「自社の目的」の実現にむけて、顧客をアンバサダーに : グルンドフォス社のEM(体験管理)


企業の存在価値

最近は purpose-led (目的主導型)で raison d’etre (仏語 レーゾンデートル = 存在意義) を語る企業が多くなってきたように感じます。私も以前、ブログ記事「自らの目的・使命を考え仕事に取り組む喜び」を執筆しましたが、「自分(たち)は何のために仕事をしているのか」を常に自らに問うことで、達成すべきこと、そのために行うべきこと、行うべきではないことの判断を明確に下せるようになります。

ちなみにSAPの目的はこちらです。

Help the world run better and improve people’s lives.
世界をよりよくするお手伝いをし、人々の生活を向上させる。

世界の水と気候の課題への解決策を開拓するGrundfos社

今回ご紹介したい企業は、Grundfos 社です。統計年度によって異なることもありますが、2018年の水ポンプ市場では世界トップシェアを占めていると紹介されています。

Grundfosはデンマークを基盤とするポンプメーカーで、80社以上のグループ会社によって全世界55か国で1万9000人以上の従業員を雇用、毎年1700万台のポンプユニットを生産・出荷しています。出荷されるポンプは、機種によって100万通り以上のコンフィグレーションの可能性があります。

Grundfosの目的は次のように示されています。

私たちの目的

「私たちは世界の水と気候の課題への解決策を開拓し、人々の生活の質を向上させます」

「私たち」とは  – Grundfosとそのパートナー企業群は強力な一集団と見なされています。
「解決策を開拓する」とは – 私たちは、他社ができない、またはやらないことをします。
「世界の水と気候の課題へ」とは – 私たちは、エネルギー効率とインテリジェントな水ソリューションを通じてこれらに取り組む上で重要な役割を果たしていきます。
「人々の生活の質を向上させる」とは – 私たちは根本的に人を大切にします。

では、この目的に沿って、Grundfosが設定している ゴールと、それを達成するための戦略について見ていきましょう。

3億の人々に安全な飲料水を届ける

これがGrundfosが設定したゴールです。単なる営利企業ではない目的とゴールを感じます。非公開企業であるGrundfos Holding A/S の株式の86%はPoul Due Jensen基金によって所有され、株主利益は、貧しい農村部へ安全な水を供給すること、世界の研究開発施設への寄付、弱い立場の人々の労働支援などに還元されているとのことです。

同社によると、ポンプは地球上の電力の実に10%を消費しているとのことです。トップメーカーとして、もっとよい地球を作るために何ができるかを真剣に考える必要があります。ポンプの消費電力を抑えることなどは、Grundfosが常に考えなければいけないことと位置付けられています。そのために、ポンプや、それに付随するセンサーなどに同社製品としての特長を付加するだけでなく、SAP IBPを5か月という短期間で導入し、リードタイム短縮、在庫と在庫ポイントの最適化、出荷配送のパフォーマンスを業界のベストインクラスにする、といったロジスティクス改革も行われています。

「製品向上やロジスティクス改革と同等に、あるいはそれ以上に大切なことがある」と同社の体験管理(EM Experience Management)部署をリードする Abdul Dezkam氏は、顧客体験(CX Customer Experience)管理の重要性を説きます。同社の目的とゴールを達成するためには、できるだけ多くの方にGrundfosのポンプを使ってもらう必要があります。

「顧客にブランドの宣伝大使になってもらうこと」

これが彼が立てた戦略です。コンシューマー製品あるいはアプライアンス製品のB2Cモデルではよく行われている口コミの手法です。それをポンプというB2B製品にも適用させるという訳です。

日に20万件の顧客フィードバック

Dezkam氏によると、以前、同社では年次で顧客満足度調査が行われ、NPS (Net Promoter Score) を見て顧客対応を改善していたと言います。しかしながら、そのスピード感では不満を覚えた顧客を失ってしまう可能性があります。そのために、Qualtricsソリューションを使って顧客接点からのフィードバックをこまめにとることに戦略を変更しました。電話コール、Webでの対応、フィールドサービス派遣、など毎日のCXについてフィードバックをリアルタイムで把握し、問題があればすぐに直す、そのサイクルをとにかく早く回す。日に20万件の顧客タッチポイントからのリアルタイムなフィードバックを生かすことでEMを高度化させて3年経過した、とのことです。

一般的にポンプというものは壊れにくい製品に分類されます。いったん設置したら、特段のメンテナンス無しで20年持つ、いや持たせるように製品を作るのだ、と国内同業の方からお話を伺ったことがあります。だから顧客は次にポンプのことを思い出すのは交換時期の20年後で、その間は顧客はメーカーのことも代理店のことも思い出したりしないよ、と。本当にそうでしょうか。

顧客が望むこと、顧客に望むこと

年間1700万台のポンプを出荷していて、日に20万件のフィードバックがある、ということは単純計算で、ポンプ1台あたり約25回のCXがメーカーに返ってくることになります。大口顧客からは頻繁にフィードバックを採っている、ということにもなります。それによって、見積・発注・設置・運用・保守・置換といったカスタマージャーニー (Customer Journey) と、その間の顧客接点に伴う顧客の感情や、メーカーに望むことをこまめに把握しています。と同時に、Grundfosは、顧客にポンプのお陰で保たれている仕事や生活のことを定期的に感じてもらうためのアクションを起こしているとも言えます。

製品の質向上はもとより、従業員の質とスピードをさらに向上させ、製品よりも顧客接点で他社と差別化し、顧客に「ブランドの宣伝大使になってもらう」戦略で、同社のゴールに近づき、目的を達成するために邁進しているのでしょう。


※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、Groundfos社のレビューを受けたものではありません。