中期経営課題の実現に向けた「人材確保・育成」の取り組み


SAP HR Connect 2020 Digital Days
事業戦略を支える人事の挑戦 ―多様な人材が活躍する強い組織の創り方
レポート(2)

2020年6月24日~26日、第25回目を迎えるSAP HR Connect 2020が開催されました。昨今の情勢を踏まえ初のオンライン開催となった今回、グローバルHRの課題解決と推進に果敢にチャレンジする2社の人事リーダーによる講演およびSAP社員との対談と、SAPの最新テクノロジーを紹介する計3つのセッションが行われました。
経営を支える明日の人事の役割に迫る、各セッションの見どころをお伝えします。

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中期経営課題の実現に向けた「人材確保・育成」の取り組み ―基幹人材の育成に関する基本的考え方の再構築

東レ株式会社
常任理事人事勤労部門(人事部)担当
人事部長 人事開拓室長 柳井 克之 氏

人材の確保・育成への熱い思いから次世代経営層の育成、強い現場力を担う基幹人材の拡大・底上げ、海外ナショナルスタッフの育成に取り組む東レ。一方、さまざまなツールが個別運用されることによる非効率も顕在化していました。本講演ではSAP SuccessFactorsによるグローバル人事情報統一基盤を構築した際のポイントと、人事制度再構築の取り組みをご紹介いただきました。

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企業紹介

東レ株式会社は1926年設立、連結売上2兆2146億円、連結従業員数48,031人。海外180社を含む282社が世界26の国、地域で事業を展開しています。2050年に東レグループが目指す世界とその実現に向けて取り組む課題を示す「東レグループサスティナビリティ・ビジョン」を策定。その達成に向け、長期経営ビジョン、2030年度に達成すべきサスティナビリティ目標数値および向こう3年間の中期経営課題と具体的な財務目標を設定しています。その中期経営課題では、人材の確保・育成を重点課題の一つに掲げています。

人材育成の取り組みと課題 ―社員を3セグメントに分類、きめ細かな施策を実施するも課題が顕在化

創業以来、「人を基本とする経営」を掲げる東レでは、大きく一般層、管理職層、海外関係会社ナショナルスタッフの3分類で、さまざまな人材育成施策に注力してきました。

一般層は管理職になるまでを専門性を高めるプロフェッショナル人材育成期間と位置づけ、目標管理、アセスメント、自己申告、キャリアシートなどさまざまなツールを用い、かなりのエネルギーをかけて個別人事に必要な情報を集約・蓄積。そしてこれらの情報を分野別の人事ミーティングの場で各本部と人事部が共有し、最適人事配置、育成視点での個別人事ローテーション実施に繋げています。

管理職へ昇格した後はいわゆるサクセッションプランである「人材中期計画」という制度を活用し、育成・登用を行っています。東レ本体の部長層以上のポスト、ならびに国内外関係会社の部門長以上のポストを対象に、本部単位で後継人事計画を策定。後継候補者として名前が挙がった人材については、個別の人材育成計画を策定し、これに沿って計画的育成・登用に努めています。

海外関係会社の育成・登用については、役員ポジションのナショナルスタッフ比率が約30%(東南アジアの例)に留まるなど、なかなか進展しませんでした。そのため従来のやり方を見直し、個別に優秀人材を選抜、登用する考え方とし、2017年より海外各社でも「人材中期計画」の運用を開始しました。海外各社で後継人事計画を作成、各国・地域の人事委員会で審議の上、優秀人材を認定。最終的には、各本部、担当役員と後継人事計画の内容の確認、摺り合わせを行っています。人事部としても各国・地域をラウンドし、優秀人材認定者の面談を行うなどできる限り、直接人物を確認するようにしています。

この取り組みではエクセルシートや自社開発のWebシステム、Lotus Notesのデータベースなど手作り感満載のツールを用い、運用にも非常に人手がかかる状態でした。一年中、いつも何らかの制度を運用しており、各本部も人事部も制度運用に多くの工数がかかるという具合です。

また、人事情報の収集から人事評価、昇格等の査定まで、必要な都度スタンドアロンのシステムを付け足し付け足しで構築してきたため分断され、同じ土俵の上で議論がしにくい要因になっていました。

ポストに対する後継候補者の絶対数が不足し、将来を見据えた若手の抜擢が必要なのですが、M&Aなどによる事業拡大やグループ内での事業再構築など期中でのポジションチェンジに、従来の仕組みでは対応できません。また、東レと海外各社とでリアルタイムに情報の共有ができない課題も顕在化。グローバルベースで同一の人事情報基盤を構築し、リアルタイムに情報共有できる仕組みが求められました。

図:現状と課題

図:現状と課題


 

グローバル統一の人事情報基盤としてSAP SuccessFactorsを導入 ―構築時の苦労と、社内の反響

2017年度下期に社内で検討を開始。自社開発した場合との比較も含め複数のサービスを比較検討し、製品機能、トータルコストなどの評価から、SAP SuccessFactorsを導入。「T-CAS:Toray Career development Assistance System」として、運用しています。

図:T-CAS概要

図:T-CAS概要

2018年度は基盤整備、データ移行や目標管理の要件設定を実施し、2019年度より新システムであるT-CASでの「人材中期計画」運用を開始しました。

移行時にはフォーマットの違いから従来のような柔軟な記載ができないこと、運用面では関係各署との共有方法やフロー管理、社内での複雑な上司構造への対応および権限設定に苦労しました。

T-CASによる目標管理は2019年3月から全社展開。社内からさまざまな反応、評価がありました。「使いやすい」「シンプル」「やっと最先端のツールが導入された」「管理が楽」など前向きな反響がある一方、主にベテラン社員から「使いにくい」「エクセルの方が良かった」という声は今も続いていて、まだ浸透には時間が必要です。

海外関係会社との「人材中期計画」策定も2019年度からT-CASで行うように変更しました。利用者からは「エクセルよりも作業が楽」「後継候補者の顔写真がありわかりやすい」など、非常に好評です。今後、グローバルベースでの情報共有が進み、人材の育成・登用が計画的に進むことに寄与すると考えています。

「人材育成の基本的な考え方の再構築」の取り組み ―社内ヒアリング実施で課題が浮き彫りに

中期経営課題の推進にあたってのもう一つの取り組みが「人材育成の基本的な考え方の再構築」です。従来の運用状況を社内ヒアリング、取りまとめた結果、さまざまな課題が浮き彫りとなりました。各制度で重複項目が多く、各本部での運営上も負担となっていること。制度が多いため本来の主旨が理解されない誤解や混同もあり、不十分な運用となっていることなどです。これらを解決するため、改めて人材育成の基本的な考え方を再構築することとしました。

以下が、再構築後の「人材育成の基本的考え方」の体系です。

図:人材育成の基本的な考え方の再構築

図:人材育成の基本的な考え方の再構築

新たな取り組みとして、既存制度の重複を解消、統合した人材育成の中核ツールとして「新キャリアシート」を新設しました。身につけるべき専門性やスキル、求められる経験など個別人事情報をここに集約・見える化。若手層人材育成の中核となるツールです。年1回、本人と上司が面談ですり合わせし、両者が一体となって能力開発、キャリア開発に取り組みます。

当面の課題としては制度運用の目的・運用上のポイントを整理し、分野毎に「あるべき人材像」「その人材になるために必要なスキル・経験」「モデルキャリアプラン」といった人材育成の基本方針を正しく設定することと、それを正しく社員に周知していくことです。

今後の構想と意識すべきポイント ―新システムで個別ツールの統廃合を進め、活用範囲拡大でさらなる効率化を推進

各人事制度の再構築や運用、そしてさらなる効率化に向け、人事評価などでもT-CAS活用を中心に進めていきます。これまで個別で運用してきた各ツールを、T-CASを用いて統廃合し、情報システム基盤の再構築も行っています。

図:人事情報システム基盤の統合

図:人事情報システム基盤の統合

将来的には、さらに幅広くT-CASの利用対象業務を拡大し、各種制度運用の効率化や実効性向上につなげたいと考えています。

図:T-CAS利用対象と将来構想

図:T-CAS利用対象と将来構想

また、現在はT-CASを利用していない東レと人事制度が異なる関係会社の自社社員にも活用してもらえるような仕組みを整備し、グループ全体の人材競争力向上に活かしていきたいと考えています。

その際、制度運用の効率化を絶えず意識する必要があります。今回、既存制度の運用状況を目の当たりにして、改めてその思いを強くしました。また今後、さらに取り組みを進めて行くためには、知見の蓄積も必要です。情報システム部門との連携と共に、パートナー企業との協働も不可欠。システムの全体像や基本ロジックの知見を蓄積し、今後に備えていくことが重要です。

まだ多くの課題を抱え、発展途上にあるT-CASですが、活用メリットは非常に大きいと考えています。さまざまな活用事例を共有していくことで、より良い仕組み、使い方が見いだせると期待しています。


この後、東レ株式会社 常任理事 人事勤労部門(人事部)担当 人事部長 人事開拓室長の柳井 克之氏と、SAPジャパン株式会社 バイスプレジデント 人事・人財ソリューション事業本部 本部長の稲垣 利明が対談を行いました。

対談のオンデマンド視聴はこちら

稲垣:ご講演ありがとうございました。企業は物を作るのではなく、人を創らねばならないという貴社の姿勢に大変、感銘を受けました。育成は上司の責任、成長は本人の責任というキーワードがありましたが、社内でどのように啓発されているのでしょうか。

柳井氏:事業部ごとに取り組みが異なり、受け身になりがちな部分もまだあります。今回導入したT-CASと新キャリアシートを活用して、社員一人一人がどう成長していくのかを自ら主体的に考え、行動させていく意識改革が大切だと思います。

稲垣:本人の意向を尊重してのジョブローテーションなど、きめ細かな対応をされている御社では、働き方の多様化を受けてやりやすくなった点、新たな課題などがあればお聞かせください。

柳井氏:T-CASを導入し人事制度の大幅な刷新を行う中で、ペーパレス化やワークフロー化など先進的なやり方に戸惑いを覚える社員もいました。しかし、システム上で向き合ってコミュニケーションを充実させていくといったことはこれからの働き方に欠かせませんので、しっかりと浸透させて、風土を変えていこうと考えています。

稲垣:事業部門と管理部門で育成方針を分けて考える、あるいは結果的に異なるということはございますか。

柳井氏:確かに営業、技術職などと総務、経理部門では育成の方針は異なります。例えば人事は最初、工場に配属して労務管理を学び、その後本社、関係会社へ異動して人事の役割を俯瞰で捉えてもらうなど、体系立てた育成を行っています。

稲垣:ダイバーシティについてのKPI、数値目標は持たれていらっしゃるのでしょうか。

柳井氏:例えばナショナルスタッフの幹部登用率など、数値目標を達成せんがために形骸化してしまうといった反省もありました。それよりはT-CASシステム上でしっかりと向き合って本当に必要な人材育成を行うという方向に舵を切り、取り組みを進めています。

稲垣:人材中期計画において、事業拡大や新規事業の新規ポジションに対する先回りの検討は多くの企業でお悩みです。どのように取り組まれているのでしょうか。

柳井氏:ここは従来のエクセルシートのやり取りでは難しかったのですが、T-CASの新システムではリアルタイムに、フレキシブルな検討が可能になります。これも今回の導入の目的の一つです。

稲垣:御社は歴史の中で何度も主力事業の変革を経験されていますが、弊社SAPも同様です。そういった変化に強い人材の育て方について教えていただけますでしょうか。

柳井氏:当社はこれまで何度も厳しい経営環境を乗り越えてきた経験から、高付加価値商材、新サプライチェーン、新技術開発など、新たなものを生み出し続けることの重要性を共有する企業風土に変わってきたと感じています。


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