変化の激しいユニコーン企業に学ぶ人海戦術との決別


日本でも耳にすることが増えてきたユニコーン企業。非上場ながらも市場評価額が10億ドルを超える企業年数10年以内の企業のことですが、特にアメリカや中国では非常に多くのユニコーン企業が活躍しています。経済産業省のデータによると2018年時点でアメリカには172社のユニコーン企業が存在する一方、日本では1社のみということで国際的に見劣りしていると記されています。ただし日本政府は2023年までにユニコーン企業を20社創出することを目標にしており、昨今の活況な日本企業のスタートアップの動きや、大企業の新規事業を出島で実施するケースが増えている状況からすると、これから急加速に成長するユニコーン企業が出てくるのではないかと期待が高まります。

本稿では、最新テクノロジーを武器にグローバル規模で急速に成長するスタートアップ企業の事例を取り上げ、そこからの学びやアフターCOVID-19での取り組み方にも触れたいと思います。

Magic Leap社

今から約9年前にアメリカ・フロリダで創業したMagic Leap社はMR(Mixed Reality)の領域で世界最先端の技術を武器にマーケットバリュエーションを拡大してきています。
(2020年4月時点でアメリカにおけるユニコーン企業TOP100のリストで20位、市場評価額:66.9憶ドル)

フロリダのみならずカリフォルニア、ワシントン、コロラドとアメリカ国内でも拠点を構えてますがニュージーランド、イスラエル、イギリス、スイスなどグローバルに拠点を構えてビジネスを拡大しようとしてます。2019年には日本進出も目指しNTTドコモから約2.8億ドルの出資を受けたという記事はご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。MRによる臨場感あふれるデジタル体験や、リアルとデジタルの融合による新たなサービスの提供など、5Gが商用化されるタイミングで魅力的なコンテンツがでてくるのではないかとワクワクします。

MRのような最新テクノロジーを武器に、グローバル規模で急速な成長軌道を描くMagic Leap社ですが、まだまだビジネス初期段階のスタートアップです。従業員、組織も急拡大しており業務プロセスも属人的に行うには限界でした。スタートアップならではの俊敏性と柔軟性を保ちながら、大規模でグローバルにビジネスを遂行する能力が求められました。人海戦術では到底なしえない規模に成長してきているがゆえ、企業を支える基盤を構築するプロジェクトが発足しました。構築パートナーのDeloitte社と協力して、企業を支えるインテリジェントな企業基盤の構築がスタートしました。

プロジェクトの目的

Magic Leap社がインテリジェントな企業基盤の仕組みを構築する目的は以下の4点に集約されます。

  1. 人、業務プロセス、ITに関わるコア機能全体のベストプラクティスの確立
  2. 効率的でスケーラブルな統合ERPソリューションスイートを構築して組織の成長を促進
  3. 産業別市場と国の拡大のため、業務システムをまとめたテンプレートを作成
  4. グローバル共通のオペレーション

最新テクノロジーを武器に産業別にMRを活用したソリューションを提供するMagic Leapにとって企業運営を支えるマネジメントやバックオフィスの専門家が潤沢にいないため、世の中のベストプラクティスが詰まった業務プロセス及びシステムを採用してグローバルに展開することになったのでしょう。特にユニコーン企業はテック企業が多く存在してますが、付加価値が高い技術やマーケティングに特化した人材が集まり俊敏かつ柔軟に活動をすることに長けている一方、定型業務が多い業務プロセスはインテリジェンスを付加して極力生産性を上げ効率化することが望まれました。

プロジェクトのスコープとソリューション

Magic Leap社の企業基盤を支えるITになるため、対象業務範囲は広範囲になりました。財務、販売・コマース、調達・購買、生産、人事・人材、顧客サービスなど企業を支えるコア領域全般が対象でした。そのなかでも販売方法もサブスクリプション(従量課金型)への対応がコア機能として位置づけられていました。Magic Leap社はDeloitte社と共に、実現のために必要なソリューションを入念に調査した結果、広範なSAPソリューションが採用されました。主なものとして、

SAP S/4HANA
・注文から現金化するまでの一連の業務
・記録から報告までの業務
・エンジニアリングの業務および設計変更管理
SAP BRIM(Billing and Revenue Innovation Management)
・サブスクリプション
SAP Commerce
・B2BおよびB2Cのeコマース
SAP Cloud for Customer
・リードから商談の管理プロセス
SAP Ariba
・購買から支払いまでの業務をサプライヤと連携
SAP SuccessFactors
・採用から退職まで人材に関わる一連の業務
SAP Concur
・経費、領収書、国内・海外出張の業務全般

Magic Leap社が導入したソリューション全体を表現すると以下のようなアーキテクチャーでまとめられています。

Magic Leap Architecture

企業基盤導入後の成果
2020年1月末時点で、すべての導入が完了し、既に新たなグローバル企業基盤上でのビジネスが展開されています。実際使い始めて定性、定量の両面でベネフィット・成果が公開されましたので見ていきましょう。

定性的なメリット
・在庫の可視化
・請求漏れの削減
・MRPの活用により計画業務が改善
・オーダーフルフィルメントの改善により出荷遅延を削減
・期末処理の効率化
・SOX法対応
・セキュリティー対応
・ITに関わる全般統制
・RPAによる
・経営レポートのリアルタイム化
・部門横断でのコラボレーション・コミュニケーション向上

定量的なメリット
・注文処理の生産性が10%向上
・在庫の正確性が33%向上
・オーダー充足率が35%向上
・間接材管理の生産性が88%向上

このようなメリットを見てみると企業基盤を導入する前は人手でなんとか対応するも苦労されていたことがわかります。在庫が正確に把握できないと、受注の納期回答も正確に回答できず、出荷遅延を起こしたり、オーダー充足率が低くなることも容易に想像できます。人海戦術で属人的な対応から決別し、正確な情報をもとにビジネスをインテリジェントに遂行できるようになったMagic Leap社は、ビジネスオペレーションの成熟度が格段に上がり、よりMRの技術革新や市場に対するソリューションの提供に注力できるようになりました。

Magic Leap社のビジネスエンジニアリング部門のVP、Landon Cortenbach氏は導入後このように述べています。
”The SAP implementation at Magic Leap has led us to operate as an Intelligent Enterprise out of the gate, resulting in tremendous efficiencies by building flexible, integrated and collaborative systems. We have business processes and transactions that are agile, secure and scalable across the globe.”
”Magic LeapにおけるSAPの導入は、あっという間に我々をインテリジェントエンタープライズへと導いてくれました。柔軟に統合されたシステムにより非常に効率性が上がりました。我々は世界中にわたりスケーラブルに迅速かつセキュアにビジネスを遂行する基盤を手に入れたのです。”

ユニコーン企業Magic Leap社の取り組みの示唆は、決してスタートアップだけに当てはまるものではなく、属人的な業務オペレーションに限界を感じている企業にも参考になるのではないでしょうか。2020年前半はCOVID-19により、ほとんどの企業がリモートワークを強いられ、当たり前になりつつあります。従来の人海戦術に頼った過去から決別すべき時期に来ているのでしょう。COVID-19によってユニコーンも伝統企業も区別はなくなりつつあり、New Normalな時代においてはユニコーン企業に負けないスピード感が求められるのではないでしょうか。”生き残る種というのは強いものでもなければ、最も知的なものでもない。唯一生き残るのは、最も変化に適応できる種である”というダーウィンの言葉は、このNew Normalな時代においても非常に心に刺さります。この言葉は企業という単位でも同様だと思います。Magic Leap社のようにアナログオペレーションからデジタルオペレーションにスピード感をもって変化する企業こそが生き残り、成長する時代になっていくのかもしれません。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、Magic Leap社のレビューを受けたものではありません。

参考資料:SAP® Innovation Awards 2020 Entry Pitch Deck