデジタルビジネスサービス事業本部のメンバが行いました。「SAP Cloud Platform」を用いることで、短期間で安全性の高いアプリケーションを迅速に開発しており,また、デモ版を通じたUI/UXの確認、要件の実装状況の確認を行ったことで、住民の皆様が使いやすく、地方公共団体の職員の皆様の運用負荷の低いアプリケーションとなっております。

更に、一般社団法人シビックテック・ラボよりご紹介いただきました兵庫県加古川市に相談させていただき、同市でオンライン申請・郵送申請双方で同サービスを利用いただくことを決定し、実際の現場で直面している各種課題の生々しい実態を踏まえた情報提供をいただき、最終段階での詳細仕様の決定にご協力いただきました。

本サービスは全国すべての地方公共団体に無償で提供します。そのための汎用性・使い勝手の良さ(簡易に運用できる・住民は迷わず利用できる)を重視しており、また、迅速にサービス提供し、万一の不具合などに迅速に対応できるためにアジャイル開発方式を採用しております。このように自治体のニーズや直面する課題に即座に対応できるソリューション・サービスを用意できたのもクラウドならではの強みです。

■制約を考慮した段階的なデジタルトランスフォーメーションの重要性

皆様もご理解の通り、デジタルトランスフォーメーションの神髄は、既成の枠を乗り越えること、抜本的に見直すことでしょう。一方で、様々な社会課題は日々変化しており、危機を乗り越えるためには迅速な対応も不可欠であり、既存の枠を超えるのに時間がかかってしまうというジレンマも多数発生しています。

既成の枠の代表例としては、既存システムに機能がない、他の業務とのプロセス連携・システムのデータ連携ができない、データの流れが片方向であり相互フィードバックができない、などがあるかと思います。これらをひとつひとつ着実に解決することはとても重要ですが、このような制約を前提としても、段階的にデジタルトランスフォーメーションを進めることが、社会課題解決にはとても重要であると考えます。

その時にまずやるべきこと、基本となるのは、データの集約・一元管理、可視化です。今回無償提供する「特別定額給付金問い合わせWebサービス」では、申請処理のデータを集約し、可視化することに特化させることで、住民自らが簡単に問い合わせすることを可能にしました。また、自治体職員の方々がアクセス履歴や処理頻度等の情報分析を行うことにより、住民満足度の把握や業務プロセス改善につなげることも狙っています。加古川市のプレスリリースには「加古川市では、一日でも早く特別定額給付金を給付できるよう準備を進めるとともに、申請者の手続き状態を「見える化」させることで、市民の利便性の向上を図ってまいります。」と記載されています。信頼される行政の基本は透明性であり、使い勝手の良い形でデータを管理し、セキュリティを確保した形で共有・公開することが重要です。SAPは様々な形で、制約をも前提とした行政DXを支援し、我が国の社会課題解決に貢献していきたいと考えています。

最後になりますが、本サービスの提供に向けての仕様検討等にご協力いただきました、一般社団法人シビックテック・ラボ市川様、加古川市企画部情報政策課副課長多田様、誠にありがとうございました。

■特別定額給付金問い合わせWebサービスの提供について

本サービスは、全国すべての地方公共団体が無償で利用可能です。標準利用期間は90日間ですが、各地方公共団体の状況に応じて柔軟に対応可能です。

使ってみたいとお考えの地方公共団体の皆様、現在の給付業務プロセスにどのように組み込めるかから相談したい地方公共団体の皆様、ご遠慮なく下記連絡先までお問い合わせください。

SAP_Kyufukin_Toiawase@sap.com

■一般社団法人シビックテック・ラボ市川様からのコメント

湯沢市で先行してLINE Bot版を作成しており、今回その知見・仕様と自治体向けに使いやすい仕組みのアドバイスを、加古川市役所様・SAP様にさせていただきました。この仕組みは、市民サービスの向上・自治体職員の問い合わせ対応削減に繋がるため、是非他自治体への展開されることを期待しております。そして、このような時だからこそ、進められるところからサービスデザインで変えていく、できないことよりできる方法を考える、そのような取り組みを官民連携しながら進めていきたいと思います。

■加古川市企画部情報政策課副課長多田様からのコメント

加古川市では、市民のみなさまに一日でも早く特別定額給付金を給付できるよう作業を進めているところです。
その中において手続き状況をリアルタイムでお知らせすることは、給付事務の透明化にもつながり、職員の問い合わせ業務軽減化にもつながっていくものと考えております。
今回の仕組みについては、SAPジャパン株式会社様ならびに一般社団法人シビックテック・ラボ様の迅速な対応により実現することができました。
この仕組みが加古川市のみならず、さまざまな団体においてご利用いただくことで、特別定額給付金事務に携われている方々の事務軽減への一助になれば幸いです。